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新生徒会

 10月。

 ついこの前まで青々としていた木々は赤や黄に色付き、肌寒い季節となってきた今日この頃、授業が終わり普段であれば和気藹々とする休み時間の教室内は、ピリッとした空気に包まれていた。


(それもそうか、私達にとってこれが最後の試験だものね……)


 三年の二学期、中間試験。

 この学園の三年生は、これが学園最後の試験となる。

 それぞれが卒業後、男性は騎士団入りまたは留学といった進路を、そしてそれ以外の大半の生徒は在学時までに決めていた婚約者と婚姻する方々が多く、その準備に追われるため、この試験が最後となるのだ。

 そして、この試験の結果が学園生活においての成績に大いに響くため、皆より一層勉学に励んでいる。


(私も負けてはいられない)


 二学期の期末試験では、エルヴィスと1、2を取れたけれどその順位に現を抜かしてはいけない。

 頑張らなくては、と気合いを入れて机に向かっていれば、不意に廊下の方から視線を感じた。


「……?」


 顔を上げ廊下の方を見るが誰もいない。


(……最近、誰かに見られている気がする)


 こういった視線を感じるのは今日だけに限らず、特に生徒会パーティーが終わって以降、何処からともなく視線を感じるのだ。


(気の所為かと思っていたけれど、こうも頻繁だと気味が悪いわね)


 どうしたものか、と思案していたその時、突然声をかけられた。


「ミーシェル!」

「わっ」


 ビクッと肩を震わせ見上げれば、そこには同じく驚いたような表情を浮かべるレティーとレイモンドの姿があった。

 声をかけてきたのはレティーらしく、「ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだけど」と慌てて謝ってくれる。

 それに対して首を横に振って言った。


「ごめんなさい、少し考え事をしていたわ。

 どうしたの?」

「あの、もし時間があったら今日少しだけ生徒会に顔を出さないかと思って。

 差し入れがてら様子を見に行こうかなって」


 そう彼女は自身の机にかけてある紙袋を指さして言った。

 私もそれに対して頷きかけたが、でも、と口を開いた。


「新しい生徒会が始まって慣れていない内に、旧生徒会である私達がお邪魔しちゃって大丈夫かしら?

 余計な緊張を与えてしまうかも」

「あぁ、それなら大丈夫よ。 先日、廊下でルイ君に会って、皆の士気が上がるから是非来て下さいって呼ばれたのよ」

「そ、そうなのね」


(私達が伺うことで一年生には緊張させてしまうかもしれないけれど……、でも確かに、エリク君率いる新しい生徒会というのも見てみたい気がするわ)


 少し考えた後レティーに向かって言った。


「分かったわ。 私も少し顔を出しに伺うわ」

「えぇ、そうこなくっちゃ」


 ミシェルがいれば嬉しいはずよ!と声を弾ませるレティーに対し、そんなことないと思うわ、と口にしたのだった。





「それで、貴方もやはり付いてきてくれるのね」

「ミシェルが行くと聞いたらね」


 そう言って隣を歩く、生徒会ではない彼……、エルヴィスを見て笑みを浮かべた。


(生徒会ではない彼だけど、もうこの光景が当たり前のようになりすぎて何の違和感もないわ)


 エルヴィスは生徒会の仕事だというとほぼ毎回顔を出してくれた。 その上、惜しみなく手伝いもしてくれる。


「ありがとう、付いてきてくれて」

「ふふ、僕が勝手についてきているだけだよ。 ミシェルといられるっていう理由でね」

「!?」

「そこ、イチャつかないでくださーい」


 私達の前を歩いていたレティーが振り返りそう言った。

 私はその言葉にハッとして、慌ててエルヴィスから顔をそらす。

 それを見ていたのだろうエルヴィスが、クスクスと笑った。


 そして、レティーとレイモンド、私とエルヴィスの四人で生徒会室の扉をノックすると、はい、という返事の後にガチャッと扉が開く。

 扉から顔を覗かせたのは生徒会長を務めるエリク君で。

 彼は驚いたように目を丸くし、慌てて口を開いた。


「レティーさんにレイモンドさん!? それに会長と殿下まで……、どうしてここに?」


 その言葉にレティーが持っていた差し入れをさしながら言った。


「皆の顔を見にきたのよ。 新しい生徒会に激励という意味も込めて!

