異世界転生したら産まれたての赤ちゃんだった件
意識が遠くなって、また浮上し始めた頃。私は違和感を覚えた。
最後の意識では床が生暖かく感じてたのに今は全身とてもヌルヌルしている。私の身に一体何が起こった?なんだかとても息苦しいし、さっきまで狭い所にいた筈からの開放感・・・ちょっと寒いかも。声が出ても泣くことしかできない・・・ん?ちょっと待って?
混乱して思考がぐちゃぐちゃだ。
そしてふと何かに包まれ暖かく柔らかな感触に抱きとめられる。
恐る恐る目を開けるとそこにはお人形さんみたいに顔が整った綺麗な・・・だけどなにか一仕事を終えて疲れたかのような顔の女の人が私を見つめていた。
「無事に産まれて良かったです。可愛らしい女の子ですね!奥様。」
「ええ、ほんと・・・生まれてきてくれてありがとう。あなたの名前は・・・そうね、シルフィアなんてどうかしら?風の聖霊様のように綺麗な蒼碧の瞳を持って生まれたあなたにピッタリじゃないかしら。」
ニコニコとほほ笑みながら私に話し掛ける彼女の姿はさながら1人の母親だ。
(キレイな人・・・この人が、私のお母さん?・・・アレ?・・・っていう事は、私1度死んで生まれ変わった・・・?)
そう思った瞬間、私は理解してしまったのだ。自分が1度死んでしまったことを。
(そんな・・・死ぬ前の私のお母さんにはもう会えないんだ・・・親孝行すら育ててもらった恩返しとかまだ出来ていないのに・・・ありがとうとかちゃんとまだ言えてないのに・・・!)
状況に気付いてしまった私の涙腺は熱みを帯びて泣き叫ぶと共に涙という洪水が目から溢れ出してきた。
「おんぎゃぁっ、おんぎゃぁっ」
生まれたての新しい身体はそれだけしか音として発する事が出来ず、涙がこぼれた。
「あらあら、お腹が空いたのね。私の愛しい子・・・シルフィア、お乳飲みましょうね・・・」
前世の記憶があるとは露知らず、お腹が空いたと思った新しい私の母は優しく微笑みながら抱き寄せてくれた。暖かなその温もりは記憶を持ったままの突然の転生という理解し難い現実を優しく包んでくれた気がした。前世の私はその身体を産んでくれた母に親孝行が出来なかった・・・今世の私はこの母を、そしてその家族を幸せにしたいとそう決意したのであった