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差し出された手とその答え

「ミシェルを正式な婚約者として認めてもらうために、現国王陛下に掛け合う手助けをして欲しい」


 そう告げたエルヴィスの言葉に、私は驚き声を上げた。


「こ、国王陛下!? 国王陛下って、今病気療養中なのよね?

 それに、エルヴィスでさえも国王陛下には会えていないって……」

「そうなんだ。 国王陛下の居場所が分かってはいるけど、一切の面会を謝絶しているために一度も会えていないんだ。

 だけど、君を婚約者として認めてもらうためには、ベアトリスか国王陛下のサイン……、つまり、国王陛下に認めてもらうしか方法がない」

「そ、そうよね……」


 私はそう答えて黙ってしまう。


(確かに、以前ブライアン殿下の婚約者になる際も、国王陛下にご挨拶をしてその場で署名を頂いた。 それで初めて婚約が成立したことになることを教わったけれど)


「でも、一婚約者である私が、面会謝絶中の国王陛下にお会いすることなんて出来るのかしら?」

「それについては、僕も賭けに出るつもりで君にお願いしたいんだ。 ……国王陛下はブライアンの婚約者であった君のことをとても気に入っているように見えたから」

「た、確かに、国王陛下には以前から良くして頂いていたけれど……」


 その言葉に、エルヴィスは私の手を握って言った。


「この二ヶ月の間で少なくとも何十回と出向いたが、話すら通してもらえなかった。

 最後の頼みの綱はミシェル、君が一緒に僕の婚約者として訪ねてくれることだ」

「……分かったわ。 私も一緒に貴方と行く。

 だけど、一つ尋ねても良い?

 どうして私との婚約が、国王になるよりも重要になると言ったの?」


 私が指しているのは、先程のエルヴィスの言葉だ。

 彼等に対する“復讐”よりも私との婚約を認めてもらうことの方が重要、と言ったからだ。


 その疑問に、彼はじっと私を見つめた。

 そして、握られていた手に更に力をこめると、彼は言った。


「確かに、彼等を断罪することは僕の長年の望みでもある。

 けれど、それよりも僕は、君の隣に一生いられることの方が一番の望みだ」


 そう言い切る彼に息を呑む私に対し、「それに」と彼は言葉を続けた。


「以前にも言ったかもしれないけれど、君以上に国妃に相応しい人物はいない」

「そ、そんなこと」

「あるよ。 それとも、僕が言っていることは信用出来ない?」


 その言葉に迷ったものの、黙って首を横に振る。

 エルヴィスは満足そうに頷いて言った。


「何度も言うようだけど、僕の隣には君以外には考えられない。

 だから君が着くべき場所は、国妃の座だ」


 そう結論づけると、彼はすっと後ろへ下がり、私に向かって手を差し出した。

 驚く私に、彼は静かに告げる。


「もう一度尋ねるよ。

 君は、次期国王の私の隣に立つ、私の唯一の妃となる覚悟が出来る?」

「……!」


 彼の口から飛び出す言葉の数々に、私は思う。


(ブライアン殿下の婚約者であったときは、将来国妃になるかもしれないから淑女訓練を熟さなければ、という使命感に駆られるだけで、ただ漠然としか考えていなかった。

 けれど、エルヴィスの言葉を聞いて、そう遠くない未来で運命が決まるということに改めて気が付いた)


 また、その選択をするには大きな決断をしなければならない。

 国妃、それも国王になるという彼を支えることへの責任というものを今、目の前にいる彼に問われている。


(エルヴィスは私の意志を、尊重してくれているんだわ)


 差し出された手が何よりの証拠だ。

 私はギュッと胸の前で拳を握り、勇気を振り絞って彼の手に自分の手を乗せた。

 それによって、アイスブルーの瞳を僅かに細めた彼に向かってはっきりと言葉を発した。


「はい。 

 私、ミシェル・リヴィングストンは、貴方の次期国王陛下になるという言葉を尊重します。

 そして願わくば、私が貴方の隣で……、将来の国妃として、貴方を支える立場になれることを望みます」


 そう口にすれば、彼は驚いたように目を見開き、やがてふっと笑って言った。


「……さすが、君は僕の期待を裏切らない。 それどころか、僕の期待を上回ってくる。

 僕の婚約者は、最高だ」


 そう言って立ち上がった彼に、繋がれたままの手をぐいっと引かれる。

 そして、彼の腕の中で抱き留められた私の顎に彼の手が触れ、上を向かされた。


「あ……」


 アイスブルーの瞳に映る自分の姿が見えるほど、彼の顔が間近にあって。

 エルヴィスは吐息が触れる距離で微笑み、口を開いた。


「君は僕の救いの女神だ。

 君がいるから、僕は強くなれる。

 だからこれからも二人で支え合い、この国の未来を築いていけたらと思う。

 そのために、僕は君のため、そしてこの国のために国王になることをここで誓う」


 その言葉に、私はしっかりと頷き言葉を返した。


「えぇ、貴方なら必ず。

 国王陛下になったら、この国をもっと素敵な国へと導いていけるわ」

「僕も、そうなることを願っている」


 そう言って二人で笑い合うと、柱時計の0時を告げる鐘の音が鳴った。


「あ……」


 私の誕生日から日付が変わった。

 それはつまり。


「……結局、こんな時間まで君の家にお邪魔してしまったね」

「あら、私は嬉しいわ。

 だって、私が一番最初に貴方をお祝いすることが出来るんだもの」


 そう言って、彼の手をギュッと包み込むように握ると、笑みを浮かべて言った。


「18歳のお誕生日おめでとう、エルヴィス」

「! ……ありがとう、ミシェル」


 そう照れたような笑みを浮かべて口にした彼の瞳には、うっすらと滲んだ涙が光って見えたのだった。




これにて冬休み編終了です!

次話よりいよいよ最終章、3学期編に入ります。

それまでまたお時間を頂くことになるかと思いますが、応援して頂けたら幸いです。

宜しくお願い致します!

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