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特殊スキル

 固まる私の目の前をアルノルドが手をひらひらと動かした。


「ユア?どうしたの?」


 いかんいかん!このままでは怪しまれる!

 かといって何て説明するんだ?

 『魔王召喚って何ですか?』と異世界人を装って聞くべきか?

 いや。どう考えても牢獄行きだ。

 とりあえず特殊スキルっていうのが何か分からないし、それを先に聞いてみよう。


「あの…以前、特殊スキルっていうのが『???』になっていたのですが、それが文字に変わっていたので何かと思って…」


 すると勇者御一行三人が物凄い形相で私に詰め寄った。


「特殊スキルがあるの!?」

「特殊スキルが使えるのか!?」

「特殊スキルを持っていたのか!?」


 うん。三人同時に喋られてもこれは何を言っているか聖徳太子でなくても理解できたわ。


「特殊スキルって何なんですか?」


 三人に詰め寄られて少し後ろに体を反らした。


「特殊スキルは言葉の通り特殊なスキルだ」


 それは言われなくても分かります。


「このスキル自体を持っている人間が少ないのよ」


 それはつまりヒーラーLV1だったけど、実はちょっと特別でもあったって事?


「俺でもこのスキルを持っている人間は一人しか知らない」


 ロドルフはアルノルドに視線を移した。

 流石勇者様ですね…じゃなくて!勇者しか持っていないスキルを何で私が持っているのよ!?

 あれか…異世界補正ってやつか?

 スキル名も陰陽師だし…。


「俺のは持っていても意味のないスキルだよ…」

「ちなみにアルノルドさんの特殊スキルってどんなやつですか?」


 アルノルドは気まずそうに私を見た。


「聖女降臨…」


 なるほどね。そりゃあ私に言うのは気まずいわ。


「特殊スキルは普通のスキルとは違い、自分の意思で発動させる事が出来ないスキルなんだ。だからいつどういう風に発動するかは実際に発動してみないとわからないんだ」


 だとすると私の魔王召喚もアルノルドと同じで出会ってなくても表示されたものなのだろうか?

 まあ魔王召喚に至っては発動しない方がいいのかもしれないけど。


「じゃあこれはきっとあれだね。いつかアルノルドさんの元に聖女様が降臨するっていう意味なんだよ」


 アルノルドに気を遣って明るく言った。

 裏を返せば私にはいつか魔王が召喚されるという事になってしまうのだが…。


「ありがとう。ユアは優しいね」


 アルノルドが微笑んだ。

 これは特殊スキルで名付けるなら『人誑しの笑み』ってところか。

 特殊スキルの事が少し分かった気がする。

 でもアルノルドがまだ出会っていない聖女と関係するスキルを持っているなら、私も魔王に会わなければ一生発動せずに済む可能性もあるということか。

 もし誤って魔王なんか召喚しちゃったりしたら即死確定だしね。


「ところでユアの特殊スキルはどんなやつなの?」


 アルノルドに聞かれてドッキーン!!である。


「えっと…私の特殊スキルは…『悪霊退散』…かな?」


 『魔王召喚』は口が裂けても言えません!!

 皆が首を捻った。

 もっと『エクソシスム』とかあったであろうに何故『悪霊退散』?

 私が日本人だからか?

 お前カトリックじゃねえだろって事か?

 安倍晴明とも縁も所縁もありませんけどね!


「変わったスキル名だな」

「聞いた事ない言葉だ」

「召喚元と関係しているのかしら」


 貴方達は同時にしか喋れないのでしょうか?

 陰陽師の次は聖徳太子になれとか無理だから。


「意味は分かるの?」


 アルノルドに聞かれてとりあえず私の知っている意味を伝えた。


「取り付いた悪い霊を払う時の言葉です」


 間違ってないよね?

 間違っていてもこの世界にこの言葉の意味を知っている人はいないし、まあいっか。

 三人が同時に感心した。


「もしかして…あの夜光っていたのは…」


 光?


「ほら。ユアが一人で町の近くの森に行った時の…」


 そういえば…。

 あの時は必死だったから忘れていたけど、スライムが変化する前に全身が光ったような…。

 あの光の後にスライムが決め台詞を吐いて去って行ったんだった。

 という事は、あの悪霊退散って魔物を良い魔物に変える効果があるって事?


