協会にて: “監視者”
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「私の考えならば、“三日後”、そして昼過ぎ。…ですかね。」
シエスフィアのその言葉に先に反応したのはエトだ。
「…その理由は?」
「魔女は警備の隙間を狙いたい。なら、直ぐに動く事は無いです。警戒されてると考えるので。それにブレイクさんが彼女に深手を与えているのもあり余計に有り得ないでしょうね。したがって警備が少しでも薄まる頃、つまり数日経ってから来るはず。その条件なら必然的に動員出来る人数が減っている平日である三日後、さらに交代のタイミングを狙える昼過ぎ、其処で動くでしょう。」
彼女は淡々と答える。
「それより粘られる可能性は?」
「回収を目的として来たならなるべく早く戻りたい筈です。その上四日後からは休日に入りますから。」
実質的に選択肢は三日後しか無いだろう。
「…成程。筋は通る。来そうな場所とか分かる?」
「…確実的な情報ではなくなりますが、観測されている地図データからはこの位置だと思いますね。」
彼女は指差す。
「無法都市…西端?」
「彼女がその魔導具を扱うであろう位置ですね。」
「流石に都市内だよな…。入らないと行けないか…。」
「とはいえ時間が分かっているなら短時間で済む筈だからある程度は大丈夫だと思うわ。」
「まぁ…そうか。あ、因みにそこの根拠は?」
「建物も少なく、大した物も無い場所。魔物も沸きやすく、無法都市の中ですらあまり其処にいるのは推奨されない。とは言え、大々的に魔法を使うなら悪くない場所。向こうが戦闘になると予想しているならば、ここはかなり悪くない場所。」
「戦闘になると予想出来るの?」
ブレイクのその疑問にシエスフィアは問う。
「ブレイクさん、あなたが会って交戦した、その魔女。あなたから見てどうでした?」
少し悩んだ後、彼女は答える。
「……私と同類、能力の性質も、自身の気質、性格も。」
少なくともステラは戦いを楽しんではいた。
その上、それに広範囲が欲しいと考えるならば…。
「ならば恐らく此処で良いでしょうね。」
「おー成程…。分かった。」
ここまでは問題無い。
唯、一つあるとすれば。
「とはいえ、この地図は20年前のもの。無法都市は定期的に地形ごと変化するとも聞きます。今もあってるとは限りません。せめてその地形変動がどんな風に動いたかさえ分かれば…。」
そう、無法都市なんてそもそも行く者はいない。
むしろ地図がある方が凄いのだ。
「うーん、位置の前提が崩れたら無理だもんねぇ…。」
「むしろだからあの場所は中継地点として優秀なのよ。攻め入るにも問題点が多すぎるから。」
「だよねぇ…。……あれ?シエス?」
シエスの様子が変わった。
何をするつもりか。
「もしかして…使うつもり?」
「…使いたくは無いですが、こういう時は仕方ありませんから。」
シエスフィアはそう言いながら再び眼を瞑る。
そうして意識を深く潜らせる。
彼女は辿る。
誰か持つ眼を通じて。
その眼はどこまでも入り込んでいく。
人の、犬の、猫の、鳥の、虫の、そして機械の眼にすら。
あらゆる眼を乗り継ぎ、渡り、世界を視透す。
それはかの都市の妨害結界をも突破し、その瞳に真実を映す。
此の時、ほんの一瞬だけ上空に無数の巨大な眼がうっすらと現れ、そして消えていた。
白く薄い金色の髪を持つ少女は全てを視透す。
……視えた。
まるで透明かの様な灰色の眼が薄らと開かれた。
「…っ、ふぅ…、どうやら、変わってはいない様です。」
眼を抑え、疲労を感じさせながら彼女は言う。
「なら…。」
「ええ、無法都市西端、アトビス。若干の変化で少し砂漠化していますが…まぁ誤差ですね。」
