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第29話 『こんなの膝枕じゃない』


 俺は目を覚ました。

 慣れないゴツゴツした感触に囲まれている。

 ベッドに寝ているわけではなかったっぽい。

 俺は視界が開いた瞬間に気づいた。

 なんと……俺はゾルラードに膝枕をされていた。

 厳密に言えば、身体全体がゾルラードの膝の上に収まっていたので、膝枕というよりも、俺がまるで人形のようにその膝に乗っかっている状態だった。

 自分の滑稽な姿を想像してしまい、思わず笑ってしまった。


 しかし、頭の痛みがひどい。

 鋭い痛みが脳を圧迫している。

 ユリシアの治癒魔法が恋しい。

 アルフの言う通り、俺にはユリシアの治癒魔法が不可欠だったようだ。

 膝枕もユリシアの方が良かった……

 心の中でそうぼやきながら、俺は痛みに耐えていた。

 

 「おうおう、なんだか不満そうな顔してるじゃねえか」

とゾルラードが豪快に笑い声を上げた。

 そのたびに膝が揺れて、まるで地震でも起きているかのような錯覚に陥る。


「当たり前ですよ……こんな寝心地の悪い寝床……」

と俺はぼやいたが、その瞬間、揺れに耐えきれず膝から転がり落ち、地面に叩きつけられた。


 バッ、バッ!


 と突然、地面を蹴る音が耳に届く。

 どうやら亡骸ヴォーンホルンはまだ生きているらしい。

 ゾルラードも奴を倒していないようだ。

 そして、魔物の狙いは俺に定められている。


「こいつ、本当に雑魚なんですか?」

と俺は疑いの声を上げた。


「当たり前よ。顔面掴んで、握ればそれで倒せるぞ」

とゾルラードが自信満々に答える。


(あんたはな。俺にとっては今まで対戦してきた中で一番強いんだが……)


「あ、あの……他に倒し方ってあったりしますかね……」


 頼る相手はゾルラードしかいないと感じた俺は、藁にもすがる思いで尋ねた。

 すると、意外にもまともな返答が返ってきた。


「そうだなー……あいつの身体は霧でできてるから固体の頭部を攻撃するしか、俺らはできない」

「なるほど?」

 