 あ、ちなみにルイ君からお誘い頂いたのよ。

 ね、ルイ君」

「そうだったんですか?」

「えぇ」


 レティーの言葉にエリク君は後ろにいたルイ君の方を振り返る。

 すると、ルイ君は頷き口を開いた。


「お忙しい中お越しくださってありがとうございます、皆さん」

「こちらこそ、お招き頂きありがとう」


 レティーはそういうと、お邪魔しますと言って中に入っていく。

 私達もその後に続くと、新しく生徒会に加入した一年生のメンバーから口々に声が上がった。


「わ、わ、本物……!」

「こうしてみると本当に神々しい……」

「圧巻だわ……」


 そう口にしているのを見て私は思わず笑みをこぼし口を開いた。


「ごめんなさい、突然お邪魔してしまって」

「そ、そんな! 来てくださってとても嬉しいです!」


 そう言ってくれる一年生の女生徒の言葉に「ありがとう」と言ってから口を開いた。


「今はきっと、11月に行われるパーティーの準備期間中よね。

 慣れない生徒会で初仕事は大変でしょうけれど、選挙を乗り越えた皆様なら大丈夫だわ。

 自信を持って頑張ってね。 

 応援しているわ」

「「「「はい!」」」」


 そう元気よく返事をしてくれる生徒会の皆に笑みを浮かべると、レティーは「さすがミシェルね!」と口にしてから言葉を続けた。


「私も、生徒会のメンバーになって11月の初仕事は緊張したけれど、それと同時にやり甲斐を感じてとても楽しかったわ。 

 試験と仕事とで両立が大変だと思うけれど頑張ってね」

「「「「はい!」」」」


 レティーもそう言って笑みを浮かべると、「後、これは皆で召し上がってね」と言い、持っていた紙袋をエリク君に手渡した。

 エリク君は「ありがとうございます」とお礼を言うと、それを机に置いた。

 私はそんなエリク君に歩み寄り口を開いた。


「会長の仕事はどう?」


 皆が談笑している中、エリク君にそう小声で尋ねれば、彼は少し目を伏せ口を開いた。


「正直、とても大変です。 ミシェル会長は、この量を完璧なこなしていたんだと思うと本当に凄いなと思います」

「完璧なんてことはないわ。 

 もし、そう見えていたのだとしたら、それは生徒会のメンバーや周りが支えてくれていたからよ」

「いえ、そうだとしてもミシェル会長の力量があってこそだったのだとつくづく思い知らされます」

「……エリク君」


 彼は資料を手に、そう言って下を向いてしまった。

 私はどう声をかけようか迷ったが、素直に口にした。


「私も、生徒会に入って会長になった時は、色々と苦労したのよ」

「え……」

「話せば長くなるから省くけれど、以前の会長はとても優秀で有名な方だったわ。

 私はその方に追いつこうと必死で努力したものよ」

「……ミシェル会長でも、そんなことがあるんですか」


 そう弱々しい声で口にしたエリク君に対し、私は笑って答える。


「もちろん」


(努力を人前で見せるようなことはあまりしたことはないけれど)


 いつだって完璧でなければならない。

 そう思い、陰ながら努力を重ねて来た結果が今ここにある。


「それを口に出すことをしないだけで、失敗を繰り返しながら努力も積み重ねたわ」


 だから、と私は言葉を続けた。


「エリク君も完璧にやろうと思わず、まずは楽しむことが大事よ。

 それから、大変な時は仲間に助けを求めること。

 勿論、私でもよければ相談に乗るし、貴方一人で責任を背負うことは決してしないようにね」

「……! 会長……」

「あ、後先程から言おうと思っていたけれど、私はもう会長ではないから名前で呼んで。

 今はもう、貴方が会長なのだから」

「! ……分かりました、ミシェル先輩」


 エリク君が頷いたのを見て私も頷きを返すと、さてと、とエルヴィス達に向かって口を開いた。


「そろそろ私達はお暇しましょう。

 突然押しかけてしまってごめんなさいね。

 仕事、頑張って」

「ありがとうございます、ミシェル先輩」


 エリク君の言葉に微笑みを浮かべると、私達四人は生徒会室を後にした。


「一年生の生徒会メンバーもすごかったわね!

 私達が一年生の時ってあんなに仕事が出来たものかしら」

「レティーは仕事の内容を見せてもらったのね。

 私も見させてもらいたかったわ」

「ミシェルに見られるのは皆緊張すると思うわ〜! ミシェルは圧倒的皆の憧れだもの」

「それは言い過ぎよ。 確かに、元生徒会会長に見られたら緊張するというのはあるかもしれないから、私は当日までのお楽しみということにしておくわ」

「それが良いわね」


 そう言ってレティーと二人で笑い合ったのだった。





「エルヴィス、今日は付き合ってくれてありがとう」


 今日も当たり前のようにエルヴィスか馬車で送ってくれて、二人きりになった車内でそう礼を述べれば、彼は首を横に振り言った。


「良いんだ、丁度僕も生徒会のメンバーの様子が見たかったし、君と話す時間も欲しかったから」

「……様子が見たかった?」

「あぁ」


 彼は腕を組み、真剣な表情になると口を開いた。


「突然だけどミシェル、最近変わったことはない?」

「変わったこと……、あ」

「何かあるんだね?」


 私は言おうか迷ったが、ここで誤魔化すのも余計な誤解を招いてしまうと思い、おずおずと口を開いた。


「最近、誰かに見られている気がするの。

 陰からこっそり見られているような……、だけど、振り返っても決まって誰もこちらを見ている人はいなくて。

 気の所為かと思っていたのだけど、頻繁に感じるものだから少し気になって」

「……そうか」

「本当に、私の気の所為かもしれないから気にしないでね。

 それで何か支障を来している、ということもないから」

「いや、用心することに越したことはないよ。 普段は僕以外にレティー嬢、エマと共に行動していることが多いと思うから、常に誰かと一緒にいるように心がけて。

 それから、少しでも違和感を覚えたら僕に言って」

「えぇ、分かったわ」


 そう言うと、エルヴィスは微笑みを浮かべてくれる。

 私も微笑みを返しながら思った。


(エルヴィスは多分、生徒会に嫌がらせをした犯人探しをしている。 だから、私にも用心するように言っているんだわ)


 学校生活は残すところ半年。

 その間にまだ、やるべきことが沢山残っている。


(エルヴィスの言う通りに生活しながら、先ずは試験を頑張らなければ)


 そう心に決めた私だったが、事態は急展開を迎えることを、この時の私はまだ知る由もなかった。


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