夢を追いかける前に
私の宣言を聞いた二神は満足気に頷いていた。相変わらず片方は私の頭を撫で続けていたが。
「あと、一歳の神との面談は転生者にとってもう1つ大事な役割があるんだ」
「役割?」
このイベントはただお話するだけじゃなかったのかな?
「転生者が生まれた日は丁度、前世での命日にあたるんだよ。だから、私達はこの世界で生きてく者達の為に前世での心残りが無い様に1度だけこの日にその者との繋がりがある絆であちらの精神世界との道を繋げてるんだよ」
「あなたの生まれ育った国なら『夢枕に立つ』とか言った方が早いかしら?まあ、私達にしか出来ないサービスみたいなモノだから難しく考えなくてほしいのだけど、どうかしら?」
言われて、はじめはキョトンとしたけど確かに私には心残りがあった。前世の母に「育ててくれてありがとう」と言いたかったと。
そっか・・・生まれた日が前世で私が死んだ日だったんだね。この機会を逃したら前世との繋がりは完全に無くなってしまうし、前世の母に「ありがとう」が言えるのならこれが絶好の機会なのではないだろうか。
「私、前世の母に会いたいです。育ててくれてありがとうって言えなかったから・・・。突然、私死んじゃったから生まれ変わってしまって・・・ありがとうが言えなかった事、後悔してたんです。お願いします」
なでなでするイヴリース様からちょこっと離れてぺこりとお辞儀した。1歳ボディでも、滞在している世界がふわふわと支えてくれて上手にお辞儀出来たと思う。
「あなたはお母様が大切だったのね・・・それだけ大切に想われているのなら、あっという間に夢枕に立てるわね。」
イヴリース様のその言葉にこてんと首を傾げた。
「あちらと繋げる力はね、あちら側からの想いとそれに応える君からの想いの力で成り立つんだ。その力が合わさって1番強くなるのが君が生まれ育った国で言うところの一周忌だ。それ以降あちら側からの想いが強くてもこちら側の方は新たな人生を生きるのにいっぱいいっぱいになってしまうからベストなタイミングが『今』なのさ」
「つまり、糸電話の様にほっそりと糸が繋がっていてはっきりお互いの声が聞き取りやすいと言うのが『今』って事?」
「ご明察」
なんとなくだけど、当たった様だ。なるほど、確かに来年の今頃は自分の成長をする為に忙しいだろう。中身は大人だが身体はまだ2歳、そして私が目指すオムツ卒業は済ませておきたい頃だ。その頃にはシクシクと前世を思い出してる余裕は無さそうだな・・・。
「だから、君の前世のお母さんに会いに行っておいで」
アヴェム様がそう言うと私の身体はほんのりと光に包まれ、眩しいと思った瞬間に目を瞑った。ほんの一瞬目を瞑っただけなのに周りの景色は一変していた。
薄暗い部屋、カーテンの向こう側は闇が広がっているが家の近くにあった街灯が仄かに光っているのが見える。窓の側には見覚えのない祭壇の様な物があった・・・部屋の風景としては見覚えが無かったが、この世界で生きていた私にはそれが何か直ぐに分かった。
小さな箱に入っている壷・・・これ、前世の私だ。