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第八話 青と白

タイトルめっちゃ適当。

 シラスとルナが進んでいた平原は北に向かうに連れて、雪がまばらに地面を覆い隠し始めた。雪山へ近づいていくにつれ怪物達も凶暴性を増していく。

「パワースラッシュッ!」

 シラスは背中から棘の生えた熊型モンスターに斬りかかる。ダメージエフェクトの赤い煌めきが真っ白な雪に飛び散る。

 グルルと喉を鳴らし、怪物は地面に倒れ込んで消滅していく。赤い本だけが地面に残された。モンスターが残したのは金貨と木の粗末なバックルだった。

「ふぅ、そろそろエルレノ村に着くかな?」

「マップではそろそろ着くはずよ。もう見えてくるんじゃないかな。あっ、あそこね」

 ルナが指差す先には、町の簡素な木のゲートが見えている。

 

 シラスが到着すると、木製ゲートにぶら下げられた看板が彼を出迎えてくれた。

 雪山の麓の町”エルレノ”には家々が間隔を開けて並んでいる。穏やかな街並み。バトルロワイヤル中だからか、町人NPCノンプレイヤーキャラクターは配置されておらず、少し寂しい感じがする。

 町の中心には樹齢百年以上にもなりそうな、四メートルほどの大きさの木が立っている。この木はエルレノ雪山(せつざん)の神が作り出したとされ、御神木として村の人々に崇められている。

 シラスは町の中心に向けて歩き出す。

「ゴールドはどれくらい持ってる?」

「えっと、20枚くらい?」

「シラスビンボー!」

「えぇー、そんなこと言われても……」

 真面目に受け止めたシラスを見て、ルナはくすくすと笑った。

「冗談よ。それくらいあればポーションが三個くらい買えるから」

「一個六ゴールドくらいか。高いなぁ」

「シラスが途中でモンスターにダメージ食らっちゃうからー」

「ぐっ……失礼しました」

 頭をぺこりと下げた。

「よろしい! じゃあポーション買ってさっさと、雪山攻略よ!」

「売店はどこに……ってここか!」

 神木の周りは広場になっており、周りには店々が並んでいる。高価な装備が購入できるわけではなく、あくまで装備品がドロップしない運がない人がゴールドを集めて、最低限の装備を手にいれるための救済措置だ。

 そして店の中の一つがポーション屋になっていて、装備を揃えたプレイヤー達は基本的にここでゴールドを消費していくのだ。

 そして、シラスもその一人だった。

「ポーションください」

 シラスが話しかけると、気さくな店主が言葉を返した。

「らっしゃい! どのポーションを買っていくかい?」

 シラスの目の前にウィンドウが出現する。

 十数種類のポーションがずらりと表示される。赤いHP(体力)回復用、一時的に一つのステータスを上昇させるもの、そして、別の数値を犠牲にしてステータスを大幅に上昇させるポーションなど品揃えは多かった。

「えっとー」シラスはルナに目配せをした。「師匠、どれを買えば?」

「とりあえず回復でいいんじゃない? ステータスを二倍にするアビリティとかだったらステータスアップポーションをおすすめするんだけどね」

「でも防御力とかもなぁ……」

「もうー、聞いといて悩むとかシラスっぽいっちゃぽいけど」


 ポーション屋の前で悩んでいる黒髪白メッシュの男を、神木の陰から一人の女が覗き込んでいた。

 青いツインテールにレザーの鎧。白いコート。なにかを怖がっているかのようにオドオドと静かに男を見ている。

 数秒考え込んだ後、怯えたような表情を浮かべていた彼女は意を決したようにコクリと頷き、木の陰からするりと身体を出して近づいていく。

「あ、あのぉ……」

 絞り出したような小さな声を出すと、男は驚いたようにひぃと声を漏らした。

 

