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第十話 レアアイテムを求めて

「シズクちゃん!」

 レッドイエティの太い腕で繰り出された薙ぎ払いを食い、吹き飛ばされたシズクは数メートル吹き飛ばされたところで地面に叩きつけられた。

「ぐっ……だ、大丈夫です」

 シズクの手の中には、金属製の狙撃銃を組み替えた真っ黒な盾が握られていた。彼女はそれでギリギリ攻撃を防いだが、衝撃を受け止めきれずに吹き飛ばされた。

 シラスは雪山の斜面を滑りおり、赤い巨体に飛び掛かる。

「こっちだ! パワー・スラッシュ!」

 モンスターの背中に突き立てられた剣はシラスの重みで下へと切り込みを入れていく。縦一線に赤いダメージエフェクトの線ができ、怪物は痛みに抗うように雄叫びをあげる。

 攻撃してきた敵に反撃しようと、後ろを振り返るが、後頭部に弾丸が打ち込まれた。

 ボスモンスターのHPゲージは残り四割ほどになり、シラス達は勝利の兆しを見た。

「ナイス、シズクさん! このまま押し切れば勝てるよ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいなにか様子が変です……」

 怪物は痛みにもがき苦しむ様に、頭を抱えしゃがみこんだ。

 シラスが怪物に斬りかかろうとすると、怪物は悶えながらも腕を振り回して剣を寄せ付けない。振り回した腕を回避し、もう一度近づこうとしても怒り狂った怪物の攻撃は激しくなっていく。

 シズクはもう一度、銃弾を撃ち込もうとするが、マガジンに弾は一発も残っていなかった。

 怪物は叫ぶ。耳をつんざくような甲高い奇声。怪物はふんぞり返り、天を仰いだ。

 赤い体毛に塗れた怪物の両脇腹が、沸騰した水のように躍動を始めた。体毛がもぞもぞと蠢いている。

「な、なにが起きてるんですか?」

 気味の悪い音と怪物の叫びに続き、脇腹からもう一対の腕が飛び出す。毛皮の上からでもわかるほど、怪物の筋肉が隆起する。

 怒り狂ったレッドイエティの目は爛々と輝き、シラスを睨みつけている。

 次の瞬間、怪物は地面を蹴って拳を振り下してくる。

「こ、こっちに来るのか!」飛びかかってくるイエティを回転で回避するシラス。「スピード・フォルテッ!」

 四本の腕から繰り出される怒りに任せた攻撃を避けるため、シラスは雪の上を駆けた。拳が打ち付けられる度に雪が飛び散って地鳴りの様な音をあげる。

 先ほどよりも機敏さと手数を増したイエティの攻撃に、シラスは回避で精一杯だった。

 

「あ、アルケ・クラフ!」

 シズクはなくなった銃弾を作り出そうと盾にアビリティを使う。が、消耗品である銃弾はアビリティでは作り出すことはできないらしい。

「制作、で、できない!」 

 うまくいかなかったことにシズクは動揺した。

 赤毛の巨大猿人は地面を手当たり次第に叩きまくっている。なにかしなければ、シラスの回避もいつか間に合わなくなるだろう。

「し、シズクさん!」シラスは回避しながら声を張り上げた。「何かリーチのある武器を!」

「わ、わかりました!」狙撃銃を手にシズクは武器を思い浮かべた。「こ、これです! アルケ・クラフ!」

 狙撃銃の全体が一瞬光に包まれ、一本の長い槍が生み出される。黒く艶やかに煌めくその槍の先端には鋭い穂がつけられ、石搗きにはスコープを使ったであろうガラスの飾りがつけられていた。

