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アーキテクト・ワン  作者: 月結びおにぎり
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3,人じゃないもの

3,人じゃないもの


不規則なゴツゴツした火山岩に囲まれた洞窟のような場所を慎重な足取りで歩く。

いよいよ自分は死んだのか?

そんな疑問のまま、三郎は数百メートル離れた先に人工物らしきものをぼんやりと見つめていた。

この先、きっと何かが始まる。

あの人外の親父の命と引き換えになるほどの何かが始まる。

これがもしも、映画のワンシーンならば、きっと、この次のシーンこそが

今まで生きてきた過去の世界と、これから生きる未来の世界をはっきりと分かつ分岐点なのだ。

BGMでも欲しいところだ!

「さて、往かん!」

三郎は、あの人工物らしきものへと向かって歩き出す。

ごぽ、ごぽ、ぼっこん。

重みのある、粘着性の強い流れ、マグマの河。

熱さは感じないものの、至る所に噴き出している溶岩に落ちればひとたまりもないだろう。

時間の感覚が無い。

今が昼なのか夜なのかもわからないが

そばを流れるマグマの灯りで十分すぎるほど辺り一面明るかった。

文明技術の粋、電気こそが現代人の生きてきた常識である。

「明るい場所はうるさい。」という現代人の常識のせいで明るいのに静かなこの場所には違和感を感じる。

マグマのゴッポゴポいう音が、すごく遠くの音なのか、近くから発している音なのか

それさえも聴覚認知できない程に静かな場所だった。

こんなに静かなのは、ここに動物がいないからなのか?

そもそも地球内のように見えているだけで、ここが現実なのかどうなのかも疑わしい。

歩く先に見えてくるシルエットは、あぁ机だったのか。

祭壇のような机。机と言うのは食事や会話をする場所のもののはず。

僕は招かれている?

机には2人の「生き物のような知性を感じる何か」が座っている。

席は4席。

そして、あの天才的な父にあれほど言わしめた体験がこれから始まるのなら

これからの会話は、この世界にとって何かの変化に相当する会話なのだろうか。

僕は大丈夫か?

僕の道徳心、僕の話術、僕の知識は、世界の重みに相当するであろうか?