 店主が回復ポーションを手渡してきた時と同時に、急に話しかけられ、シラスは驚いてたじろいだ。声の方を見ると青い髪の女の子が、すこし距離を離して、申し訳なさそうに立っていた。

 背も小さく表情からは敵意は感じられないが、シラスは警戒を怠らなかった。咄嗟に腰に差した剣に手を伸ばす。

「ち、ちがうんです」彼女は両手を前に出し、手を振った。「あ、あの、その、戦うつもりはなくて、ぱ、パーティー相手を探してて……」

「ちょっと、サポーターと相談させてもらってもいいですか?」シラスは彼女が頷くのを確認してルナと喋り始める。「ルナはどう思う? パーティー組んでもいいかな?」

「シラスがどうしたいかでいいよ。裏切りとかできなさそうな感じはあるし」

「そっか、まぁ仲間は多い方がいいよね」剣を掴んでいた手を緩めた。「今から雪山でアイテムを集めるんですけど、それでも良ければ一緒にどうですか?」

「あ、ありがとうございます。わたし、シズクって言います」

「僕はシラスって言います、ちなみにこっちの飛んでるのが……って見えないんだっけ」

「見えるように設定はできるよ」

 ルナがウィンドウを数秒弄ると、シズクの視界の前に妖精が現れた。彼女は驚きのあまり目を丸くした。

「よ、妖精さんだ!」

「私はルナ。彼のサポーターだよ、よろしくね」

「は、はいよろしくお願いします!」

「んじゃ雪山へしゅっぱーつ!」

 ルナの掛け声に彼らは雪山を目指し、早足で歩き出す。

 雪は深く、歩みを進めるたびに沈み込む。ゲームとはいえ、かなり現実に近い感触がシラス達の足を伝う。

「そういえば、シズクさんのアビリティってどんな感じ?」

「え、えっと、見せた方が早いかもですね」シズクはその場でしゃがみこみ、地面に手を付く。「く、アルケ・クラフ!」

 か弱い声でアビリティ名を呟くと、地面を覆う雪が隆起し始め、一メートルほどの雪だるまが作り上げられた。

「こ、こんな感じで、物の形を変えたり合体させたりできます」

「すごい! 僕のステータスアップアビリティより全然強そうだね!」

「雪なら無限にあるし、無敵じゃない!」

「い、いえ、戦闘がかなり苦手で……」

「それはシラスも一緒だから、お互いに補助しあってがんばりましょ」

 

 雪山は一面の銀世界が広がっている。

 ブーツや靴から染み込む雪は、現実世界と違い冷たくない。水が染み込む不快な感じもない。

 岩や木々も疎らだが生えているが、遮蔽物としての期待はあまり高くなさそうだ。所々に木製の掘っ建て小屋が見えるが、ルナ曰く、隠れたり遮蔽物としての機能しかないそうだ。

「シズクさんって武器とかもってないの?」

「確かにそうね。防具はあるようだけども」

「あ、えっと、今まで倒してきた人達が誰も持っていなかったので……」

「えっ?」

 シラスは耳を疑った。

 それはルナも同じだったようだ。彼女はすぐに質問を返した。

「シズクちゃん、何人のプレイヤーと戦ったの?」

「ご、五人くらいです! で、でも戦ったというよりパーティに誘ったら襲いかかってきたので……」

 驚きと同時に、ほっと胸をなでおろしたシラス。自分も剣を抜いていたら、彼女の餌食になっていたかもしれないと思うと自然な反応だ。

「し、シズクさんって強いん……だね」

「運がよ、よかっただけです! あ、あの広場に生えていた大木を利用して反撃できたので……」

 ルナとシラスは目を合わせ、無言で頷き合った。互いに彼女をパーティーに引き入れて正解だったと思ったのだろう。

「そ、そっか……シズクさん、これ使ってよ!」

 シラスはインベントリから手に入れた木のバックラーを具現化させ、シズクに差し出した。

「い、いいんですか?」

 木材を金属で補強しただけの簡素な盾。シズクはそれを受け取ると、嬉しそうにそれを眺めている。

「ありがとうございます! こ、これなら色々な武器に変更できそうです!」


 標高はかなり高くなってきて、眼下に広がる広大な土地が見渡せた。西の方角には真っ黒な雨雲が立ち込めている落雷地帯。西南にはシラス達の通ってきた草原地帯が穏やかに広がっている。