「で、できました!」

 シズクはそれを両手でしっかりと握りしめた。金属のつやつやとした感覚がシズクの手に伝わる。

「い、いきます!」

 地面の雪を踏みつけ、レッドイエティの背中へ向けて走る。

 背中に槍を突き立てようと、跳躍するシズク。

「え、あ……」

 槍を突き立てようとするシズクの目の前に、怪物の拳が飛んでくる。

 野生の勘か、生存本能か。怪物はシズクの足音で位置を予測し、拳を振るった。

 一瞬のことだったが、シズクには数分の様に感じられた。空中で体の位置を変えることもできず、槍を盾に作り変えるのも間に合いそうにはない。

 脊椎反射で目を瞑るシズク。

 一瞬の静寂。

 そして、シラスの声。

「パワー・ストライクッ!」

 怪物のうめき声。拳はシズクの身体すれすれを通り抜け、空を殴りつけた。

 シズクが目を開けるとシラスが怪物の膝に剣を突き立てていた。怪物の体勢をすんでの所で崩し、なんとかシズクへの直撃を防いだ。

 だが怪物の拳は大きく、結果的にシズクと彼女の持っていた槍を弾き飛ばした。

 槍は空を舞い、地面に突き刺さった。

 シズクは地面を滑るがなんとか踏みとどまった。HPは削れていくが、六割ほどで止まっる。

 四つ腕の怪物は動きの素早いシラスに見切りをつけたのか、シズクへとどめを刺そうと近づいていく。

「い、いまです!」

「パワー・フォルテ!」

 赤い炎のようなオーラを纏った黒槍が怪物の体を貫いた。

 真紅の体毛から飛び出す茜色のダメージエフェクト。

 怪物のHPが底を尽き、怪物の体は割れたガラスとなってバラバラに飛散した。

 

 激しい戦闘が終わり、数秒の沈黙が出来る。

 体力を回復するためにシズクはポーションを飲んでいる。

 シラスはふうとため息をついた。一つ目の目標を達成した充実感に浸っていた。

「なかなか連携取れてるじゃない、二人とも」

「シズクさんが槍を作ってくれなかったら、負けてたよ」

「い、いえ、私は別に……」

「謙遜することないよー。アビリティも使いこなせてるし、じゃんじゃんプレイヤーとかも倒していこうね」

「は、はい!」

「そういえばレアアイテムは……」シラスは思い出した様に怪物が落としたアイテムへ駆け寄る。「おおおお!」

 白い鎧が雪の上に残されていた。所々に金色で装飾が施されており、両肩には獅子の紋章が入っている。頭以外の身体全部を守ってくれるこの鎧は、シラスがつけている物よりも数段上の性能を持っている。

 レアアイテム、そして西洋鎧好きのシラスはこれをかなり気に入った。

「へへーん、やっぱりこういうのが好きだよね。これをゲットするために来たんだから!」

「うん、かっこいいし最高だよ! あ、でも……」

「わ、私は大丈夫ですよ! それに勝手についてきたのは私ですから」

「ごめんね、シズクちゃんの分もなにか考えるから」

「ありがとうございます!」シラスが鎧に触れると、インベントリを操作し、鎧を身に纏った。「おおおお、かっこいい! こういうの、着てみたかったんだよね!」

 装備された鎧を隅々まで確認するシラス。

「か、かっこいいですね! 似合ってますよ」

「なかなか似合ってるわね! 混戦状態でもかなり目立つから、視聴者にも人気がでるね」

「……それって敵に狙われやすいんじゃ?」

「……まぁそれは……」ルナはそっぽを向いてシラスの疑問を濁す。「さておいて、次は落雷地帯を目指す! 装備はそいつらを倒して奪うのが早いからね!」

「……えっと」

「ぷ、プレイヤー戦ですか。経験はないですが、やってみます!」

 意外にもシズクはPVP(対人戦)に前向きの様だ。

 シズクとルナは西に向けて歩き出す。それについていく形でシラスもトボトボと歩いていく。

 遠くに立ち込める黒雲。時折雷が地面に向かって降り注いでいる。シラス達のいる場所から見ると、降り注ぐ雨が天然のカーテンの様にも見える。

 

 

 シラスがちょうど狙撃手にとどめを刺した時、ヤイバは火山まで来ていた。道中から倒したモンスターから拾った赤い鱗を使った鎧が、こぼれ落ちる溶岩が放つ光に照らされてツヤツヤと輝いている。

