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宇宙創記ドミナントレガシー  作者: ZINDUSTRY
第一部
5/29

【EPISODE4 MIRAGE(ミラージュ)】

●配役表


ベリオ♂:


フラワ/幼フラワ♀:

フィオナ♀:

幼ベリオ♀:(※フィオナと兼ね可)

幼ディール♀:(※ディールと兼ね可)


ディール♂♀:


●男女比率

最小4人【♂1・♀2・不1】

最大6人【♂1・♀4・不1】




<時は過ぎて1ヶ月後。ムロウル家の玄関前で顔を合わせるベリオとフラワ。

フラワの手には、生成されたOBLOM鉱石の液体の入った試験官が握られている>



フラワ:...なんであんたが緊張してんのよ。


ベリオ:当たり前だろ!効かなかったらどうすんだよ....


フラワ:おバカ。パパの出席する議会でも先日OBLOM鉱石の薬用開発の特許が出たんだから。

しかも製造も易しい(やさしい)らしくてね。

製造方法のファイルもNOAH派遣の責任者の承認付きで企業への公開の最終調整中らしいわ。

資料もパパがもらってきてくれて、精製もすんなりうまくいったもの。

人体に効く、って天下のNOAHのお墨付きが出てるのよ。ほら。


<そう言って端末を操作してOBLOM成分の承認が降りている書面のデータを見せる>


ベリオ:....おぉ、確かにな。よく分からんけど。

このデカハンコがあるってことはそうなんだろ。....じゃ、入るぞ。


<そう言ってディール家に入る>


フィオナ:...いらっしゃい、ベリオ。

それに...フラワちゃんかしら。 大きくなったのね。


フラワ:お久しぶりです、フィオナおば様。....お体の具合は、如何でしょうか。


フィオナ:最近は安定しているの。痛みもなくなって...

ベリオ、綺麗なお花をありがとう。....ディールも喜んでいたわ。


ベリオ:...それはよかったです。....、少し花の位置を変えましたか?

あと...ディールは?


フィオナ:ディールは先月の軍備緊急拡充承認会議(ぐんびきんきゅうかくじゅう しょうにんかいぎ)の後処理の為にまたしばらく家を空けることになっていてね。

静かな空間が好きな私にはちょうどいいくらいよ、うふふ。

そうそう、お花の位置なのだけれど...会議の直前にディールが家に帰ってきてくれた時に変えたんだったわね。

直射日光が花にあたるのは良くないらしいわ。それで....。


ベリオ:今からの手筈、ですね。まずはメールで送った通り....

OBLOMオブロムという特殊な鉱石の成分を精製した液体をフィオナさんに点滴で投与します。

6時間毎に容態の観察を行って、....歩けるようになれば、セントラルエジソンの運営する静かな庭園があるんです。

そこで.....ディールも誘って、スペースミルフラワーの広い畑で。

オレが小さいときよく淹れてくれたフィオナさんの特性の紅茶を飲んで.....


フラワ:ベリオ。点滴のセッティング。


ベリオ:....悪い。フィオナさん、ちくっとしますよ。


フィオナ:あなたに子ども扱いされる日が来るとはね、ベリオ。


ベリオ:っち、違いますよ!

俺にはこういう注射をする側の経験なんて無かったので、本当に痛かったらって....


フラワ:仲良いわよね、アンタとおば様。イチャイチャしてんじゃないわよ。


ベリオ:イチャイチャだと!!!!恐れ多い!!!!


フラワ:武士みたいな顔で武士みたいなこと言ってんじゃないの。....開始っと。



<フラワの声に呼応するようにぴちょん、ぴちょんと水滴が落ちていく点滴。>


フィオナ:....二人とも。私のこのOBLOMオブロムの摂取がうまく行こうと行くまいと...。心を平常に保つこと。

そして、うまく行ったのなら...人々の役に立てて頂戴ね。

うまく行かなかったのなら....自分を責めないこと。

そして....失敗の原因を追究して、やはり人々の役に立つようにしてほしいという事。

約束をして頂戴ね。


ベリオ:分かりました。約束します。


フラワ:了解です、おば様。





<12時間後。静かに寝息を立てて眠るフィオナの横で、月明かりに照らされるフィオナを眺めるベリオ。

部屋では血圧と心拍数測定機の規則的な電子音が時計の代わりと言わんばかりに鳴り響く。

その空間を切り裂くように、フラワが部屋の扉を開けて口を開く。>


フラワ:交代よ。...なーによ、目にクマ作って。

やれることはやった、データもとった。アンタがフィオナさんを眺めて状態は良くなんの?