 数分、雪山を散策するシラス達の目の前に、大きな雪の塊が道を塞いでいた。

「あっ、あれなんですかね?」

 シズクは知的探究心が強いのか、雪玉に歩いていく。

 近くによるとそれが雪玉ではなく、真っ白な毛玉だとわかったが、すでに遅かった。

「シズクちゃん! それっ——」

「きゃっ!」

 ブルリと雪玉が震え、丸々としたそのモンスターが正体を現した。丸々とした体。モンスターが振り返ると、ゴツゴツとした岩の仮面を被ったイノシシのような頭を持ってた。

 シールドボアと呼ばれるその猪ベースのモンスターは、頑丈な鉄のような盾で頭を守り、鋭い剣のような牙で相手を攻撃する。丸々した愛らしい丸々とした体と短い四肢とは裏腹に、凶暴な性格を持っていて目の前で動くものには容赦なく突撃をする。

 その怪物を前に、硬直するシズク。

 地面の雪を蹴り上げ、シールドボアは彼女に向かって突進していく。

「シズクさん、あっ危ない!」

 シラスは一歩前に踏み出し、武器の攻撃力を上昇させ、シールドボアを下顎から斬りあげた。

 怯んだモンスターは消滅には至らなかったものの、体勢を崩して雪の上を転がった。

 鼻息を荒げた二匹目が、シラスの脇腹を狙って牙を突き立てようと突進をしてくる。

「アルケ・クラフ!」

 彼女の腕と盾がシズクの手の中にあったバックラーが姿形を変え、一本の長槍に作り変えられた。どうやら彼女のアビリティは素材さえ合っていれば、盾を他の武器に作り変えることができるらしい。

 彼女が作り出したのは、先端から三叉に枝分かれした十文字槍は、殺傷力も高く単純な槍よりも色々な動かし方に対応が可能になっている。

「ごめん、ぶたさん!」

 シズクはシラスより前に出る。

 槍を力強く突き立て、シールドボアの顔部を貫いた。三本の槍は怪物自身の突進の速度でぐんぐんと奥深くまで突き刺さっていく。

 それでもシールドボアは高いHPと防御力を有し、倒れることなく突進を続けた。

「お、押される!」

 雪の上をずるずると押されていくシズク。

「パワー・スラッシュ!」

 シラスはモンスターの腹部に剣を突き立てた。

 ダメージエフェクトと共に怪物の動きが止まった。空中に赤い小さな欠けらをばら撒き、モンスターは消滅した。

「あと一匹! いけーシラス、シズクちゃん!」

 起き上がり突進してくる怪物に剣と槍が突き出され、バリンと怪物は砕け散った。

 ドロップされたのは鈍い銀色の鎧と金貨だった。

 どう分配すればいいのか分からず、戸惑っているシラスの意図を汲み取ったのか、シズクが先に口を開いた。

「シラスさんがもらってください! わ、私はレザーアーマーがあるので大丈夫ですから」

「そうよ、シラスは運がなさすぎて防具つけれてないんだから」

 自分の体に初期のアバターしか装備されていないのを見て、コクリと頷いた。

「ありがとう」シラスが鎧に触れると、アイテムはインベントリに仕舞われる。「えっと、DEF(防御力)がにじゅ——」

 雷とも聞きちがえる内臓を響かせる低い破裂音が、雪山一帯に轟いた。

 シラスの肩からダメージエフェクトが飛散する。衝撃で吹き飛ばされ、シラスの体は斜面を十数メートル転がり落ちた。


 


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