魔王召喚
アルノルド達の最初の目的は聖剣を手に入れることらしい。
魔王は聖剣でしか倒せないからだ。
聖剣ってあれだよね!エクスカリバー!
本格的にRPGっぽくなった私は目を輝かせたが、隣に立つ少年は不快そうな顔を浮かべた。
やっぱり勇者がお嫌いなの?
そんな雑談を交えながら歩いていると日が暮れてきた。
「この辺りで野宿だな」
アルノルドとロドルフが野宿に適した水辺に近い場所にテントを張った。
「今日は魔物が出なかったな…」
夕食を食べているとアルノルドがポツリと呟いた。
魔物が出ないのは良い事なのでは?
「ああ。こんなことは初めてだ」
ロドルフもアルノルドに同意した。
「この辺りの魔物は弱いから私達のレベルに恐れをなしたとか?」
エレアノールが仮説を立てた。
「しかし昨日は最弱のスライムにも出くわしたのに、今日はそれよりレベルの高い魔物にすら出くわさなかった…」
「ああ。何か悪い事が起きていなければいいが…」
三人が神妙な顔で悩んでいる間、私と少年は食を進めながら黙って聞いていた。
「けれど困ったわね。ここで魔物が出ないと彼女のレベルが…」
「そうだな。ここを抜けると魔物はどんどん強くなっていくからな」
エレアノールとロドルフの言葉にスプーンを咥えながら固まった。
RPG定番のゲームバランス設定まで適応されているのか。
だとするとこの先をこのまま進めば待ち受けるのは…死あるのみ。
「あ…明日!明日頑張ります!!」
震えながら立ち上がった私に三人は苦笑いを浮かべた。
「ユアの頑張りはわかるけど、肝心の魔物が出ない事には…」
そ…そんなぁ…。
ストンと力なく座った。
食事が終わり今日は早々に寝る事になった。
エレアノールと同じテントで横になるも全く眠れず。
引き籠りの私が森を一日中歩いたのだから身体は疲れているはずなのに…。
エレアノールを起こさないよう、静かにテントを出た。
テントを出るとロドルフが見張りをしていた。
「寝れないのか?」
私に気付いたロドルフが声をかけてきた。
「ちょっと外の空気が吸いたくなって…少し散歩してきてもいいですか?」
「夜は魔物も強くなるし、あまり遠くに行くなよ」
そうか…夜は魔物が強くなるのか…。
赤く禍々しいスライムを思い出した。
ロドルフに頷くと夜の森へと入って行った。
昨日は必死だったから感じなかったが、夜の森って不気味だな。
怖いからか肌寒いからかわからないがブルリと身震いをした。
あまり遠くに行くなと言われたし戻ろうかな。
踵を返そうとして立ち止まった。
こんな夜更けに話し声?
私がそっと話し声のする方に近付くと、そこにいたのは少年だった。
少年の近くには魔物の姿が!
襲われているのか!?
私は咄嗟に転がっている石を掴むと声を上げて少年の元に走った。
すると私の奇声に驚いた魔物は逃げていった。
「大丈夫!?」
私は少年の肩を掴み全身を確認した。
少年に傷らしいものは見当たらず安堵した。
「こんなところで何してんだよ」
少年の眉間に皺が寄った。
「散歩していたら君の近くに魔物がいたから襲われているのかと思って…」
よく考えたら咄嗟とはいえ魔物相手に石で応戦とか…死んでたかも…。
「LV1のヒーラーのくせに俺を助けようとするなんて一万年早いわ」
ええ!?結構勇気出して助けようとしてあげたのにそういう事言っちゃう?
少年はテントに向かって歩き出したが…あれ?足が動かない…。
「何してんだよ早く来いよ」
「ごめん…腰が砕けた」
少年は苦々しい顔を浮かべながらも私の手を引っ張って引きずってくれたのだった。
テントに近付くと明らかに怒っていると思われるアルノルドが森の入口に立っていた。
「夜の森に入るとか何を考えているんだ!!」
怒鳴られたのはもちろん私、少年、ロドルフだ。
「ごめんなさい」
私は素直に謝るも少年は知らん顔。
「こら!謝りなさい!」
私が小声で注意しながら少年の頭を無理やり下げようとするも少年は必死に抵抗した。
そんなに嫌がらなくても「ごめんなさい」って適当に謝っておけば済む話なのに…。
「悪い。俺も魔物の気配を感じなかったから少しくらいならと許可したんだ」
「何のための見張りなんだ」
アルノルドがロドルフを睨んだ。
「あの…ロドルフさんは私達に気を遣って下さっただけなのであまり責めないで下さい」
アルノルドは溜息を吐いた。
「今回は初めてだから許すけど、下手をすれば死んでいたかもしれないんだ。三人とも反省してくれ」
私はシュンとなり少年は耳の穴をほじり、ロドルフは頭を掻いた。
三者三様の反応にアルノルドの溜息は益々深くなった。
これ魔物に遭遇した事を話したらきっとただじゃ済まないだろうな…。
翌日。
睡眠不足と筋肉痛が相まって体力がかなりヤバい事になっていた。
そして今日に限って魔物が出現したのだ!しかも!…震えながら…。
「な…何か怯えていないですか?」
私の発言に全員が戦うべきか迷った。
「なんか倒すのが可哀相です。見逃してあげませんか?」
「いやしかし折角会えた魔物だしな…」
アルノルドも勇者道に反するのか渋い顔だ。
倒すべきか見逃すべきか話し合っていると先程までの怯えは何処へやら、急に無心で襲い掛かって来た。
突然襲って来た魔物に全員が武器を取り出し戦い始めた。
もちろん私も杖で叩きながら応戦するも全く効いていない攻撃に涙が出そうだ。
しばらく戦うと魔物達が突然逃げ出した。
全員の頭の上には沢山の疑問符が。
何が起こったのか分からず、戸惑う私の左上がチカチカ光った。
「何か光ってる?」
私の発言に全員の視線が集まった。
「もしかして今のでLVが上がったのか!?」
「確認してみなさいよ!」
「倒していないのにLVが上がるってどうなっているんだ?」
皆、同時に喋らないでもらえますか?
ていうかこれ、お知らせ機能まで付いてるの?
私はエアパネルを出した。
職業:ヒーラー
LV:10
スキル:ヒーリングLV1 祈るLV1
…
上から順番に確認すると明らかな変化があった。
「LVが10になってます!」
三人が驚いていた。
「急激に上がり過ぎじゃないか!?」
「こんなこと有り得ないわ!」
「良かったなユア!おめでとう!」
エレアノールとロドルフは疑心暗鬼な感じだったがアルノルドだけは喜んでくれた。
「それで何か新しいスキルは増えたのか?」
アルノルドに促されて確認した。
「ヒールがヒーリングLV1になってます。あと祈るLV1というスキルも増えています!」
アルノルドと私は喜びを爆発させた。
しかしその下の項目を見て固まった。
そこに書かれていたのは以前『???』だった特殊スキルの項目に新たな文字が刻まれていたのだが…。
…
特殊スキル:悪霊退散
…
悪霊退散って陰陽師か!
というツッコミはあとにして、驚愕だったのはその下に書かれていたスキルだ。
…
特殊スキル:悪霊退散
魔王召喚
私の知り合いに魔王はいません。
現実逃避をしたのだった。
読んで頂きありがとうございます。