ベリオ:....もうちょっとだけ。....なぁ。もし、うまく行かなかったら。


フラワ:おば様の前でする話かしら?


ベリオ:....怖いんだ。このまま....目を覚まさなかったら。

ディールになんて言えばいいのか。自分を許せるのか。

...毎秒毎秒吹きあがる不安を、....毎秒毎秒せき止めるような感じだ。

苦しくて...重たくて....皮膚が焼かれてしまいそうな....



<声が階段を下りるように小さくなっていく。

眠気が限界になってしまったのか、椅子から前のめりに倒れ込むベリオ。それを抱きとめるフラワ。>


フラワ:......怖がりで、ケンカも弱くて。意地汚くてひねくれてて、嫉妬しいのスケベのロクデナシで。

...おまけに、不器用なんだから。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<場面転換、ベリオの夢の中の情景。幼ジロと幼ディールが出てくる。>


幼ベリオ:おまえさあ おまえさあ


<絆創膏まみれの膝や手。泥にまみれて、泣いた後もうっすらと見える幼ベリオ。>


幼ディール:なんですか びりおさん


<砂場で小さな砂の城を作っている幼いディール。

目元は少しだけ赤く、同じように頬もなにかにぶつけたように赤くなっている。>


幼ベリオ:こえ(これ)。


<絆創膏まみれの手で差し出されたぼろぼろのロボット>


幼ベリオ:こえおまえのでしょ。おえ(おれ)さ つよいから。ケンカして取り返してきた。


幼ディール:......ひざ、いたくないんですか。


幼ベリオ:なにが?けんかならよゆうでかったから。


幼ディール:......ぐすっ。


幼ベリオ:えええ!!!なくな!!!よわっちょ!!!


幼ディール:....びりおさんがなかないから。ぼくがかありにないてあげてるんです。


幼ベリオ:......えへえへえ


<ぐにゃって笑顔でベリオも涙をためながら笑う幼ベリオ。そして世界がぼやけるように夢が覚めていく。>


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<紺色の皮のソファーで横になっているところからハッと飛び起きるベリオ>


ベリオ:...っっっはぁっ!!!


ベリオ:......慰めみてえな夢だったな。


<そう言いながらも微笑むベリオ>


ベリオ:....頭痛え。.......っ、フィオナさん!!!!!!



<息を切らせてフィオナの自室に飛び込むベリオ>


ベリオ:フィオナさん!!!!!!


フラワ:あによ。ダミ声が耳に響くからやめてくれる。


ベリオ:....っ、どいてくれ!!フィオナさんは!?!?!?


フラワ:あっちょっと、まだ...


<フラワをどかして、フラワの背後の医療用カーテンをさっと手で開け>


ディール:....そう、母さん。右足が少し重い、ですか?

あははは、右足と右手が両方出ちゃってますよ。


フィオナ:いやだ、こんなに恥ずかしい姿を晒すことになるなんて...、

そうね、ディールは右の肩を支えてくれるかしら。


<現れるのはディールとフィオナが和気藹々と歩行練習をする姿。

窓からは暖かく光が差し、オレンジ色に輝くスペースミルフラワーが輝いていて。

そして、その光景にぺたん、とゆっくりと地面に膝をついてしまうベリオ。>


ベリオ:......。


フラワ:病み上がりの病人の居る部屋にイノシシみたいに突っ込んで。

呆れた。寝癖ぐらい直しなさいな。

......晴れの日に相応しくないでしょう。


ベリオ:......あぁ.......。


ディール:...ベリオさん。見てください!!

ずっと弱い風邪のようなもので...余り動けなかった 母さんが...!!


<ぱぁぁっと笑顔でベリオを見るディール>


ベリオ:あぁ.......!