 溶岩が固まった黒っぽいゴツゴツとした地面のそこかしこからは、蒸気が吹き出していて、ゲーム中じゃなければ熱さで立っていることもままならないだろう。

「もう、すぐそばまで来ているはずだが……」

 ヤイバの耳に、彼のサポーターの低い声が届く。

「そうっぽいけど……、あそこかな?」

 固まった溶岩でできたアーチを抜けると、ヤイバの目の前には山を切り崩した炭鉱の様な場所が見える。

「詳しい情報を与えられなくてすまないな。私がプレイした時とはマップもかなり変わっているらしい」

「全然いいよ! そっちの方が探索しがいがあるし……って誰か来る」

 ヤイバは咄嗟にアーチの後ろに身を隠した。

 炭鉱の奥にぼんやりと三つの人影が見えた。赤い鎧がカモフラージュになったのか、彼らはヤイバの事に気付いていないようだ。

 

「なーんもなかったな、ここー!」

 彼らもまた洞窟の奥を探索しに来たパーティのようだ。大きな話し声が聞こえてくる。

「貴方がここに絶対何かあるって言ったんですよね」

「ほんとだぜ! やっぱりお前、適当だな」

「そうかなぁー、きっとなんかあると思ったんだけどさー!」

 元気な話し方をしている男を他所に、他の二人はやれやれと首を振った。

 仲の良い彼らは配信者のグループを組んでいる三人組で、このバトルロワイヤルには勝つために参加しているというよりは、楽しめればいいと思っていた。リーダー格の元気な男が面白そうな場所を見つけては、他の二人が振り回されるらしい。

 彼らはヤイバの隠れているアーチの脇を抜けようと真っ直ぐに歩いてくる。

「次はどこへいくんだ? 俺はそろそろ戦闘がしたいんだが」

「確かにそうですね。少しでも目立って置きたい所です」

「えー、戦闘かー! そうだ——」

 視界の端に何かを捉えた時には、その者が持っていた二本の剣が目の前まで迫っていた。

 次の瞬間には彼らから飛び出した赤いガラス片の様なダメージエフェクトが、彼らの視界いっぱいに広がっていた。

 

「流石、鮮やかな剣捌きだ。今のは見ていて惚れ惚れしたぞ」

「黒崎さんに選ばれたんだし、当然でしょ!」

 ヤイバは地面に残された彼らのアイテムから、ポーションや剣などの使えそうなアイテムだけを拾い上げた。それらをインベントリにしまい込むと、余ったいらない物を溶岩の溜まった場所へ投げ込んだ。それは他のプレイヤーにアイテムを与えないためでもあり、自身の痕跡を消すためでもあった。

「何もないって所って言ってたけど、一応見ておくか……」

 誰に伝えるわけでもなく、ヤイバはそう呟くとトンネルの奥へと走り出す。

 山をくりぬいて作られたトンネル。地面にはトロッコが通せるように敷かれたレールがあり、壁には等間隔に松明が置かれていてオレンジ色の光がゆらゆらと暗い洞窟内を照らしている。くねくねとカーブするトンネルは二百メートルに渡って続いていた。

 最後のカーブを曲がると、ヤイバの目の前には行き止まりを示す木の柵と石材が積まれたトロッコが置かれている。乱雑に掘った後が残されているのみで、行き止まりになっている。

「やっぱり、ここが最終地点なのかな……」

「ヤイバ、マップを見る限りではまだ奥に続いているみたいだ」

「ふーん、でもやっぱり」ヤイバは試しに道を塞いでいるトロッコを軽く蹴った。「お! なるほどね」

 ヤイバの蹴りはトロッコを通過した。どうやら今見えているトロッコや行き止まりは幻影で、実際には道が続いているらしい。

「気を付けろ、もしかしたら奥に敵がいるかもしれない」

 ヤイバは返事はせず、コクリと頷いた。

 ゆっくりと警戒しながら幻影の中をくぐり抜けていくと、そこには巨大なドーム状の空間が広がっていた。中央には紫色の鱗の巨大なドラゴンが倒れており、それを討伐したであろう三人のプレイヤーが、戦利品の確認をしていた。

 

 



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