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生徒会選挙

「〜〜〜み、ミシェル、緊張するわ……」


 生徒会選挙会場の舞台裏。

 もうすぐ始まる生徒会選挙を前に、生徒会役員は全員舞台裏で自分の出番まで待機していると、司会役であるレティーが震える声でそう口にした。

 私はそっとその手を取ると、「大丈夫」と微笑んでみせる。


「あれだけ沢山準備をしたんだもの。 それに、今まできちんと司会を務めてきてくれたレティーに、皆感謝しているわ。 だから頑張って。

 ……という私も緊張しているけれど」

「! ミシェル……」


 レティーは少し涙ぐむと、堪えるように笑って「うん!」と大きく頷いた。


「そうよね、ミシェルが見守ってくれているんだもの、百人力よね!」

「ふふ、大袈裟よ」

「……でも、本当にミシェルには感謝しているわ。 私が此処まで生徒会の仕事を続けられたのも、ミシェルのおかげなのよ」

「……レティー」

「だからお互い頑張ろうね、ミシェル」


 そう言って手を差し出され、私は硬くその手を握り、「えぇ!」と大きく頷き笑い合う。

 すると、ニールから声がかかった。


「会長、そろそろ時間です」

「ありがとう、分かったわ」

「じゃあ行ってくるわね、ミシェル」

「えぇ」


 レティーは笑顔で手を振ると、前を見つめ登壇したのだった。

 そうして、レティーの司会によって始まった生徒会選挙。

 私の出番は、会長からの最後の挨拶だ。


(……レティーを励ましたものの、私自身もとても緊張しているわ……)


 着々と進む生徒会選挙を目で追いながら、はやる胸を抑える。

 生徒会選挙は約二時間。

 それぞれの候補の決意表明、演説の後、立候補者の名前を読み上げ拍手の多かった生徒が次期生徒会役員となる。


(エリク君とルイ君以外は新しいメンバーになるのね。 皆、頑張って)


 そう心の中で応援するのだった。





 生徒会選挙の結果、無事に全ての役職の新生徒会メンバーが決まった。

 生徒会会長にはエリク君、そして生徒会副会長にはルイ君が選ばれ、残りの生徒会役員は一年生メンバーということになった。


(おめでとう、エリク君、ルイ君)


 次は二人が筆頭に立ち、一年生が多く集まる生徒会を引っ張っていってくれる存在になる。

 笑みを浮かべる二人の様子に、私は少し肩の力が抜けた。


(……これで本当に、私の役目も終わるんだわ)


 自分の掌を見つめ、複雑な感情に襲われる。


(生徒会に入って、やり甲斐を感じる反面大変で辛くて、やめたくなることもあった。

 それでも、私を此処まで成長させてくれたのは、間違いなく生徒会の存在とそして……、“彼”のおかげ、なんだわ)


 そっと目を閉じ、自分の出番を待つ。


(さて、私も最後の仕事を果たさないと)


 レティーの司会に導かれ、壇上へ上がる。

 皆に一礼をして、生徒の方を見回せば、“彼”と視線が合って。


(見ていて、これが最後の私の仕事だから)


 私は一拍置くと、すっと息を吸い口を開いた。


「生徒会会長、ミシェル・リヴィングストンです。

 まずは新しく生徒会役員となった後輩の皆さん、おめでとうございます。 勇気を出して立候補してくれたこと、とても嬉しく思います」


 そんな言葉から始まる私の挨拶を、皆が真剣に耳を傾けてくれて。

 私はそれに対して心から感謝しつつ、自分の言葉で皆に告げる。


「私が生徒会役員に加入させて頂いたのも一年生の時でした。 最初は慣れないことばかりで辛く大変に思うこともありました。

 ですが、今振り返ると、生徒会に入って心から良かったと思います。

 色々なことを経験して、改めて同じ生徒会役員の仲間の大切さ、そして支えて下さった皆さんのおかげで今、こうしてこの場に立つことができているのだと感じています」


 そう口にしながら、今までの生徒会の仕事が走馬灯のように頭をよぎる。

 大変なことの方が多かったかもしれないけれど、今一番に思い出すのは。


「その中でも最も記憶に残っているのは、生徒会役員一丸となって準備した行事の際に、此処にいる全校生徒の皆さんが楽しそうに笑みを浮かべて下さることでした」


 それだけではなく、行事が終わった登校日、いつものように教室へ向かっていると、廊下を歩いているだけで声をかけられた。

 “楽しかったです”

 “次の行事も楽しみにしています”