<ぶわっと涙があふれ、それを手で拭う事もせずにぽろぽろと涙をこぼし>


ディール:....ベリオさん? ...どうして泣くんですか。


ベリオ:....うるせーな。お前が泣かねーから...


フラワ:...男同士って、めんどくっさ。


フィオナ:さあさ、三人とも! ゆっくりと散歩でもしましょう!

セントラル直産のフレイドルチェ茶葉があったはず...、紅茶を淹れてくるわね、うふふ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<場面が変わり、セントラルの運営する庭園で歩く四人>


ベリオ:そんで、そんで!オレが言ってやったんすよ!

「ケンカに勝ってもぬわんにも得られねえぜ ジャリボーイ」って!!


フラワ:そのケンカ吹っ掛けたのはアンタでしょうが。


ベリオ:ぐ、ぐぬぬ


ディール:僕が助けに行ったころにはお金もとられかけてベソかいてませんでしたか?


ベリオ:ぬ、ぬぬぐ


フラワ:しかもなぜかうさぎ跳びさせられて<セリフが途中で遮られる>


ベリオ:ハイもうこの話終わり!!!!おもんないから!!!!

ハイもう終わりよ!!! 眠っ!眠たっ!!!!!!


フィオナ:うふふ。相変わらずベリオは愉快な子。


ディール:ベリオさんのその明るさにも、実際僕も助けられてもいますしね。


ディール:....ん、基地局からコールだ。.....。


<申し訳なさそうにちらと周りを見やるディール>


フィオナ:いいのよ、大事なお仕事ですもの。気にせずに出なさい。ディール。


ディール:では、少しだけ。はい...はい。

拡充軍備かくじゅうぐんびをNOAHまで即の輸送承認!?

造っては送り、造っては送り...ですね。

このコロニーの為の軍備生産では無かったのですか?

...いえ、遂行には疑問など。は。分かっております。


フラワ:......なーんか


ベリオ:カンジ悪そ~な相手だな。


フィオナ:私がもう少し若かったらビンタをお見舞いするようなお人柄の方ね。


ディール:然し今日の予定は事前に申請したものであり...!!!


フラワ:....フン


ベリオ:.....ううう(何かを悟ったかのように耳に指で栓をする)


<刹那、フィオナがディールの手から携帯端末を取り上げ>


フィオナ:初めまして!!!!!!!!私!!!!!!!!!ディールの母親のフィオナ・ムロウルですが!!!!!!



フラワ:.....うっそ。


ディール:....母さんは元来“ああ”なんだよ...。


ベリオ:...そもそも熱い人なんだよな。

寝込む前とかこういうのしょっちゅうだったもんな。あと声量計ってみていい?



フィオナ:ええそうです!!!!!!!!!!!!!現ムロウル家当主の!!!!!!!!!!!

フィオナでございます!!!!!!!!失礼ですが!!!!!!!!!!!!

本日はディールの休暇申請が受理されているものと思いますが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


フラワ:...母は強し、ね。


ディール:こういうところも勿論好きなんですがね。あははは。


ベリオ:82dbだって!!!!おい!!!!82!!!!!!


フィオナ:ええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

それでは!!!!!!!!!!!!失礼します!!!!!!!!!!!!!!!!!


フィオナ:....ふう。はい、ディール。無事にお休みは確保されましたよ。


ベリオ:“無事”に?


フィオナ:うふふ、スッキリしたわ♡


フラワ:言っちゃってるわね


ディール:...でも、助かりましたよ、母さん。

さ、もうすぐそこです。お茶にしましょう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<場面変わり、庭園内の花が咲き乱れる場所。

その中央に東屋あずまやが建てられており、その日陰の涼しい場所で紅茶を嗜む四人。>



フィオナ:...本当に変わらないわね、ここは。


ディール:子供のころ、よく母さんが連れてきてくれましたね。


ベリオ:うまいうまい うまいうまい


フラワ:ちょっと。ガブガブ飲み過ぎ。ていうか紅茶ってそんなに流し込むもんじゃないから。

トイレ遠いんだから知らないわよ。


ベリオ:おしっこいきたい


フラワ:早速か!!


