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世界の柱はQ  作者: 那仁
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第五章 世界の始まりのQ

第五章  世界の始まりのQ


 テレは、明美のカフェを横目に通り過ぎ、教会を目指す。カフェは、臨時休業らしい。それも、しばらく休むと張り紙が出されていた。立川を降りてから、だれも見ていない気がする。歩いている人は、結構いるのに、なぜが、すべてに生気が感じられない。虚ろな存在として漂っているようだった。明美のことも気になるが、まずは教会を目指す。当然ながら教会は、警察により封鎖されていた。関係者ということもあり、中に入れてもらえた。現場のほとんどは調べ尽くされていた。警察も、現場の保存のために駐在しているだけだった。中に入ったテレは、警察に養父が亡くなったときの様子を聞いてみたが、今はよくわからないとしか伝えてもらえなかった。

「テレさんの身の回りに、ヨースケさんと親しくしていた女性っていますか? 確か景子という女性だったと思います。数年前にここで住み込みのシスターをしていて、最近、景子さんとの電話のやり取りが目立っていました。 ヨースケさんが亡くなる直前に、ここに来ていたらしいのですが、景子さんのことを知りませんか?」

「もしかして、景子が疑われています?」

「いや、そうではなくて、だいたい容疑者が絞れているのですが、今度は、景子さんを狙っているような気がするので、念のために聞きました」

「私は知りません」

景子と会っていたことや、会う予定だったことはここでは伏せておいたほうがいいだろうと直感した。

 テレは、話してくれた警察に会釈をして、養父の仕事部屋に入ろうとした。

「そこには、入らないで下さい。まだ、調べることがありそうなので」

 テレは、自分が過ごした部屋に入っていくのであった。

 部屋に入ったら、突然、奥の隠し部屋から小さな声が聞こえる。

「テレ、こっちに来て」

 

 そこでは、養父が眠っていた。永遠のような眠りだった。誰も信じるなと言っていたが、これがそれか。死んでいなかった養父は、ただただ眠っていた。この隠し部屋のことは、ヨースケさんから聞きました。警察が亡くなったと言っていたのは、ケースケです。この隠し部屋に、ヨースケさんが私をかくまってくれました。ケースケが、私とヨースケさんを殺そうと来ていました。テレのこの部屋の隠し部屋に案内してくれたので、二人は助かりました。この部屋は、とにかく不思議です。とにかく眠くなります。すると養父は、眠りながらしゃべりだした。

「テレか、わしは長くはないだろう。今は、眠っているし、今後も目を覚まさないだろう。この部屋でずっと眠り続けることになるだろう。テレよ、この奥にもさらに隠し部屋がある。 そこから先に景子さんと一緒に脱出して欲しい。二人でこの部屋の先に、他に誰も連れて行かずに。わしは置いて行け。この先には、二人しか入れない。世界の始まりの木が、夫婦になる二人を歓迎するであろう」

 テレと景子は、しばらく沈黙した後、ヨースケさんをこの隠し部屋のベッドに寝かせて、向こうの世界に行こうと決めていた。

「ねえ、テレ、私の名前はケリーです。あなたと同じキリスト教での洗礼名です。この扉を抜けるときは、私の事をケリーだと言って。双子の姉と弟としてこの目の前の扉を抜けて下さい」

「ケリー、僕はテレ、世界から一番遠い世界からやってきた。今、お姉ちゃんとこの扉を越えていきます。お姉ちゃん、一緒に向こうに行こうね」

ケリーとテレは、手を強く握り合い、目の前の扉に手をかけた。扉を開けた先には……。


 今日は、これから結婚式の日取りを決めるために二人で行くことになっていた。

「朝ごはんは、一緒に外で食べましょう」

 テレとケリーは、住まいのある金山駅近くのカフェ「Q」で遅めのモーニングを食べた。カフェの店員は、明美だった。

「テレたちもとうとう結婚だね。この後、式場の予約に行くのでしょう。そんな記念する日に、会いに来てくれてありがとう。父も喜んでいるよ」

 カフェのカウンターには、ヨースケの写真が飾られていた。どこか懐かしい顔を見て、二人は嬉しくなった。どこかで、命を助けてくれたような記憶がくっきりと残っている。ヨースケさんは、数日前に亡くなっていた。明美は、ショックだったはずなのに、毅然とふるまっていた。突然の病死を嘆いていた。

「この後、熱田神宮に行くのでしょう?」

「結婚式は、熱田神宮でするからね」

「あそこは、私たちが愛を誓い合った場所だしね」

ケリーは、ニコニコしながら話している。

「テレとケリーって、キリスト教での名前でしょう?」

「お二人さんの本名って、何?」

「僕は、産まれたときからテレ」

「私は、景子です。明美、黙っていてごめんね」


 テレと景子は、式場の熱田神宮に向かう。どこか懐かしい記憶がある。大学一年の時に、初めて二人でデートをした場所だったし、告白したあの古い大木がある場所だった。目の前には大楠がある。ここから、二人の人生が始まっている。

「私たちは、いろいろありました。これからもきっといろいろと大変なことがあるはず。でも、私たちならきっと何とかなるはずです」

テレは、景子に話しかけている。

「そうよね、きっと私たちなら何とかなる」

 あの果てから戻ってきた私たちなら、何とかなるはずだ。


「あなたとなら、どんな場所に行っても大丈夫。これからもよろしくね」

二人は強く手を握り合い、大きな古木の前でこれからの結婚生活を生き抜く覚悟を決めていた。三羽の鶏が、二人の近くに集まり羽をパタパタとさせている。二人を祝福するつもりのようだった。


 二人の世界の始まりの日は、大きな木の下から始まっている。これからも、大きな木の下で二人は、子を産み、育て死んでいくのだろう。短い人生かもしれないし、長い人生になるかもしれない。まずは、この人生を楽しもうと、テレと景子は確認し合っていた。

「僕たちの結婚式での写真撮影は、天海さんにおねがいするけどいい?」

「もちろん、あなたが尊敬する方だからね」

「この大楠を背景に、僕たちの写真を撮ってもらおうよ」

「そうね、明美にもここで祝ってもらいたいしね」

「あと、亡くなってしまったけど、ヨースケさんにも祝福してもらいたいし」

「結婚式の後、ヨースケさんのお墓参りにいこうよ」

 二人の目から涙が自然と流れ落ちる。

 ハンカチを取ろうと後ろポケットに手を入れると、しわくちゃになった何枚かの紙が入っていた。


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