第四章 テレの家、遠くからの使者
第四章 テレの家、遠くからの使者
景子とテレは、七年ぶりの再会だった。久しぶりの再会に、戸惑っている。ヨースケに会ったばかりの日に、景子と再会を果たした。この再会は、誰にも伝えてはいけない、そんな気がしていた。テレの家には、遠い遠いとこから戻ってきた景子が来ている。お互いに、再会を果たしてから、何もしゃべっていない。心の中で、何時間も話しているようだった。気づいたら朝日が部屋に差し込んでいる。
「おはよう、テレ」
「おはよう、景子さん」
「やっと会えたね」
「うん、やっと会えた」
「嬉しいはずなのに、どっと疲れちゃった」
「しょうがないよ、再会してから時が止まったかのように座り続けていたから」
「いろいろと話したいことがあります。でも、今日はこのまま帰ります。あと数日は東京にいるからその間に、もう一度ここで話さない? 私の携帯番号とメールアドレスのメモ残しておくね。そうだ、明後日の七月十三日の夜の二十三時くらいにここに来ていい? その時、今日、話せなかったこと話しましょう」
「うん、わかった。じゃあ、ここで明後日の二十三時に待っているね。ちなみに明美のことは知っている? 結婚して、立川に住んでいるよ」
「うん、知っている。テレビでチラッと見た。明日にでも、お店に行ってみるつもり。きっと、明美は敵ではないから、大丈夫」
ふと、景子の空気感の変化に不安になった。また、会えなくなったらどうしよう。
「景子さんは、小学時代は立川の小学校に来ていた?」
戸惑いを見せる景子は、答えを濁している。
「また、明後日話しましょう」
「この部屋、なんか変な感じがするけど、大丈夫? 怖い感じがするよ」
「え、たぶん大丈夫だと思う」
「とりあえず、久しぶりの再会だったけど、話は明後日ね」
景子は、部屋の扉を開けて出ていった。このまま帰してもいいのか不安だった。でも、止められなかった。小学時代の想い出がフラッシュバックする。怖さと不安が、沸き上がってくるが、それどころではない。ケースケが来たばかりだから、今後の対策をしないとやばいと、眉間にしわを寄せて、考え込むのであった。
少し眠ろうとしていた。テレは、シャワーを浴びて、さっぱりしてから少し眠った。ほんの少しだけの睡眠のつもりだった……
テレが目覚めたのは、七月十四日の夕方だった。三日経っていた。景子が来る予定だった時間にも眠っていたようだ。景子は来なかったのだろうか。幸い、急ぎの仕事は無く、電話もメールも未着信の状態だった。あのまま帰して良くなかったかもと思ったが、とりあえず、景子に電話をしてみたが、出なかった。教えてもらったアドレスに、メッセージを送った。それもはじかれてしまった。教えてもらったアドレスが違うのか、とにかく無茶苦茶だった。
せっかく会えたのに、また離れ離れになってしまった。
玄関先には、インターフォンを鳴らす養父のヨースケがいた。初めて来てくれた養父を招き入れた。
「天海が、ここに来たらしいな。いろいろあったようなので、心配になった。電話鳴らしたが全くの不通だったんだぞ。何があった?」
「実は、景子が三日前にここに来て、昨日の夜ここで色々と話すことになっていた。でも、三日間寝続けていたので、会えなかったんです。とーさんですよね、ここの住所を景子に伝えたの?」
「詳細は伝えていないけども、景子にスタジオの名前は伝えたので、それをきっかけに調べてきたんじゃないか?」
「そうなんだ……」
養父が来た理由は、だいたい分かった。景子と同じ症状に感じるけど、何かが違う気がする。病気と言うより、何かから隠されていたようだった。
「テレよ、とりあえず元気そうで何よりだ。昨日、深澤という方から電話があり、取材や写真撮影をしたいと言っていた。カメラマンは、テレと伝え聞いていた。一応、受けるつもりだが、その仕事大丈夫か? 変な匂いを感じるぞ」
「多分、大丈夫だと思います。でも、不安なら深澤さんの事調べてもらいますか? 師匠のつながりで、聞いてみましょうか?」
