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グリフォンの羽

 子供?この魔物は子供を獲られた事で怒っているの?

 だとしたら話せば分かる相手かも。


「ユア!『祈る』だ!」


 考え込む私にアルが指示を出した。

 私は言われた通りにスキル『祈る』を使った。

 『祈る』が追加された時どのような効果があるのか試しに使ってみたら仲間の身体能力が向上する効果を得たのだ。

 今回も前回と同様に『祈る』ってみた。

 しかし…。


「ユア。『祈る』は?」

「使ったよ?」


 私の返答に一同は首を傾げた。

 効果が出ていない?

 すると背後からカサリと嫌な音が聞こえてきた。

 ギギギ…と顔を音の方に向けるとそこにいたのは。


「嫌ーーーーー!!」


 無数の巨大な蜘蛛がガサガサと出現したのだ。

 この時私はとあるゲームを思い出していた。

 今も根強く人気の少年少女が繰り広げる感動の冒険ゲームだ。

 あのゲームにも似たような呪文があったのだが確かあれ通常の戦闘では効果がランダムに発動されていたな。


「な!新手だと!?」

「グリフォンだけでも厄介なのに!」

「ユア!その場から離れろ!!」


 直ぐにアルが駆け付けようとしてくれたのだが蜘蛛の方が私の近くにいたため間に合わない。

 万事休す!

 と思われたのだが私に迫った蜘蛛達の体が一瞬ビクリと跳ね上がったと思ったらカサカサとゆっくり後退し始め…ガサガサガサガサと一目散に逃げ出した。

 何が起きたの?

 呆然とする私にグリフォンの起こした風が背中に吹きつけた。


「ユア!無事か!?」


 駆け付けたアルが私を庇うようにグリフォンの前に立った。


「アル!お願い。あのグリフォンを倒さないで!」

「何だって!?」


 グリフォンの爪を防ぎながらアルが驚いていた。


「このグリフォンがこうなったのはもしかしたら人間側の所為かもしれない!」

「倒すなって言ったって倒さなければこちらが殺られる!」


 何か気絶させる方法は。

 私は周囲を見回した。

 すると壊れた管から流れる水が目に付いた。

 これだ!!

 私は壊れた管をグリフォンに向けると管の入口を少し塞いだ。

 入口が塞がれた事で行き場を失った水は勢いよくグリフォン目がけて飛んだ。


「アル!離れて!」


 私が叫ぶとアルは後ろに跳んでグリフォンと距離をとる。

 今だ!


「『雷電』!」


 唱えると雷がグリフォンに直撃した。

 水をかけた事で威力が上昇。

 感電したグリフォンはその場に倒れた。

 私は直ぐにグリフォンに駆け寄り『ヒーリング』を唱えると、たちまち傷は回復し元の姿に戻った。


「グリフォンを治すとかあなた正気なの!?」


 駆け付けたエレアノールが激怒した。


「この魔物の声が聞こえたんです。『人間共。私の子供を返せ』って…」


 私の言葉に全員が押し黙った。

 微妙な空気が流れる中、グリフォンが意識を取り戻した。

 人間に囲われたグリフォンは一瞬警戒の色を見せるが落ち着きを取り戻して静かに起き上がった。


「あの…人間に子供を奪われたのですか?」


 声が届くか分からなかったがグリフォンに声をかけてみると、グリフォンは「グルル…」と小さく唸ったあと静かに語りかけてきた。


『私はここから遥か先の森に棲んでいました』


 今度はアル達にも聞こえたのか驚いていた。


『ある日餌を取りに巣から離れたところを人間共に狙われたのです。戻った時には私の卵は無くなっており、人間の残した匂いを辿ってここに辿りついたのです』

「恐らく闇商人の仕業ね。卵を裕福な貴族に売って育てた魔物をコロッセオで戦わせる。悪趣味な娯楽よ」


 エレアノールが口元に手を当てながら苦々しい顔をした。


『卵を返して欲しくて人間を困らせようとしたのですが…お嬢さん以外誰も私の声に気付いてはくれなかった』

「でもごめんなさい。卵を取り返してあげたいんだけど、私にはどうしたらいいか分からなくて…」


 声が聞こえただけで何も出来ない自分が情けなくてシュンと俯いた。


『ありがとう。優しいお嬢さん。何となく子供は戻ってこないと分かってはいたのです。それでも人間が許せなかった』


 何か方法はないのだろうか…。


「エレアノールさん。何か方法はないのですか?」


 私の問いにエレアノールは渋い顔をした。


「無理よ。闇商人は各地を転々と移動しているうえ、取り返したとしてもそれがこのグリフォンの卵かどうかもわからない」


 黙り込む私達にグリフォンが告げた。


『私はこの地を去ります。町の人達に安心するよう言ってください』


 後味の悪い結末に皆俯いた。


「ここにいても仕方がない。町の人達に脅威は去った事を伝えに行こう」


 アルが歩き出すと他の二人も付いて行った。

 足が動かず立ち尽くす私の横を通り過ぎ、ヴァルがグリフォンに何か耳打ちした。


『それは本当ですか!?ありがとうございます!』


 するとグリフォンが突然喜び出した。


『何かお礼をしたいところですが…そうだ!これをあげましょう』


 そう言うとグリフォンは嘴で自分の羽を一枚捥ぎ取り私の手のひらの上に乗せた。

 巨大な羽はみるみる小さくなり鳩の羽程度の大きさになった。

 満足したグリフォンは巨大な羽を広げると喜び勇んで飛び去って行ってしまった。

 残された私は羽を持ち上げて眺めた。


「グリフォンが自ら捥ぎ取った羽は貴重な物だ。売れば億万長者にもなれるし、使えば行った事のある場所に一度だけ瞬間移動してくれる」


 私の元に戻って来たヴァルが教えてくれたその設定に固まった。

 これ翼とか語尾に付けたら色々不味くなるやつじゃないか。

 商用的に…。

 だとしたらこれを…。


「じゃあこれをグリフォンの羽と呼ぼう!」


 羽を高々と掲げる私にヴァルが冷めた視線を投げかけた。


「だからそう言ってるだろ」


 くっ!子供には大人の事情なんて分からないんだ!

 四つ這いで地面を叩き悔しがった。


「ところでグリフォンに何を言っていたの?」


 四つ這いのまま不貞腐れた顔をヴァルに向けるとヴァルは視線を逸らした。


「仲間のいる場所に心当たりがあったから教えてやっただけだ」


 それだけであれ程喜んだのか?

 よくは分からないがグリフォンも満足していたし、これで温泉にも入れるし、一件落着だね。

 戻ったらお風呂満喫するぞ!!


 しかしこの時の私は知る由もなかった。

 水を通すにはまず、管を直さなければいけない事を…。





読んで頂きありがとうございます。

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