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誕生日会

 その後、皆が集まったところで誕生日会が始まった。

 毎年家族だけで祝っていた時に比べて大人数のため、料理も部屋の装飾もずっと華やかなものになっていた。


(お母様、凄く張り切ってくれたものね)


 後でお礼を言おうと心の中で誓いながら、美味しい料理に舌鼓を打っていると、エルヴィスがケーキを一口食べたところで口を開いた。


「このケーキ、凄く美味しいね」

「あ、それはお母様が作った物よ」

「え、夫人が?」


 エルヴィスの言葉にそう返すと、彼は驚いたように目を見開きお母様を見た。

 丁度お母様もその会話を聞いていて、嬉しそうに笑って言った。


「そう言って頂けてとても嬉しいわ。

 このケーキ……、フレーズ・バニーユというのだけど、これはミシェルの大好物なのよ。

 毎年お誕生日にはこれを作って欲しいとミシェルに強請られるの」

「だって美味しいんだもの」


 笑ってそう口にすれば、エルヴィスは私を見て笑みを浮かべて言った。


「君の好きな物なんだね」

「えぇ。 お母様はケーキ作りが趣味でね、色々なケーキを作ってくれるのだけど、このケーキが一番美味しいと思うの。

 エルヴィスも気に入ってくれたら嬉しい」

「うん、とても美味しいね。

 ……それに、家族に作ってもらえる料理というのは、特別な感じがする」


 その言葉に私はハッとして名を呼ぼうとするが、その前に彼は悪戯っぽく笑い口にした。


「そうだ、ミシェルに食べさせてもらいたい。

 君の好きなものを、君の手で食べさせて欲しいな」

「!? み、皆いるから、それは」

「大丈夫、誰も見ていないから」


 エルヴィスの言葉に皆の方を見やれば、彼の言う通り、それぞれで会話を楽しんでいるためこちらを見ている人はいなかった。

 私は気恥ずかしさを覚えながらも、小さい声で言った。


「ひ、一口だけよ。 今日はお誕生日だから、特別」

「ふふ、嬉しい」


 顔が火照るのを感じながらも、エルヴィスに向かってケーキを一口差し出すと、彼は口を開け、パクッとそれを食べた。

 そしてもぐもぐと口を動かし、幸せそうに笑った。


「うん、君の手から食べさせてもらえるのは格別だね。

 じゃあ、今度は僕が食べさせてあげる」

「!? だ、大丈夫! 一人で食べれるから!」

「ほら、遠慮しないで」

「……っ」


 彼にケーキを差し出され、内心悲鳴をあげるが、意を決してそのケーキを食べると、エルヴィスは「可愛い」と何とも言えない甘い笑みを浮かべた。


「〜〜〜」


 もぐもぐと口を動かしながら身悶える私に対し、彼はくすくすと笑い、自分のケーキを食べ進める。

 そんな彼の横顔を見て、私は思う。


(エルヴィスが楽しそうで良かった)


 今日の一番の目的は、エルヴィスに楽しんでもらうこと。

 彼にとってのお誕生日を、特別な日にすることだから。


(もっと楽しんでもらわないと)


 そう心の中で意気込むのだった。





 暫く会話をしながら食事を楽しんだ後、いよいよ誕生日プレゼントを配る時間になった。


(気に入ってもらえるかな)


 私は、エルヴィスに渡すハンカチを入れてラッピングした袋と手紙にポーチ越しに触れる。

 その前に、私のお誕生日の方が先の今日だからという話になり、まずは私への誕生日プレゼントを皆から頂けることになった。


「はい、じゃあまずは私達から!」


 一番に名乗り出てくれたのは、レティーとレイモンドだった。

 二人は、二つ同じ包装が施された箱を取り出すと、私とエルヴィスにそれぞれ手渡しながら言った。


「私達からは二人にお揃いで使ってもらおうと思って、同じプレゼントを用意してみました! 開けてみて」


 そう言われ、お礼を言ってからエルヴィスと二人で箱を開けると、その中にあった物は。


「素敵! ロケットペンダントね!」


 その言葉にレイモンドが頷き答えた。


「そう、僕達からはロケットペンダントにしたんだ。

 最近街で、ロケットペンダントに恋人の似顔絵を入れて持ち歩くというのが流行っているというのを耳にして」

「二人にぴったりだと思って取り寄せてみたの! どうかしら?」


 レティーの言葉に、私は笑みを浮かべて言った。


「凄く嬉しいわ! 早速エルヴィスの似顔絵を描いてもらって入れるわね。

 ありがとう、レティー、レイモンド


 私の言葉に、二人は「どういたしまして!」と口を揃えて言った。

 エルヴィスもそれに対して口を開く。


「僕も噂で聞いていて欲しいと思っていたから嬉しい。

 ミシェルの似顔絵を描いてもらって入れたら、()()()()()持ち歩くことにするよ。

 ありがとう、レイモンド、レティー嬢」


 エルヴィスが妖艶に笑ってそう言うものだから、そんな彼の熱に当てられて二人は顔を赤くする。

 そして私も、恥ずかしくなって慌てて言った。


「え、エルヴィス! 貴方が言うと意味深に聞こえるわ!」

「ふふ、そうかな?」


 今度は爽やかな笑みを浮かべてそう答える彼に対し、絶対わざとだ、と思っていると、エマ様が口を開いた。


「では、今度は私達の番ね」


 そう言うと、エマ様は赤いリボンでラッピングされた袋を取り出し、私に手渡した。

 少し重さを感じるその物に何だろうと思いながら開けると、そこにはハートの形の小瓶が入っていた。


「可愛い!」


 思わずそう口にすれば、エマ様は笑って口にした。


「これは、私の国で今流行っている香水なの。

 人気でなかなか手に入らなかったから、ニールにも手伝ってもらって入手したのよ」


 ね、とニールに向かってエマ様が同意を求めれば、彼は「はい」と頷いた。

 その言葉に、蓋を取って鼻に近付ければ、花の柔らかな香りが広がった。


「良い匂い。 ありがとうございます、エマ様、それからニール」

「ふふ、どういたしまして」


 エマ様がそう返すと、ニールも頷いてくれた。

 そして、今度はエルヴィスが「僕からも」と切り出したのを聞いて、思わず声をあげる。


「え、エルヴィスには先程薔薇を頂いたけれど、まだ用意してくれていたの?」


 その言葉に、彼は少し驚いてから笑って言った。


「あぁ、あの薔薇はまた別だよ。

 誕生日プレゼントは、これ」


 そう言って、私に差し出してくれた箱の中には、髪飾りが入っていた。


「っ、綺麗……」


 その髪飾りは、金にアイスブルーの宝石が埋め込まれていた。

 そして良く見れば、その金の部分には薔薇の模様が彫られていて。

 エルヴィスは「君に似合うと思って」と言葉を続けた。


「僕がデザインして、職人に作ってもらったんだ。

 気に入ってもらえると嬉しい」

「エルヴィスがデザインしてくれたの?

 とっても気に入ったわ。 凄く嬉しい。

 ありがとう、エルヴィス」

「こちらこそ、喜んでもらえたようで何よりだよ」


 エルヴィスの言葉に、私はその髪飾りをまじまじと見つめて思う。


(薔薇の花束だけでもとても嬉しかったのに、まさかこんなに素敵な贈り物まで用意してくれていただなんて。

 それに、彼が自らデザインしてくれたなんて……)


 今日は私が彼に喜んでもらおうと思っていたのに、それ以上に自分が喜ぶことをしてくれる。

 そんな彼の心遣いが嬉しくて、自然と顔が綻ぶのだった。


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