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11月のアゲハ

作者: 夏野ツバメ

 私の家ではいつ頃からかアゲハ蝶を育てている。


 別に養殖をしている訳ではなく、暖かくなると庭で育てているレモンの木に勝手に産みつけられるのだ。今年は例年に比べ残暑が続いたせいもあるのか、11月初頭に入ってもまだ数匹の幼虫が青い葉をむさぼっている。


 黒い芋虫は成長すると緑色に変わり、その後サナギを経て鮮やかな蝶へと完全変態を遂げる。この期間は個体差もあるが約三週間ほどだろうか。サナギから蝶へと変わる時期はとても繊細で、毎年数匹はそのまま死んでしまうか羽が不完全の状態で産まれてくる。

 

 今年は4匹程そんな個体が産まれた。2匹はサナギのまま産まれる事もなく、もう2匹は完全に羽が開かない状態で産まれてきた。


 私は極力飛べない蝶の世話をして延命させるようにしている。


 それが彼らにとって不幸な事かもしれないのは、自分でもよく解っている。しかし、せっかく長い時間をかけて生まれ変わった命を無下に終わらせてしまうのはとても忍びない。エゴだとわかってはいるのだけど、どうしても世話を焼きたくなってしまうのだ。


 今年産まれた羽の不自由な2匹のうち、後に産まれた一匹が数日前に動かなくなった。片方の羽が欠損したメスの個体であった。


 昔、誰が言っていた。


『虫は神経の信号で動くから感情がない』


 私も初めはそうだと思っていた。懐くことなど無く、ただ本能で生き抜く蝶。


しかし、その蝶は確かに違った。


 蜂蜜を水で溶かした餌に初めは興味も示さなかった蝶。爪楊枝で口を伸ばすと喜んで吸い上げていた。飛べない変わりに自由にカーテンを登らせたり、庭の草木の上へ連れ出すこともした。


 今年の夏は本当に長かった。


 9月の昼下がり、まだ夏の余韻が続く庭で蝶は飛べない羽を羽ばたかせていた。


 

 つい数日前の事、羽はようやく止まった。6本あった足は前足を残して無くなっていた。


 私が仕事へ向かう前、いつものように蜂蜜の餌を用意したばかりの出来事だった。まるで待っていたかのように最後の羽ばたきを見せてくれたのだ。



 エゴだと解ってはいる。


 ただ私は最後まで生き抜いたと信じたいだけ。

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