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最終試験、そして。

 エリク君一家が帰るのを見届けた私は、ほっと息を吐き車椅子に深く腰掛けた。


「お疲れ様、ミシェル」


 私の肩にポンと手を乗せ、エルヴィスが労いの言葉をかけてくれる。

 それに対して「ありがとう」と礼を述べたが、恐る恐る口にした。


「これで、良かったのよね」


 私の言葉に、エルヴィスは微笑み口にした。


「ミシェルが決めたことだし、僕もそれが最善だったと思っているよ。

 ……まあ、ミシェルを傷付けたのだから、僕だったらもう少しお仕置きしていたかもしれないけれど、ね」

「あ、はは……」


(冗談に聞こえない上に目が笑ってない……!)


 返答に困った私を見て、彼はクスリと笑い「まあ、それは冗談として」と言葉を続けた。


「彼の言葉に嘘はないようだし、第一、やることがあの“馬鹿”の指示だからね、どれも頷けるような幼稚な悪戯で良かったよ」

「エルヴィス、貴方相当怒っているわね……」

「気の所為じゃないかな?」


 にっこりと笑った笑みが黒にしか見えず、一番怒らせてはいけないのはこの方だと改めて再認識する。

 エルヴィスはそれには構わず紅茶を飲み、口を開いた。


「まあ、苦労はさせられたけど結果的に僕達の味方が増えた、ということで良いのかな。

 これからまだまだやることは沢山あるけど、この調子で弟が墓穴を掘っていってくれれば順調だ」

「ぼ、墓穴……」


(あぁ、もう突っ込みきれない)


 思わず頭を抱えそうになったが何とか堪えると、私が百面相してしまっていたのか、エルヴィスはクスッと笑って言った。


「さて、そろそろ僕もお暇しようかな。

 ミシェルも体を休めないと」

「お見送りするわ」

「いや、その必要はないよ」

「え……、きゃっ」


 不意に体がふわりと浮いた。

 それは、エルヴィスが私をふわりと横抱きにしたからで。


「痛くない?」

「い、痛くはないけどっ、ひ、一人で歩けるわっ」

「それは嘘だね、君はまだ僕の支えがないと立つことも出来ないだろう?」

「ひっ……、み、耳元で囁かないでっ」


(完全にわざとやってる……!)


 今日のエルヴィスはドSだわ!

 と顔を赤くしつつ抵抗出来ない私に対し、彼は悪戯っぽく笑った後、私をベッドまで運びそっと下ろしてくれた。

 そしてブランケットを掛けると、彼は微笑みながら口を開いた。


「今日はお疲れ様。 ゆっくり休んで、元気になって」

「……お見送り、したかったわ」

「!」


 そう彼に向かって呟くように言えば、不意に彼の顔が近付いた。

 え、と驚く間も無く、額に彼の口付けが落とされる。

 驚く私に向かって、エルヴィスは私の髪を撫でて言った。


「また明日も来るから、今はゆっくり休んで。

 おやすみ」

「……!」


 咄嗟に返事を返すことが出来ないまま、彼は一人部屋を出て行った。


(……って、眠れるわけがない……!)


 ベッドの上で一人、声にならない悲鳴を上げ身悶えるのだった。






 そして迎えた、最後の試験。

 この二週間は学園には行かず、自宅療養していた私は無事に歩けるまでに回復した。

 走ったりすることはまだ不可能だけど、階段の登り下りにも支障はない。

 ベッドに座り、トントンと軽く足が動くことを確認してから立ち上がる。


(それに……)


 エルヴィスが言ったのだ。

 “もし辛かったら言って。 その時は僕が支えるから”


(そう言った時の彼の表情が何処か危ない感じだったのは気の所為だと信じたい……!)


「ミーシェル」

「わ!?」


 部屋の扉からヒョコッと顔を出したのは、他でもないエルヴィスだった。


「!? ちょ、貴方どうしてここに!?