シエスフィアは汗で顔に貼り付いてきた白金髪を退けつつそう答えた。
「よし…ありがと、助かったわ。」
ブレイクは礼を言う。
これで場所は分かった。
後はその時を待つだけ。
…それにしても。
「…ほんと、相変わらずエグいよ監督ちゃん。」
思わず言葉が溢れる。
当たり前だ。
あの無法都市を唯一外から観測出来る存在なのだから。
ただ、本人からしたらそうではないようで。
「私からすれば、使用後最低5日は使用不可になるピーキー過ぎる能力なのでもっとどうにかしたいのですが。おまけにもの凄く疲れるんですよ。眼も痛くなりますし。てゆうか痛いです。」
シエスフィアは愚痴る。
「いつも使えないってのは不便だけど、その能力を考えたら仕方ない気もするけどね。」
「それにしても、もう少し普遍的に使わせて欲しいですよ。」
エトはそんな彼女に呆れた。
「貴方ね…それが出来たら魔女会なんてとっくに滅んでるわよ、“監視者” 」
シエスフィア。
ランキング圏外のS級魔法少女。
余りにも特異的なその魔法を持つ彼女は、こう呼ばれた。
世界を盤上から見下ろす者。
“監視者”
「あんまりその名前で呼ばないで欲しいんですが…それに、それでも滅びはしないでしょう。あの連中はしぶといので。」
「それでも、大抵の魔女は片付くわよ。」
「…まぁ、この力が相当の出鱈目なのは今に始まった事ではないです。もういいでしょう。」
シエスフィアは嫌そうに言う。
この力はあまり好きではない。
なんせ視え過ぎてしまう。
…眼が、痛い。
「あれ、大丈夫?なんかいつもより疲れてない?」
「結界を突破するのにわざわざ面倒臭いやり方をしましたから。…本当はそのまま行ければ良かったんですが。」
全く、面倒な結界だ。
「そもそも突破出来るのが凄いんだよね。いや、本当。」
「感心はいいですから普段からちゃんと魔物を討伐して下さいよ。」
「めんどい。」
「働けサボり魔。」
「私よりアリスの方がサボってる。」
「下を見るな下を。…まぁいいです。それで、あなた達はどうするのです?」
シエスフィアは問う。
位置も時間も大方判明した。
なら、どうするのか。
「私は当然、あんな終わりで満足していないから。行くよ。」
「なら、私は外で索敵をしているわ。貴方の魔法に巻き込まれるのは御免よ。」
「エトなら死にはしないでしょ。」
「そういう問題でもないの。…でも、それだと少し戦力的に不安じゃない?」
「強さ的には多分私=ステラだから、もう1人、クローバーの対処を何とかしたいかな…。」
「エトさんじゃ駄目なんです?」
「問題は無い。唯、既に他の仲間が居るかも知れない。私はその為に索敵をしていた方がいいわ。」
「そうですか…。」
「とは言えどうとでもなる。ソイツは単騎でいた方が強いタイプよ。下手に仲間が居るより相手が増えた方がマシだったりするから。」
つまり、援軍は呼ばない。
「にしても、それかなり厳しい戦いになるねぇ…。」
「その方が好きなんでしょ?」
「よく私の事理解してんじゃん。」
ブレイクは屈指の戦闘好き。
多少の逆境は彼女の好物だ。
「決まったようですね。それじゃあ、私は仕事に戻りますから。」
「いや、まだ働くの?」
「まだ処理すべき事が沢山残ってるんです。それを終わらせないと。」
「…流石にその能力使った後は休んだら?」
「休みながら仕事は出来ますよ。」
「…まってまって意味が分からない。」
根っからの仕事精神すぎる。
これが、仮にも副会長の姿だというのか。
本作にてバランスブレイカーの一角を占める存在であるシエスフィア(社畜)さん
コイツを出すとマジで話作るのばかむずくなるから本当は入れたくなかったっていうね。
まぁ、監視系能力者は絶対入れたかったから仕方無いね、うん。