自分の住む世界はどうなってもいい。

むしろ自分はどうなっても良い。

ただ、選択のチャンスなく世界が消滅していく程の事を成す会話が

これから展開されるのならば、僕以外の生物全ての命への責任を少しは感じる。

何かの主人公になったようで恐縮ではあるが、もはや今までのぶっ飛んだテクノロジーやら

親父の死やらで、異様な出来事の数々が、これからおこる更なる異常事態を容易に予測させるんだ。

涙は出ない。むしろ、罪悪感に近い。

さぁ、不気味な2人のいる机の前まで来たぞ。

やはり、か・・・。

三郎は自分の妄想が妄想以上の現実である光景を目の当たりにした。

席は4席。

マグマの流れる溶岩石の上にそのまま机とイスだけがポツンと鎮座している状態なので

上座か下座かもわかりはしないのだが、僕が歩いてきた方向から一番遠い位置に空席の席があり

その左右対面するかのように「知的生命体と思われる何か」が2体座っていた。

その様相がいよいよ本物の異様であった。

1人は無数の発行体が散りばめられたスライムのようなモノで覆われており、クリスタルのような

ハードコア?と思われる基盤が頭部らしき場所の中に入っていた。

スライムのような流動液が身体全体をうごめいており、電気信号なのか、電力なのかが身体中を

移動しているものの顔も身体も動く事はなかった。

もう一人は、中世の鉄鎧より遥かに優れた技術と、恐らく僕の知り得ない金属で

造られたような、全身鎧を身に纏っていた。

アヌビスに似た仮面をしている人型の騎士のようで、こちらの方がまだ、人としての会話が

通じる気がした。

「いやぁ、すまないね。

まずは自己紹介といこうか。

私の名前は二ビルと言う。そっちのグチャグチャしてるのが、ツクヨミと言う。

本来、私たちは、共生体であるので、個体判別が必要な“名前”なんてものは無いんだけど

君達の世界の生き物と会話をする時は、こういう風に名乗っている。」


スライムみたいのがツクヨミ。

金属鎧の二ビル。

ふぅー。と、あらかじめ用意していた心の防御を更に強めて三郎は口を開く。

「はじめまして、三郎です。」

相変わらず、2人とも声のような音がするものの、顔も頭部も全く動かない。

生物の形をしているだけの無機質なスピーカーのようである。

「うん。三郎君。

まず、君は頭が良いから、この程度の状況と意味はだいたい想像がつくのであろうが

今一度、安心させておこう。

私たち2人は君達の世界で言うところの“神”とかいう存在だ。

君達の住む地球も月も太陽も私と、そこのツクヨミと2人でプログラムしたものだ。

そこで、君をここに呼んだ理由だけど、決して敵対したいからではない。

そもそも、君達を削除したければ、実は、即座に出来る。

まあ、まずは、これからの君のスケジュールを伝えよう。

君はこれから、地球時間でいう7日間、私達2人と夕飯の食事に付き合ってもらう。

場所は僕達の好きな場所で、好きな食事をするが心配はいらない。

君のこれからの7日間の生命体としての身体スペックは僕達2人が地球で活動する時のものと

同じに設定してある。

傷も即座に治るし、毒も老化も身体に影響しない。頭の回転スピードは今の君の1.5倍くらいにしておいた。


今の時点でも、君の頭脳では地球は退屈であろうけども

まあ、退屈と感じるくらい優秀で無ければ、彼が命をかけなかっただろうし

今ここに立っている未来は訪れていなかっただろう。」

やはり、父の話が出てきたか。

「僕の父は、そちら側の存在だったのですか?」

いまだに、ツクヨミ神は口を開かないが、そんな異様さは、もう、この状況下ではどうでもいい。

「うん、そうだね。正確には、かつては、という所だけどね。」

「やっぱりそうですか。少し残念です。

僕はめんどうくさがり屋なので、こんな場所に、何か重い責任を持って

対峙する人生よりも、何も知らず、何の脅威にも気づかずに生きる人生が良かったです。」

「はは。そうかもね。

まあ、恨むなら地球を愛してしまった、君のお父さんを恨んでくれ。」

「・・・・。」

「さて、早速で、かつ、いきなりで申し訳ないが君には、今回のこの宇宙。

存続かリセットかのどちらかの選択を判断させてもらうサンプルとして

“会話”という席を用意した。

僕達がプログラムした世界だ。リセットは簡単に出来る。

それもリセットは今回が初めてではない。

宇宙は何個も泡のように存在する。

その中で、ピタっと偶然に近い形で形成存在した好条件の宇宙だけを僕達は残す。

驚かないで聞いてほしいが、今生きる君の地球でさえ、人類の絶滅は2回あった。

それは僕達によるリセットとは別の歴史上での話だ。

よくよく歴史を思い返してみると絶滅の確証情報を、写真で見たり、謎の多い年代史実に

疑問を持ったりした事くらいはあるだろう?」

三郎:(バボロボのバスタブ、アレクサンドル支柱、サン・セヴェーロ礼拝堂など数え上げればきりがない程確かに現代の最新技術の3Dプリンティング技術を持ってしても建造不可能な歴史的建造物は、この世界には無数に存在する。)

だが、今回の存続有無の選択は人類というか、地球そのものの話だ。

その存続有無の選択を君との“会話”によって決めさせて貰おうと思う。」

“いいかい三郎、始めに言葉ありきなんだ”

父の遺言とも言うべき口癖が頭をよぎる。

「これから、7日間に渡って、君の世界で言う“神の子達”でさえ知り得なかった情報を君に託そう。

調べても答えのでない情報達だ。

そして君は人類の文明で知り得た“調べれば知る事の出来る情報”の全ての歴史観で

僕等を楽しませてくれ。

会話は何時間でもいいが、君の寝る時間や、調べたりする時間もあるだろうから

8時間は超えない方がいいと思うよ。

会話の開始時間は、毎夜18時スタートだ。

18時―翌2時までの君との会話を僕達2人は楽しませてもらう。

それまでは君の部屋で好きに待機していてくれて構わない。

今回の君との会話で、君達の住む地球の過去も未来も現在も、全ての命運が決まる。

そんな大役に相応しい部屋を君には用意した。

ぜひ、人類代表の三郎君。頑張ってくれ。

では、今日はこの辺で。」

シューン。

マグマの火山内部の世界が蜂の巣の格子状のように六角形のシールドによって空間が歪む。

空間が揺らめき、場所が変化していく。


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