 学園で待ち合わせじゃ」

「夫人に頼まれたんだよ。 ミシェルが心配だから、一緒に行動してって」

「お、お母様……!」

「ほら、ミシェル。 

 早くしないと遅刻してしまうよ?」


 ニコニコとそう言って、私はすっと息を吸うと大きな声で言った。


「取り敢えず外で待ってて!!」





「本当に驚いたわ。 迎えにまで来てくれるなんて……」


 昨日の別れ際、“また学園で”と言ったはずのエルヴィスが来るとは普通思わない。


「それに、今日は試験初日だったけれど……、迷惑ではなかった?」


 そう恐る恐る訪ねれば、彼は首を傾げて口を開いた。


「え? 全然、迷惑だなんて思わないよ。

 ……それに、僕としては君の両親公認で堂々と会いに来れるんだもの、寧ろご褒美だと思うよ」

「っ、ま、またそういうことを言う……」

「ふふ、ミシェル可愛い」


 私が少し膨れてみせれば、彼はツンツンと私の頬をつつき笑う。

 エルヴィスはじっと私を見ると口を開いた。


「……ミシェル、緊張しているでしょう」

「ば、バレバレなのね」

「そりゃあね」


 彼はそう言ってふっと笑うと、私の手を不意に握った。

 え、と驚く私に対し、彼はそのまま言葉を続けた。


「大丈夫、僕はミシェルがどれだけ努力していたか知っているよ。

 この二週間の間も、ベッドの脇に常に教科書が山積みになっていたのも知っているし、今日だって少し目の下に隈が出来ている」

「〜〜〜」


(目の下の隈、お化粧で隠してるはずなのにどうしてバレてるの!?)


 恥ずかしくて俯きかけたが、彼はそのまま言葉を続けた。


「そんな君を、僕はずっと見守ってきた。

 君の努力は報われる、必ず。 

 後は君に必要なのは、自分を信じてあげることだけだ」

「! エルヴィス」


 その言葉に少し泣きそうになる。


(エルヴィスの、言う通り)


 私はこの二週間は特に気が張っていた。

 学園に行けないことへの焦りも相俟って、無事に試験を受けられるかどうか、また受けられたとしても良い成績を取れるのかどうか。

 そんなことばかりずっと考えて、ただただ躍起になって勉強していた。


(成績や順位というものは、いつだって自分や婚約者の評価に関わってくるものだと、そう思っていたから)


 ギュッと彼の手を握り返した私に、更に彼は力強い声で言った。


「誰よりも努力家で誠実な君が婚約者であること、僕は誇らしいよ」

「……!」


 それは、何よりも嬉しい言葉であり、私がずっと欲しかった言葉だった。

 前婚約者に言われたことのなかった、その言葉が。


(っ、嬉しい)


 自分の努力を、認めてくれた。

 それも、一番認めて欲しかった方に。

 私はパッと顔を上げた。

 その視線が、彼と正面から交じり合う。

 彼は大好きな笑みを浮かべてくれると、明るい声で言った。


「お互い頑張ろう、ミシェル」

「っ、えぇ」


 それに対して私も、力強く頷きを返したのだった。





 エルヴィスの言葉のお陰で自信を持つことが出来た私が挑んだ最後の試験。

 エルヴィスは期末試験に続き満点という、誰も文句を言えない(言わせない)成績を収め、堂々の首位を獲得した。

 次席には私の名前が並び、エルヴィスはとても喜んでくれた。

 そして。



「皆さんに、お話があります」


 試験結果発表日の放課後。

 エリク君によって前生徒会メンバー一同が生徒会室に集められた。

 私とエルヴィスが見守り、集められたレティー達が困惑する中、エリク君は一人皆の前に立つとはっきりと静かに告げた。


「生徒会に関する事件の数々は、全て僕がやったことです」

「「「!」」」


 その言葉に、皆が息を呑んだ。

 エリク君はそのまま言葉を続けた。


「……僕が起こしてしまったことによって、レイモンド先輩を始め皆さんにご迷惑をかけてしまいました。

 本当に、申し訳ございませんでした」


 そう言って深く頭を下げたまま、エリク君は続けた。


「謝って済むことだとは思っていません。

 詳細についても、時期が来るまではお話をすることが出来ませんが……、ただ、信じて下さい。

 僕はこの学園生活の中で、自分の犯してしまった罪を改め、もう一度生徒会としてこの学園に尽くします。

 そして、時期が来たら隠さず全てをお話致します」


 そう口にしたエリク君に対し、皆が沈黙する。 そんな沈黙を最初に破ったのは、レイモンドだった。


「……君が、犯人だったんだね」

「!」


 エリク君はその言葉に、「はい」と返事をした。

 レイモンドは息を吐いて口を開いた。


「正直、僕は謝られたところで心の底からは許すことが出来る自信はないよ」

「……レイモンド」


 レティーが心配して名を呼んだ。

 それに対し、レイモンドは「でも、」と言葉を切ると今度は私に向かって言った。


「ミシェルは、許しているんでしょう?」

「……えぇ」


 私はその言葉に頷いて見せれば、レイモンドは「なら」とエリク君に再度向き直って言った。


「僕はそれに従うよ。 

 ミシェルが君を許したのも何か考えがあってのことだろうし、僕はそれに異論はないもの。

 ただ僕にだってプライドはある。

 ……もし君が少しでも生半可な気持ちで生徒会にいると知ったら、その時は許さないから」

「! はい、レイモンド先輩」


 エリク君の返事に、レイモンドはようやく笑った。


 こうして一連の生徒会事件は、一先ず一段落したのである。

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