フィオナ:ほら、ビスケットもあるわよ。


ディール:これは.....!!! juvenileジュブナイルの....!!

こんな高いクッキーがあったなんて....うん、おいしいです。


ベリオ:食わせろ!!!!!!オゴゴ!!!!


フラワ:バケモンみたいになってるわよ。


フィオナ:賑やかなピクニックでとっても楽しいわ。

....風を感じて、自分で外の世界を見に行けるなんて....。まるで、夢みたい。


ディール:母さん...。


フラワ:本当に、良かったですね、おば様。....あ、


<そういってフラワの声に導かれて全員がフラワの視線の先に目をやる。

そこには、やや強い風が吹き、スペースミルフラワーの作り出す一面の虹のような光景が波打つような美しい光景であった。>


フィオナ:......意志を持たぬ花がここまで人の意思を潤す...。

世界の美しさは、まだ私に教えをもたらしてくださるのね。

....この時間が、永遠に続けばいいのに....。


ディール:この美しさを鮮明に覚えておかないと。

....僕たちの作る武器は、この光景を守るためにあるのだとしっかりと心に留めないと。

結局僕たちは武器を握っても、守るものがないと折れてしまうのだから。


フラワ:......同感ね。


ベリオ:帰ろうぜ。夕方になると風も強くなるしな。


フィオナ:三人とも、今日は本当に楽しくて....夢のような時間でした。

土の匂い、太陽の匂い、頬を撫でる風の心地よさ...。

一生分の思い出になりましたよ。


ベリオ:何言ってんすか。これからも続くんすよ。


フラワ:あんたはお菓子とお茶が欲しいだけでしょうが。


<そう談笑しながら帰宅していく四人。>


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<場面が変わり、フィオナの寝室。すっかり空は暗くなり、星や衛星がせわしなく瞬いている。>


フィオナ:ベリオ、フラワちゃんも帰りましたよ。

ディールも一階にいる事ですし、私の部屋に居座るのももう十分だと思いますけれど。

もちろん、ここはあなたの家でもあるのですから大歓迎ですが。


<そう言いながらさらさらと日記のようなものを綴りながらつぶやくフィオナ。>


ディール:母さん。....あ。ベリオさん、まだいたんですか。

実は...緊急の承認会議でまた呼び出されてしまって。

折角ですし、ベリオさん、今日は泊っていってください。


<そう言うと足早に部屋を出ていくディール>


ベリオ:忙しない(せわしない)ですね、あいつは。かなわないですよ。


フィオナ:あら、忙しなさ(せわしなさ)で優劣が決まると思っているの?


ベリオ:...オレは、タマを作る“囚人”ですから。


フィオナ:服の色だけで罪人のような呼び名で呼んでくる人々に心を痛める必要はありませんよ、ベリオ。

あなたもディールも、このコロニーにとっても、私にとってもかけがえのない大切な子なのですからね。


ベリオ:.....。


<うるうるっとした瞳を誤魔化すように>


ベリオ:....今夜は、この部屋で寝ますよ。椅子で眠るのは慣れてるんで。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


フラワN:......久しぶりに、お茶を飲んだ。 久しぶりに、空を見た。

...久しぶりに、花を、土を。

...そして、鼻の奥につんと来るむず痒さ、喉の奥が勝手に締まるようなあの感覚と共に目に溜まる水をこらえるのに...今日は一苦労だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<座ったまま眠ってしまったフラワ。夢の中>


幼フラワ:おとうさん、なんで泣いてるの?


幼フラワ:おとうさん、おかあさんは今日は帰ってこないの?


幼フラワ:おとうさん。わたしがいるんだよ。もう泣かないで。


<その幼いフラワを背後から見つめる現フラワ>



フラワN:......お母さん。どこで、何してるのよ。

人は...無防備に愛を失った時、こんなにも簡単に壊れてしまうって、分かっていてわたしたちを捨てたの?


フラワN:愛を忘れてしまったお父さんと...切り捨てられない血という鎖。

その鎖がね。 私の胸から延びるこのケーブルとなって、鉄の塊に縛り付けられてるように感じるの。

お母さん。お母さん。お母....


