『ありがとう』
小さな冷たい壷に入っている前世の自分を見つめる。というのは、なんだか気持ち的にとってもシュールだ。そんな私はうっすら透ける霊体で見覚えのある顔をしていた。鏡越しに見ていた前世の私の顔だ。
『納骨まだ、してなかったんだ・・・お母さん』
「・・・んん・・・誰か居る・・・?」
私の気配を察知したのか眠っていた母が薄らと目を開けた。
『お母さん・・・久しぶり、になるのかな?』
「恭香・・・?恭香なの?」
恭香ーーーそう私の前世での名前だ。転生してからシルフィアという名前が自分の名前として定着していたが、久し振りに呼ばれた前世の名前はまるで薄らとしてきた前世の記憶を鮮明にしてくれる様だ。
『うん、そうだよ・・・お母さん、私先に死んじゃってごめんね。もう私が死んでから1年経っちゃったんだね』
「恭香・・・」
『お母さん、私お母さんの子供に生まれてこれて幸せだったよ。』
ここの世界に居られる時間は短い。だから私は精一杯気持ちを込めて言いたい事を詰め込んだ。悲しそうな母の顔を見てると涙腺が緩みそうになるのを感じたが我慢した。
『私を社会に出られるまで育ててくれてありがとう・・・お母さんより先に死んじゃったのは不本意だったけど、でも大好き。だから私の分まで幸せに生きてね』
自分が一方的だというのは分かってはいるが言わずにはいられなかった。それだけ母には幸せになって欲しかった。私を育ててもらうのにいっぱい苦労かけてしまったんだもの。
「恭香・・・っ、あなたの事守ってあげられなくてごめんなさいっ・・・ごめん、ごめんね・・・」
私の想いを聞いて泣き出した母を私は只々見守る事しか出来なかった。それに私は不慮の事故で死んでしまった身だ、母はもちろん悪くはないのだ。
『私が死んだのはお母さんのせいじゃないよ?だから自分を責めないでね・・・』
私がそう言った途端、透明な身体が発光した。
『ごめんね、私もういかなきゃ・・・お母さん、ばいばい・・・』
フワッと身体が浮き出したので、母に手を振った。そうして目の前がまた真っ白になり気がついた時には二神の御前にいた。
アヴェム様は感慨深そうに、イヴリース様は涙腺が崩壊してしまったみたいだ。ぐしぐしとハンカチで目元を拭っていた。アレを見てたのか。ちょっと恥ずかしいかも・・・。
「死しても尚、思い合い・・・そして感動の再会と別れ!良いわねぇ・・・心がホッコリするわ」
「イヴリース・・・本人が居る前でそういう事を言ってはダメだよ」
そう言いながらイヴリース様はウルウルしてたが、アヴェム様はヤレヤレといった風にイヴリース様を宥めていた。そんな私は感動の別れを終えたばかりの余韻を味わうどころか、そんな発言を聞いて顔から火が吹き出そうになった。改めて言われると恥ずかしいのだ、私も。
「恥ずかしすぎて早く現実戻りたい・・・」
「はは・・・ごめんね。まあ、そろそろ神との面談の時間も終わる頃だ。最後に何か質問とか無いかい?答えられる事なら教えてあげるよ」
とりあえず話を逸らしておこうとアヴェム様が助け舟を出してくれた。この神、やり取りのアシスト上手すぎなのでは・・・?