初めての贈り物
プレゼントを頂いたところで、今度はエルヴィスへプレゼントを渡すことになった。
レティーとレイモンドは、私へのプレゼントとお揃いのロケットペンダントを既に渡し終えていたから、ニールとエマ様から先に渡すことを名乗り出た。
そして、ニールはエルヴィスに細長い木箱を差し出しながら言った。
「エマ様と二人で決めました」
そう短い言葉で告げると、エルヴィスは「ありがとう」とお礼を言って受け取り、その箱を開けた。
その中には、金色の軸に真っ白な羽のついた筆が入っていて。
エルヴィスはそれを見て、「あぁ」と嬉しそうな声を上げて言った。
「ニールが使っている物と同じ筆だね。
以前貸してもらった時に、書きやすい筆だったから欲しいと言ったのを覚えてくれていたんだ。
ありがとう、ニール」
「どういたしまして」
そういつもの無表情で返したニールだったが、その表情は幾分か柔らかく見えた。
エマ様もそれに気付いているようで、「良かったわね、喜んでもらえて」とニールの背中を押しながら言った。
そして、今度はエルヴィスが私の方に向き直って口を開いた。
「ミシェルからの贈り物も、期待しても良い?」
その言葉に、贈り物の入ったポーチを握る手に力がこもる。
彼から送られる期待の眼差しに、私は慌てて言った。
「あ、貴方が私にくれた物よりも、豪華ではない、と思うわ……」
段々自信がなくなって小さくそう言えば、彼は笑って言った。
「何を言っているんだ。
君から貰えるものはなんだって嬉しい。
……それに、こうして君から贈り物をもらうのは初めてだから。
絶対に大切にする」
「!」
その言葉にハッとする。
(そっか、確かにこれが最初のエルヴィスへの贈り物になるんだわ。
今までエルヴィスから頂いてばかりだったものね……)
何だか申し訳なさを覚えながらも、とりあえず贈り物を渡そうとポーチを開いた。
その中に入っている手紙が目に止まったが、私はそれを出すことはせず、一緒に入れておいたハンカチの入った袋だけを取り出して彼に手渡した。
彼はそれを見て、柔らかく「ありがとう」と笑った後、開けても良いかを尋ねてきた。
それに対してドキドキしながらも頷けば、彼は丁寧にリボンを解いて中身を取り出して言った。
「この刺繍……、もしかして君が縫ってくれたの?」
彼はそう、私が施した刺繍……、赤い薔薇の花束をなぞって尋ねた。
私は小さく頷きながら言った。
「そ、そう。 何の刺繍にしようか迷ったのだけど……、思い浮かんだのが、貴方と両想いになれた時に頂いた薔薇だったから。
そういう意味で、薔薇の花は私にとって特別な物だって伝えたくて、刺繍をして貴方に贈ることにしたの」
そう口にすると、彼は驚いたように目を見開き、「もしかして」と口を開いた。
「君が先程僕に本数を尋ねたように、ここに刺繍されているのは5本だけれど……、もしかして意味があったりするの?」
私はその言葉に頷くと、ありったけの感謝を微笑みに込めて口にした。
「私にとって、貴方に出会えたことが何よりの幸せです。
生まれてきてくれてありがとう、エルヴィス」
「……!」
その言葉に、エルヴィスがアイスブルーの瞳を大きく見開いた。
そのまま固まってしまった彼が心配になり、「エルヴィス?」と恐る恐る名前を口にすれば、彼は急にガバッと私に抱きついた。
「え、エルヴィス!?」
驚き慌てる私を抱きしめたまま彼は言った。
「そんなの、こちらこそだよ、ミシェル」
「! ふふ、嬉しい」
彼が喜んでくれていることが伝わってきて嬉しく思っていると、レティーがうっとりと口を開いた。
「素敵ねえ。 これが両思いの婚約者同士というものなのね」
「この二人の絆が特別強いということもあると思うわ。
私とニールも、堂々とこういう関係になりたいもの」
レティーの言葉にそう返すエマ様の二人の会話を聞いて、私は恥ずかしくなって慌てて距離をとった。
エルヴィスは少し残念そうにしたものの、手にしているハンカチの刺繍部分をもう一度見て、心からの笑みを浮かべていた。
(良かった、こんなに喜んでもらえるとは思わなかったから、凄く嬉しい)
そう思う反面、まだもう一つの贈り物……、手紙を渡せていない事実に焦りを覚える。
(恥ずかしくなって渡しそびれてしまったけれど、いつ渡そう)
やっぱりハンカチと一緒に渡せば良かったかな、と後悔していると、暫くハンカチを眺めていた彼が顔を上げた。
「ミシェル」
突然名前を呼ばれ、ハッとして慌てて「何?」と返すと、彼は私のところまで歩み寄ってきて不意に手を握った。
驚く私に、彼は微笑みを浮かべてから皆の方を向くと言った。
「そろそろ、恋人同士二人きりの時間が欲しいのだけど……、抜け出しても良いかな?」
「!」
恋人同士、二人きりの時間という言葉に思わず赤面する私に対し、エマ様は苦笑いして言った。
「どうせ止めても連れて行くのだから、わざわざ了承を得なくても良いのではないかしら?」
「ミシェルが今日一番の主役なのだから、勝手に連れ出すのは流石に野暮というものだろう?」
「まあ、今日は私達が貴方方二人のお誕生日会に無理矢理来てしまったようなものだから、後は二人きりで過ごすと良いわ」
「ありがとうございます、エマ様」
そう私がお礼を述べれば、エマ様は笑ってくれた。
「では、行こうか」
「えぇ」
そう口にした彼に対し頷きを返すと、繋がれた手をそのまま引かれ、私達は広間を後にしたのだった。




