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第9話 『全種族辞典』


 あれから、二年の月日が経った――。


 急なことだが、二年が着実に経った。

 そして、俺は十六歳になった。

 年齢や誕生日は把握してないので、見た目からして十六歳だと言うこと。

 誕生日はないが、俺が居候し始めた日をワイナレット家は祝ってくれる。

 嬉しかった。


 オークとの一件があって、俺は剣術の訓練を始めた。

 イシアが担当してくれた。

 それにしても、彼女の見事な剣術には何度見ても目を奪われる。

 まるで舞踏を思わせる優雅な構え。

 それから、繊細でありながらも鋭い剣さばき。

 そのすべての動き。

 一瞬一瞬に込められた洗練された美しさを、たとえ素人の目であっても感じ取ることができた。

 加えて、なんと言っても、剣を振る時に揺れるタワワが非常に立派だ。

 祈りを捧げたいと思うほどに。

 それによって集中力が切れるのが、欠点だが。


 そして俺は、初期段階で習得したスキル『剣術』をレベル十八まで上げることができた。

 今では外見変化を伴わずに、オークを倒すことができる。

 今思えば、あんなにも弱いオークに死を覚悟したのが恥ずかしく思える。

 だが、つまり成長したということだ。


◇◇◇

 

 アルフとは《外見変化》スキルの実験を続行している。

 さらなる研究と実験の繰り返しの末に驚くべき発見があった。

 

 対象の外見だけでなく、その能力までも模倣できるということだ。

 

 例えば、オークだ。

 その特徴と言えば、その屈強な力がまず思い浮かぶ。

 しかし、彼らにはそれ以上の能力がある。

 オークが放つ遠吠えは、瞬時に仲間を呼び寄せる力を秘めている。

 だから、俺は二年前のあの日、オークに囲まれて死にそうになったのだ。

 それは別として、俺がオークに外見変化すると、その恐るべき能力までもが使えるようになるのだと判明した。

 無双のルートが見えてきた。


 ただ勘違いしてほしくないのは、俺は〔まだ〕強くない。

 《外見変化》スキルを使う為には対象の情報を集めないといけないからだ。

 さらに、成り切ることも容易ではない。

 俺はオークに成り切る為に、ただの動く石になった。

 だが、それは簡単ではなかった。

 少し油断をすれば、すぐにルクセリオに戻ってしまうからだ。


◇◇◇

 

「ルーク君、全種族辞典をご存知ですか?」

 

 いつものように、アルフの地下実験室で実験を行っていた時のことだった。

 アルフがふと、俺に問いかけてきた。

 「全種族辞典」という言葉を耳にしたのは、その時が初めてだった。


「なんですかそれ? 聞いたことないです」

「そうですか」

 

 アルフは淡々と「全種族辞典」のことを説明してくれた。

 ――何百年も前にロックス=ノベールという名の天才学者が編纂したものだという。

 彼は自らの足で世界を巡り、すべての生物を観察し、その詳細を丹念に記録していった。

 その成果が、この「全種族辞典」だと。

 世界の生物すべてについての情報がびっしりと書き込まれたこの書物は、学者たちの夢を形にした究極の記録物なのだと。


 アルフの言いたいことは分かった。

 その辞典があれば、《外見変化》できる標準が一気に増えるということだ。


「便利ですね! それはどこで購入できるのですか?」

「残念ながら、購入はできない」

「え……じゃあどうやって手に入れるんですか?」


 気づけば質問攻めをしていた。

 アルフ自身、それを喜んでいるようにも見えた。


「ロックス迷宮で手に入る」

「迷宮ですか」

「ああ、そこに全種族辞典はあるとされている」


 アルフの言葉遣いが少し引っかかった。

 ロックス迷宮と言った時は自信を持っていた。

 だが、俺が迷宮と聞き返した時に明らかな不安を見せた。

 

『あるとされている』

 という言い回し。

 気になった。


「確認された事はない。なぜなら今まで攻略された事はないから」


 何を言うかと思えば、そういうことか。

 それほどまでに何度な迷宮なのだろう。

 

「そうなんですね。それほどまでに難度な迷宮という事ですね」

「いや、そういう訳じゃないんだ。そもそも、今までロックス迷宮の存在自体が明らかにされていなかったんだ」

「え?」

「風の噂だが、最近発見されたらしい。それもニレニアという小さな街の近くでだ。だから冒険者にもまだ手をつけられていない」

 

 何を言いたいのかは大体分かった。

 直接言われなかったが、なんとなく気づいた。

 俺は医者としての仕事があるから、お前が取ってこい……だろ。


「ぜひ取ってきてくれないか! 全種族辞典が手に入ったら、《外見変化》スキルの研究もさらに進められるはずだ!」

 

 ほらみろ。

 それに、俺は人の言いなりになるのは嫌なんだ。


「こ、困ります! 俺は迷宮どころか冒険にも出たことがないんですよ?」

「そ、そうだよな……」


 なぜ俺に頼む。

 貴方の奥さま、バカ強いのに気づいてないんですか?

 それに世界中の学者がこぞって狙う書物なのであれば、すぐに世間一般にばら撒かれるのではないのか?


「他の学者に渡るのは、まずいのだ……」


 何がまずいのだ。

 それが理想的だろ。

 

「他の学者の手に渡れば、全種族辞典は独り占めにされてしまう」

「あー、そんなにがめつい奴ばっかなんですか、学者って」


 残念だぜ、アルフ。

 お前もそこまでがめつかったなんて。

 もう、お父さまとか呼ぶのはやめちゃうぞ〜??

 

「そうだ、だが私は違う。私は『全種族辞典』を広く世間に普及させたいと思っている。それによって世界中にその知識が行き渡れば、世界がさらに進化する様子を見られると信じているんだ」


 おーっと。

 ……学者の鑑じゃないか、アルフってやつは。


「頼む! 俺はベテンドラ大病院としての仕事を休むわけにはいかないんだ! 頼れるのは、お前だけなんだ!」


 断りずらい。

 非常に断りずらい。

 とりあえず、一日考える時間をくれと言っておいた。

 だが、断る理由を考えるのも面倒くさくなってきた。


 まじで、どしよ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ステータス

 名前: ルクセリオ=???

 種族: 人間

 性格: 自信家

 スキル:

- 多言語

- 剣術 lv18

『外見変化』:

- 中沢煌

- ゴブリン

- オーク

- スプリントウルフ

- アーマードゴーレム

 

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