<ジリリリリリ、という通信端末の音で目が覚めるフラワ。>


フラワ:何よ...、こんな時間に。ベリオから? ....はい、フラワ。........なんですって。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<はぁ、はぁ、はぁ、という焦りを感じさせる荒い息遣い。

深夜であるというのに遠慮なく響くそれはムロウル家の前で止まる。>



フラワ:ベリオ!!!!!


ベリオ:フィオナさん!フィオナさん!!!!オレが見えますか!!??フィオナさん!!!!


フラワ:ベリオ、何があったの!?


ベリオ:分かんねえ...ッ、フィオナさんが急に寒いってッ! んで、もう肘のとこまでッ....


<フィオナの腕を服をまくって見せるベリオ。

フィオナ能では指先から肘の部分まで不自然なほど白く変色しており>


フラワ:これは......ッ。


フラワN:コールドローズ症の末期症状....っ!!!


ベリオ:ついさっきまで元気だったんだ!!!日記も書いて、喋ってたら急に...っ


フラワ:ベリオ!!!! 時間がないわ。脈拍増強剤とヒートプラグをありったけ用意して!!


ベリオ:分かった! 脈拍増強剤と...ッ、


<脈拍増強剤の入った注射と熱の発生する棒状の装置をベッドの下から取り出してフィオナに渡すベリオ>


フィオナ:....騒がしいのね、二人とも。


フラワ:フィオナさん!!!喋らなくてもいいです、今は体力の温存だけを考えて!


フィオナ:....自分の体ですもの、何が起きているかは自分でもよく分かります。


ベリオ:麻酔の量を増やせフラワ!!! 凍えを認識させるな!


フィオナ:......麻酔は困るわ、ベリオ。

呂律が回らないのは、少し恥ずかしいもの。

....ごめんなさいね、こんなことになってしまって。


フラワ:...ベリオ。


<フィオナに見えない位置でふるふる、と軽く首を横に振る>


フラワ:...聞きましょう。


ベリオ:.....ッ...


フィオナ:......とても、とても感謝しているの。

窓の外を眺めるだけの日常から、私を連れ出してくれて。

太陽の温かさも、頬を撫でる風も。

貴方たちの笑い声に包まれて喉を通る紅茶の匂いも。

ディールのくれたフラワーカタログで見るよりも良いけれど、風にそよぐ花を見た時のあの湧き上がる感情。

懐かしくて....同時に、新しくて。

...そうね、電話の先のディールの上司の方も、しどろもどろになっていて、とってもおかしかった。


ベリオ:もう喋らないで!!喋っちゃダメだ!!!


フィオナ:....本当はね。ベリオ。貴方が引き留めてくれてうれしかった。

貴方が苦しんでいるのを知りながら....、貴方にしがみつきながら。

貴方の傷だらけの手の差し出す薬と花が、私の人生を明るく照らした。

多忙になっていくディールの代わりにと、家に足繁く(あししげく)顔を見せる貴方を見るたび、私の一日が始まる気がした。

ディールとベリオ、これでもっと貴方たちの成長を見ることが出来る。

これでもっと迷った貴方たちの話を聞いてあげられる...と、日々心を躍らせていたの。

....ごめんなさいね、ベリオ。老人の我儘に、付き合わせてしまったわね。


ベリオ:我儘なんかじゃない! 言っているでしょう!!!

オレの...生き方だったんだ!!

オレの、オレとしての最初の誕生日は、貴女がくれたものなんだ! ....ッオレの、我儘なんだ.....ッ。


フィオナ:....泣かないで頂戴、ベリオ。 霞む視界でも、貴方の笑顔が見ていたいの。

.......ダメね、間際でも欲張ってしまう。


ベリオ:フィオナさん!!!


フィオナ:...............叶うなら...................。貴方たちと、もっと.....................。

あの庭で、花を見て居たくて────────.................。



<ピーーーーーーーーーー.....と無機質な音が部屋に響く。>


ベリオ:フィオナさん?....フィオナさん!!!!!


フラワ: ベリオ。離れさない。..................観測者、スイ・フラワ。

セントラルエジソンNo.6799(シックスセブンナインナイン)。

ムロウル・フィオナの死亡を確認。



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