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目が覚めて

(エルヴィス視点)


「ミシェル、ミシェル……!」


 何度呼びかけても返事をしない彼女を見て、血の気が引いていく。

 僕が見たのは信じられない光景だった。

 彼女と共に図書室で勉強をしている最中、忘れ物を取りに行った彼女が一向に帰ってこないことが心配になり様子を見に来たら、その彼女が一連の事件の犯人である現生徒会長のエリク・ルグランを庇い、階段から落ちるところで。


(っ、もっと来るのが早ければ……っ)


「ミシェル、ミシェル、返事をするんだ……!!」


 血の気のない彼女の頬を軽く叩いてみたが、彼女の瞳は開かなくて。


「……っ」


 一気に絶望が押し寄せる。

 すると、不意に肩に手が乗った。

 目を向ければ、そこにはミシェルを見つめるエマの姿があって。


「取り乱しては駄目。 

 貴方は一国の王子なのだから。 しっかりして」

「……!」


 そう言ったエマの瞳も逸らすことなくミシェルに向けられていて。

 その言葉にハッとした僕は、渇いた唇を何とか動かして言葉を紡ぐ。


「医者に、知らせないと」

「ニールが行ってくれているわ。

 ……呼吸は安定しているし、何処を打ったか分からないから下手に動かさない方が良さそうね。 保健医を待ちましょう」


 そう言ってからエマは後ろを振り向くと、厳しい口調で言った。


「貴方にも一緒に来てもらうわ。

 何があったのか、何が起きたのか、話してもらわないといけないのだから」


 その言葉に、彼は「はい」と力なく頷いたのだった。





(ミシェル視点)


「ん……」


 目を覚ませば、見慣れた自室の天井が映る。



「っ、ミシェル!」


 その声の主の方を見て、私は笑みを浮かべた。


「……エルヴィス」


 よく見れば、彼の目の下には色濃く隈が出来ていて。


(そうだわ、私、あの時階段から落ちて……)


「どれくらい眠ってしまっていたかしら」

「……丸二日程だよ」

「お医者様はなんて?」

「……軽い脳震盪と左腕の骨折、だって」


 その言葉に左腕を見れば、確かに包帯が首にかけてグルグルと巻かれ、固定されているのが分かる。


(幸い、階段に絨毯が敷かれていたからこの程度の怪我で済んだのね……)


 ふっと息を吐き、口を開いた。


「ごめんなさい、エルヴィス。 心配をかけて」

「っ、ミシェルが謝ることじゃない! ……謝らなければならないのは、僕の方だ」

「あら、どうして?」

「……君を、守れなかった」

「!」

「守ると約束したのに」


 その言葉と表情に私は瞠目した。


(エルヴィス、泣いているの?)


 そんな彼を見て、どれほど心配させてしまったかが分かって。


「エルヴィス」


 彼の名を呼ぶと、痛む体で何とか彼の手に右手を伸ばすと、その手をギュッと握り口を開いた。


「心配かけてごめんね。 もう、大丈夫だから」

「ミシェル……」

 彼の手が遠慮がちに私の頬に触れる。 そっとその手に擦り寄れば、エルヴィスはようやく表情を和らげたのだった。





「ミシェル、目が覚めたのね」

「エマ様」


 エルヴィスが私が目を覚ましたことを伝えに行ってくれ、家族が来た後に現れたのはエマ様だった。

 彼女は朗らかな笑みを浮かべると、近くにあった椅子に座り口を開いた。


「調子はどう? 具合は悪くない?」

「はい、お陰様で。 幸い打ち所が良かったみたいで、数日安静にしていれば大丈夫だそうです。

 左腕はこの通り、ですが」


 そう言って肩をすくめてみせれば、彼女は「そうね」と頬に手を当て言った。


「貴女が身代わりになって階段から落ちるところを見て、心臓が止まるかと思ったわ」

「っ、そうだ、エリク君! エリク君は、どうなったのですか!?」


 エマ様の言葉にそう声を上げれば、エマ様は「落ち着いて」と静かに口を開いた。


「今彼は、学校には来ていないの。 

 事実上の謹慎ということね」

「! 謹慎……?」

「えぇ。 今までに起きた事件との因果関係も含めて、学園長直々に事情聴取中よ。 

 勿論、騒ぎにならないよう他の生徒には伏せているけれど、謹慎というのは彼自信が決めたものだと聞いているわ。 詳しい事情は私も聞かされていないけれど……、彼が持っていた試験の問題用紙は万が一のためのフェイクだった、というのも聞いたわ」

「フェイク……?」

「エルヴィスが用意したものだそうよ」


(エルヴィスは、こうなることを恐れて先回りしていたということ?)


「だから、実際に彼に対するお咎めは今のところ内密に済まされているわ。 後日怪我をした貴女にも事情を聞きに来るそうよ」

「……そう、ですか」


(エリク君は自主謹慎中……、彼はこれから先どうなるんだろう)


 そんなことを考えていると、エマ様は「とにかく」とパンと手を叩いて口を開いた。


「貴女は今は何も考えず、ゆっくり安静にして。 

 試験もあることだし、今は自分の体調を回復することに集中するのよ、分かったわね」

「は、はい、そうします」


 エマ様はそう言ってにこりと笑うと、部屋を後にした。

 一人残された私は、天井を見つめ考える。


(……試験まで残り十日。 怪我の回復もそうだけど、やっぱりエリク君のことも気になるわ)


 エルヴィスのお陰で大事にならずに済んだ事件だが、エリク君がした行動については咎めざる負えない。 

 どうして生徒会長まで務める真面目な彼が、生徒会、更にはエルヴィスまで巻き込んで嫌がらせをしようとしたのか。


(生徒会やエルヴィスを陥れるような意味なんてどこにも……)


 そこまで考えてハッとした。


(……まさか、彼の行動の裏にあるのって)


 導き出した答えに、私は思わず拳を握り締めたのだった。

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