「その表情や温かな言葉を聞いて、私達は嬉しく思いながら、また次も頑張ろうという励みになりました。

 私が生徒会会長として此処まで続けられたのも、此処にいる皆さんと先生方、それから生徒会メンバーのお陰です。

 皆さん、本当にありがとうございました。

 そして、新生徒会の皆さんのご活躍を期待しております。

 三年、生徒会会長ミシェル・リヴィングストン」


 私は最後にエルヴィスの方を見て微笑みを浮かべる。

 彼は驚いたように目を見開いたけれど、私はすぐに目を逸らし、礼をした。

 すると、割れんばかりの拍手と、生徒からの声が飛ぶ。


「会長ー! ありがとうございました〜!」

「ミシェル様、素敵でした〜!」


(……! 皆……)


 この場で感謝の言葉を述べられるとは思っても見なくて。

 それに、そう口にしてくれる方々の多さに、私は思わずその場から動けなくなってしまう。


「ありがとうございます」


 私はそうもう一度口にして頭を下げると、涙がこぼれ落ちた。

 その涙をそっと拭い、今自分にできる精一杯の笑みを返すと、その場を後にした。

 そして、舞台裏に着いた瞬間、堪えていた涙が一気に堰を切ったように溢れ出してしまう。


「か、会長!?」

「お疲れ様でした」


 驚くレイモンドとそう口にしてくれるニールに、「ごめんなさい、ありがとう」と返すのが精一杯で。 

 私は暫くその場で泣き続けてしまったのだった。






「ごめんなさい、泣いてしまって」


 生徒会選挙終了後、生徒会室に集まった三年生メンバーにそう謝罪すれば、レティーは首を横に振って言った。


「そんな、謝ることではないわ。 それに、ミシェルは会長として誰よりもこの学園に尽くしてくれたことを皆が知っているんだもの、誰も責める人なんていないわ」

「レティーの言う通りだよ。 会長がいなかったら、僕達はここまで続けられなかった」

「! 二人とも……」


 レティーとレイモンドの言葉に驚いていると、腕を組んで壁にもたれかかっていたニールが珍しく口を開いた。


「そうですよ、会長。 私達がこうして生徒会を続けられたのは、間違いなく会長の力があってこそです。

 ありがとうございました」

「!」


 ニールはそう言って私に向かって手を差し出す。 私はその手を見て思った。


(……私は、本当に多くの方々に支えられてここにいるんだわ)


 始まりは、第二王子に生徒会の一員になれという、今思えば彼の気紛れの言葉だった。

 そうして入った生徒会長という仕事は辛くて大変で、何度やめようかと思ったか分からない。 けれど、その度に励まし助けてくれた仲間達がいた。

 三年生になった時だってそう、エルヴィスがいなかったら今私は此処にいない。

 ふっと息を吐き、流し切ったはずの涙がまた零れ落ちそうになるのを堪え、私は笑みを浮かべるとその手を握り返して言った。


「此方こそ、皆今までありがとう。

 そして、これからも宜しくね」

「「「はい/えぇ!」」」


 そう言って四人で笑い合うと、「さてと」とレティーがポンと手を叩いて口を開いた。


「この後はいよいよ生徒会パーティーね。

 つまり、正真正銘の最後の仕事が待っているわね! 気を引き締めないと」

「そうね」


 生徒会パーティーでの仕事の“引き継ぎ”とは、新旧生徒会が舞台に上がり、旧生徒会の手から生徒会役員の証である“白制服”を手渡しで新生徒会に渡すという伝統のこと。

 今年は新生徒会6名のうち、エリク君とルイ君以外の4名が緑制服を着用しているため、その4名に白制服を渡すことが仕事となっている。


「そうそう、僕達も全員白制服で出ることにしたよ」

「この制服を着られるのも最後だものね」

「最後の仕事まできちんとこなしたいですから」

「……そう」


 私は皆の力強い言葉に笑みを浮かべて言った。


「では、私達の本当の最後の仕事、頑張りましょう。

 この四人で」

「「「おー!」」」


 そう声を揃えて気合を入れたのだった。



 パーティーまで一旦解散した生徒会室に一人残った私は、机をそっと指でなぞり目を閉じた。


(そして、後一つ)


 私には、やらなければいけないことがある。


(もう逃げない)


 自分の気持ちから、彼のことから。

 これ以上自分の心を誤魔化すことは、出来ないから。


(たとえどんな結果になったとしても伝えたいの)




 今抱えているこの思いを、あの方に。



作者の心音瑠璃です。

この作品を連載開始して気が付けば一年…!が経っておりました!

こうして連載を続けられているのも皆様のお陰です、本当にありがとうございます!

相変わらずのマイペース更新ではありますが、皆様に楽しんで頂けるよう頑張りますので、引き続きお読み頂けたらとても嬉しく思います。

改めましてこれからも宜しくお願い致します。

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