 と俺は相槌を打つが、次の言葉が続いた。


「だが、お前の弱さでは頭部をいくら攻撃しても倒すことはできないだろうな」

「ちゃんとしたヒントをくださいよ!!」


 俺は苛立ちを隠せず叫んだ。


「ヒントはあげてるじゃないか、真正面で戦えば負けると……さっきみたいな動きでいいんだよ。相手の不意打ちを狙え」

とゾルラードは平然と言い放つ。


 その言葉に、俺は何かを掴んだ気がした。

 そうか。

 真正面からではなく、背後や側面を狙えということなのだ。

 奴がどれほど強大に見えても、ヴォーンホルンの本質は結局のところ、ヤギである。

 そしてその身体の大部分が霧で構成されている。

 確かに頭蓋骨は強固で、二本の角も相まって正面からの衝撃には耐えるだろうが、背後からの攻撃には弱いはずだ。


 だからこそ、スプリントウルフの敏捷性を活かして、背後から突進すれば勝機が見える。

 ヴォーンホルンの身体が霧でできている以上、背後から頭蓋骨を狙うことは可能なのだ。

 俺はその戦略を胸に、再び立ち上がる決意を固めた。


 考えを巡らせていると、ゾルラードが短く「遅い」と言い放った。

 その言葉が俺を思考から引き戻した。

 振り返る間もなく、ゾルラードは悠然と亡骸ヴォーンホルンに歩み寄る。

 そして、その巨大な手で奴の頭部を掴むと、まるで虫を潰すように容易く握りつぶした。

 瞬間、亡骸ヴォーンホルンの躯体が崩れ落ち、地に伏した。


「えー……やっと倒す筋道が見えたのに……」

俺は肩を落とし、ため息混じりに呟いた。


「お前、遅いんだよ。先にベルタたちに他の敵を倒されたら俺が困るだろ」

とゾルラードが言葉を重ねた。


「でも……」

「悪かったぜ」

と、彼は申し訳なさそうに言った。


 その瞬間、視界が歪み、俺たちは再びロックス迷宮へと転移された。

 突然の転移に驚いた俺は、ふてくされた顔で呟いた。


「絶対倒せたのに〜」

「悪いって言ってんだろ」

とゾルラードが再度謝罪するも、俺は拗ね続けた。


「まあいいですけど〜」

と子供じみた口調で応えたが、心の中ではまだ納得できていない。


「なんか言いたそうだな」

とゾルラードが俺の表情を見透かすように言う。


「当たり前じゃないですか! 多分ですが、倒せたんですよ!」


 俺は感情を抑えきれず、まるで駄々をこねる子供のように拗ねた。

 ゾルラードが妙に大人びて見えるせいか、余計に苛立ちが募ったのだろう。

 俺はつい床をふざけて蹴り始めた。

 その動作にゾルラードはしばし黙っていたが、ふと口を開いた。


「そういや、お前《外見変化》持ってんのか?」

その問いかけは予想外のものだった。


「え……?」


 俺は驚きで声を漏らした。

 まさかこのスキルについて知っている人物が現れるとは思ってもみなかった。


「このスキルのこと知ってるんですか!?」

「ああ、俺は持っていないがな」

「どこで知ったんですか?」


 さらに問い詰めようとする俺に対して、彼は少し考え込むようにしてから、関係のない話を語り始めた。


「……かつて奴は、強大なヤギの覇者であった。自慢の強靭な肉体を持ち、立派な角を持つ奴には敵がいないように思えた。ただ、誰にでも衰えが来る」

「急になんの話ですか?」


 俺は戸惑いを隠せず尋ねる。


「衰えたヤギはある日、とある魔術師に出会った。その魔術師は奴にこう言った。『力を取り戻したいか?』と。そいつは快く引き受ける。ただ、魔法を喰らった瞬間、奴は死んだのだ。強靭な力と引き換えに、奴は魔物へと姿を変えてしまった」

「そ……それが、あの亡骸ヴォーンホルンの誕生秘話ってことですか?」


 俺はまた戸惑いつつも尋ねると、ゾルラードは静かに頷いた。


「ああ、そうだ」

と彼は簡潔に答える。

 確かに、ヴォーンホルンは見た目こそ骨で出来ていて、生気が感じられなかったが、魂も無いように思えた。

 きっと生きる心地がしなかったのだろう。

 

 その次にゾルラードが口にした言葉で、話の意図が少しだけ理解できた。


「昔ながらの友人に、俺の知っている魔物の昔話を話すと喜んで聞く奴がいたんだ。《外見変化》を持っていた」

「え……」


 俺は思わず息を呑んだ。


 どうやら彼の友人も《外見変化》を持ち、俺と同じく、そのスキルを探りつつ使っていたらしい。

 ゾルラードは、そんな彼に知っている限りの魔物の詳細を教えたのだという。

 それが彼の助けになっていたのだろう。

 

 さっき亡骸ヴォーンホルンを勝手に倒したことへの彼なりの詫びだったのかもしれない。

 それでも、俺にとってはありがたい情報だった。


「ありがとうございます、ゾルラードさん」


 俺は素直に感謝の意を述べた。


「俺も悪かった」

と彼も応え、気まずさを残しつつ、二人の間に和解の雰囲気が漂う。


 その後、俺はゾルラードの話を元に、亡骸ヴォーンホルンの姿に成り切る訓練を短時間ではあるものの重ねた。

 そして、遂にその姿を完全に再現できるようになった。


《外見変化: 亡骸ヴォーンホルン……習得しました》


「《ガイド》、ステータス!」


 俺は自信を胸に、ステータスを確認する。

 そこにはしっかりと、亡骸ヴォーンホルンの名が刻まれていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ステータス

 名前: ルクセリオ=???

 種族: 人間

 性格: 冷静

 スキル:

- 多言語

- 剣術 lv24

『外見変化』:

- 中沢煌

- ゴブリン

- オーク

- スプリントウルフ

- アーマードゴーレム

- *亡骸ヴォーンホルン*



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