「いや、そこまでしなくていい。多分、取り越し苦労だろう」
「とーさんの危惧することはよくわかります。立川近辺を探っているいろんな連中がいることも知っています。何とかなると思います。このあと暇ですか? 暇なら一緒に食事に行きませんか?」
「すまん、忙しいのでまたにしてくれ。元気そうでなにより」
養父は、テレの家を後にした。その後、この養父と会うことは無くなってしまった。次の日、教会で殺害されていたのが見つかったのだ。警察からいろいろと聞かれたが、何を聞かれたか覚えていない。「なんか、ヤバイな」その言葉だけを胸に響かせて、再び眠りに入ってしまった。
この部屋から出ていく人が、どんどん消えていく。怖い現実が頭をよぎる。景子のことをとにかく心配していた。明日あたり、立川に行かないといけない。養父の葬式もそうだけど、明美に会いに行こうと思っていた。
翌朝、立川に向かおうとすると、深澤からの電話が鳴った。
「テレさん、神父さんが亡くなったニュースを見ました。突然すぎて怖いです。来月の取材の件は、一旦保留にしてください。メインの教会が写せないなら、この企画はできないかもしれません。数日時間をください、また連絡します」
その後、直ぐに師匠からも電話が鳴った。
「テレ、大丈夫か? お前の周り相当厳しいぞ。ケースケには気をつけろ。お前に殺意が向いているぞ。警察に相談するか?」
「ケースケのことは、聞かれなければ伏せておこうと思います。問題が大きすぎて、今は、それどころではありません」
「葬式の件はどうするんだ?」
「しないといけないけど、とりあえずこれから教会に向かいます」
「警察がいると思うから大丈夫だと思うから、とにかく周囲には気をつけろよ、誰も信じないほうがいい」
「また、連絡入れます。お気遣いありがとうございました」
深澤さん、師匠と続けざまに話した。養父が亡くなったことがいまだに信じられない。複雑な思いを携えながら、ふと声が聞こえたような気がした。
「景子だけを信じて、他は信じないで……」
しばらく見ていなかったポストを見に行く。一週間くらいの量なので、相当な数であった。それなりに重要そうなのは、深澤さんからの書類入りの封筒だけだった。あとは、たくさんのチラシ類ばかりだった。いつもなら、確認しないで捨てるチラシを、この日だけは、一枚一枚と内容を確認している。どれも、関心を刺激するものではなかった。父が亡くなったことがショックだったけど、このチラシを淡々と確認していた。残ったチラシは一枚だった。半分に折られた間に、手紙が挟まっていた。
テレへ…… 景子からの手紙だった。消印は無いので、直接投函してくれたようだ。待ち合わせの時の投函のようだった。中身を確認する。
「景子です。今日ここに来た時に話そうと思ったことを手紙にして残していきます。この先、どこで再会できるか分からないので、覚書として残しておきます。まず、最初に行っておくことがあります。小学時代のテレに会ったのは、間違いなく私です。その時のテレのはにかんだ笑顔が印象的だったのを、今でも思い出します。写真撮影に興味を持つようになったのは、その時のテレの笑顔に夢中になったからです。でも、その日の晩から、半年間の眠りに入ってしまいました。その日の夕食の時に愛知への引っ越しの話を父親から告げられました。昔から、強いストレスをきっかけにした眠り続ける病気を患っていたのですが、この日の眠りは、長期間でし…… そうそう、テレや明美らと一緒に行った熱田神宮での撮影会の後、ケースケに呼ばれて、衝撃的なことを言われて、その後、三年半眠り続けていました。眠っている間に、面倒見てくれていた祖母が亡くなり一人っきりになったんです。大学の退学は、祖母が手続きをしてくれました。この手紙で伝えたいのは、『とにかくケースケの怖さを思い出して』です。とにかく、彼は危険すぎです。これ以上ここにはいられそうにないので、この辺にしておきます。あとは、どこかで会えたら話します」
手紙をポケットにしまった。その後、父の亡くなった教会に向かうのだが。