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侯爵令嬢の告白

 そうして、私達が会場に戻ったのは、パーティー終了前の1時間を切った頃だった。

 パーティー会場に現れた私達を見て、口々に皆から声が上がった。


「やっぱりエルヴィス王子殿下の一人勝ちかぁ」

「でも、お二人なら納得じゃない?」

「そうそう、エルヴィス殿下のお側にはいつだってミシェル様がいらっしゃるのだから」


 そんな声が耳に届き、私は少し頬に熱が集中するのが分かる。

 それをエルヴィスに見られ、彼はクスッと笑って呟いた。


「ふふ、ミシェル顔真っ赤。 可愛い」

「か、からかわないで……」


 慌てて顔を逸らせば、エルヴィスは嬉しそうに笑い、そのまま私の手を引いて生徒会のいる壇上へと上がった。 

 そして、私の髪をさらりと撫でると口を開いた。


「ミシェルを見つけられたからこのゲームは私の勝ち、だね。

 ……でも、正直言ってこのゲームは私に有利過ぎたかな」


 その言葉に、彼の隣にいたエリク君がえ、と驚き声を上げた。


「それはどうして」

「だって」


 エルヴィスはそこで切ると、弄んでいた私の髪を一房持ち上げ、その髪に口付けを落とした。

 それを見ていた生徒から悲鳴が上がる。

 彼はふわりと笑みを浮かべて言ってのけた。


「何処にいようと、私はミシェルを見つけられる自信があるよ。

 だって、今もこれからも、私のただ一人の愛しい婚約者なのだから」


 その言葉に、一段と歓声が上がった。

 私は心の中で悲鳴を上げかけたが、その後さらに悲鳴を上げることになる。

 それは、彼が私の耳元でボソッと呟いたからだ。


「それに、ミシェルが隠れようが何しようが、僕は例え世界の果てまででも追いかけるしね」

「!?」


 その言葉が危ない言葉に聞こえたのはきっと気のせいではないだろう。

 それに対して私が突っ込む隙を与えず、彼は爽やかなまでの笑みを浮かべたまま口を開いた。


「でも、それでは出来レースみたいで不公平になってしまうから、“Grande Roseraie ”の優待券は他の誰かにあげたいと思うのだけれど、どうだろう」

「え、よろしいのですか?」


 エリク君の言葉に、エルヴィスも私も頷いた。


(先程ここへ来る前に話し合って決めたことなのよね)


 だから大丈夫、という意味で頷けば、エリク君は「ありがとうございます」と言って皆に向かって口を開いた。


「では、これから“Grande Roseraie ”の優待券獲得をかけて、じゃんけん大会を行いたいと思います!」


 急遽始まったそのゲームに、会場が熱気に包まれたのだった。







「今年の仮面舞踏会の感想は?」


 熱気溢れる会場からバルコニーへ出た私に、エルヴィスは飲み物を手渡してくれながら言った。

 私はそれに対してお礼を言いつつ、笑みを浮かべて返す。


「とても楽しかったわ」


 その言葉に、エルヴィスも頷いてくれた。


「生徒会長の彼がちゃんと仕事をしているか見極めさせてもらっていたけど……、心配はいらなかった。 終始誰よりも動いて指示を出していた」

「さすがはエリク君ね」


 心の中では心配していた。

 彼は罪を背負って自らここに残ることを決めた。

 生徒会会長という立場に加え、特待生になった彼には常に重責が付き纏うことになる。


「……彼の器もあるだろうけど、彼が生徒会長を務められているのには君の存在が大きいと思うよ」

「え?」

「生徒会会長である君の背中を常に見ていたから、自らの罪を認め、こうして立派にその役割を果たしているんだ。

 ……ミシェルが、皆の憧れになっていたから」


 エルヴィスのその言葉に私は口を開く。


「私が皆の憧れになっているだなんて、恐縮なのだけど……、でも、私が憧れていた元生徒会長と同じように、私を見て憧れてくれている方がいるのだとしたら、素直に嬉しいと思うわ」

「ふふ、ミシェルは素敵だね」


 そう言って、彼は私の肩にそっと彼の着ていた上着をかけてくれる。

 そんな彼を見上げれば、彼もまた私を見、笑った後、星空に目を向けて言葉を続けた。


「そうだね、そうやって皆続いていくのだと思う。

 ミシェルは元会長を、そのミシェルの背中をエリクが、そしてまたエリクの背中を後輩が追いかけて。

 そうして繋いでいく生徒会に支えられて、この学園も歴史を紡いでいくんだろうね」


 そんなエルヴィスの言葉に、私は思わずギュッと彼の手を握った。

 それに驚いた様子の彼に向かって、「そうね」と私も口を開く。


「そう考えると、今こうして過ごしているこの時間が、大切な友人達と出会えたこの場所が、どれだけ尊いものかが分かる気がする。

 ……それに、今この場所に私がいるのも、全て貴方のお陰なの」

「!」


 グラスを置き、彼の手をそっと握れば、驚いたようなアイスブルーの瞳と視線が重なって。

 私は微笑みを浮かべながら、そっと言葉を口にする。


「私は、この場所から立ち去った方が良いと思っていた。 だって、私は知らなかったから」


 どれだけ自分が恵まれていたか、どれだけ私を支えてくれる方々がいたか、考えたことなんてなかった。

 まるで挑発するかのような彼の言葉に頭に血が上り、売り言葉に買い言葉でこの学園にもう一度足を踏み入れなければ。

 エルヴィスがあの日、私の元を訪ね、私の考えを変えていなければ、此処にはいなかったはずなのだ。


「今ここにいられることが何より幸せだと、そう思うの。

 それに、そう思えるのは他でもない、貴方が側に居てくれるからなのよ、エルヴィス」

「!」


 私は、彼の瞳をじっと見つめ、念を押すように口を開いた。


「私は、貴方が貴方でいてくれて良かった。

 だから、好きになったの」

「! ……ミシェル」

「それに、もう知っているかもしれないけれど、私の初恋は貴方で、これから先の未来も一緒にいたいと思うのも、貴方以外には考えられない」


 その言葉に、エルヴィスは大きく目を見開いた。

 私は握った手にそっと力を込めて彼の目をしっかりと見つめる。


(例えベアトリス殿下を敵に回すとしても、私はずっと、エルヴィスの味方であり続ける。

 この先何があっても、私はこの手を離しはしない)


 その気持ちを込めて彼を見つめていれば、エルヴィスはやがて目を細め、綺麗な笑みを浮かべて口にした。


「ありがとう、ミシェル。

 どんな時でも君の言葉が、君の存在が、僕の一番の支えだ」


 そう言った彼の瞳には、涙がうっすらと溜まっていて。

 そして、彼は握っていた私の手を、そっと大きな手で包み込んでくれたのだった。

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