「確かにあの光の後、魔物が戦意喪失していた気が…」


 先程から黙って聞いていた少年がピクリと反応したように見えた。


「ユア!だとしたらそれは凄いスキルだよ!」


 アルノルドが興奮した。


「でも使い方が全く分からないし、あの光も偶然出ただけだから…」


 戸惑う私の両肩をアルノルドが掴んだ。


「君のこの力があれば魔王を弱体化することが出来るかもしれないぞ」


 早速特訓だ!と言わんばかりの勢いのアルノルドに気圧された。

 魔物が良い魔物になるのならこのスキルを使いこなすのも悪くはないかな。



 今日は私の疲れも考慮して早目に休む事になった。

 昨日と同じようにテントを立て、早目の夕食にした。


「ユアのレベルアップに。おめでとう!」


 アルノルドが掛け声をかけると皆持っていた木製のジョッキを持ち上げて祝福してくれた。

 飲んでいるのはその辺の草で取れた薬草茶だけどね。


「しかしこの調子でいけばユアに追い越されそうだな」


 上機嫌のアルノルドがウィンクした。

 しかし私は少しだけ戸惑っていた。

 レベルを上げるために人間が魔物を襲う。

 襲われた魔物は人間を憎み人間を襲う。

 これって無限ループになっているよね。

 これは魔王を倒して解決するものなのだろうか…。

 RPGで遊んでいた時は経験値稼ぎの為、さも当たり前のようにモンスターを倒していた。

 しかしそれが現実となると…。

 出くわした時に怯えていた魔物を思い出した。


「あの…どうして魔物を倒すのですか…?」


 バカな質問だとは思う。

 だけどこのままで本当にいいのだろうか?


「魔物は俺達にとって敵だ。だから倒す。それだけだ」


 アルノルドの声のトーンが少し下がった。


「でも…今日の魔物みたいに急に出くわして止む無く攻撃してきた魔物もいるかもしれないし、無理に倒す必要はないと思うのですが…」

「では人間は魔物に殺されるべきだと?貴方は知らないでしょうけど、魔物に苦しめられている人は沢山いるのよ」


 エレアノールがアルノルドに加勢した。


「でもそれ以上に人間も魔物を苦しめていませんか?」

「魔物は邪悪な生き物だ。苦しめられる事を考える以前に人間を苦しめる事を楽しんでいる」


 ロドルフの言葉に疑問が湧いた。

 本当にそうだろうか?

 悪霊退散で変わったとはいえ自分は無害だと訴えるスライム。

 怯えて震えていた今日の魔物達…。

 このまま経験値稼ぎと称して魔物を倒していったら私は何か大事な事を見落としてしまうのではないだろうか?


「私達のやり方が気に入らないのなら今からでも町に戻りなさい。これからもっと魔物と戦わなければいけなくなるのだから」


 エレアノールの言い分は的を得ていた。


「ご馳走様」


 不穏な空気が漂う中、それを打ち破ったのは一言も言葉を発していなかった少年だった。

 少年は立ち上がると森に向かって歩き出した。


「おい!勝手な行動は…」

「出すものを出しに行くんだよ」


 流石のアルノルドも押し黙った。



 気まずい夕食を終え、一人で皿を洗っていると少年が私の隣に座った。


「あんまり気にすんなよ」


 夕食の時の話だろうか。

 珍しい少年の言動に驚いた。


「あんたの言った事は間違ってないよ。この世界はおかしい方向に歪められている」


 慰めてくれているのだろうか。

 大人びた話をする少年にクスリと笑った。


「ありがとう。君が味方で嬉しいよ」


 少年はそっぽを向いた。


「ヴァルでいいよ…」

「え?」

「俺の名前だよ」


 照れているのか顔を逸らしたままだったがヴァルの耳が赤くなっているのは分かった。

 この世界に来て初めて壁を取り払った友達が出来たような気がして嬉しくてヴァルの頭を撫で回した。


「何するんだよ!!」

「嬉しくて」


 怒るヴァルに微笑むとヴァルは息を呑んだ。

 そしておもむろに私の眼鏡を外した。


「あんた、素顔の方が可愛いよ」


 ヴァルは眼鏡を放り投げた。


「眼鏡が無いと何も見えないんだけど!?」

「あんたヒーラーだろ?自分にヒーリングしてみろよ」


 盲点を突かれた。

 言われてみればヒールは治療すること。

 もし自分にかけたら…。


「『ヒーリング』」


 胸に手を当て唱えると以前より強い淡い青緑色の光が私を包んだ。

 光が止んで辺りが見え始めて目を見開いた。

 沈みかけの夕日に照らされた綺麗な景色が私の目に飛び込んできたからだ。

 ヴァルは感動している私に背を向けて歩き出した。


「ありがとう!ヴァル!」


 お礼を言うとヴァルは返事の代わりに背を向けたまま手を振ってくれたのだった。





読んで頂きありがとうございます。

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[一言] 目にヒール! その発想は無かった!
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