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第一王子の本音

「え、エマ殿下がエルヴィス殿下の正式な婚約者に!?」


 学園からエルヴィスと二人で帰宅し、今日あった出来事を全て話すと、お母様は驚いたようにそう口にした。

 エルヴィスは神妙な顔をして頷くと、「申し訳ございません」と頭を下げた。

 驚く私達に対し、エルヴィスは言葉を続けた。


「恐らく、いえ十中八九、女王陛下が私とミシェル嬢の婚約に反対している証拠でしょう。

 私が送った婚約状をミシェル嬢がサインして城に送られたと思うのですが、その婚約状が何処を探しても受理されていないようなのです」

「「!」」


(っ、やっぱりそうなんだ……)


「元はと言えば私の責任です。

 女王陛下は私のことを嫌っておりますから」

「そんな! エルヴィスの責任じゃないわ!」

「! ミシェル……」


 そう否定したものの、その言葉の続きを見つけられなくて。

 それはエルヴィスもお母様も同じらしく、三人の間に沈黙が流れる。


(もしもこのまま、エルヴィスとエマ様の婚約の話が進んでしまったら)


 そう考えては打ち消しての繰り返しで。

 打開策を考えなくてはと思っても、思い出すのは二人が並んで座る後ろ姿ばかりで。

 モヤモヤとした感情が胸を締め付ける。

 そんな私に向かって、エルヴィスは「とにかく」と柔らかな声で告げた。


「今はミシェルも混乱しているだろうし、君は今月末の生徒会選挙のために動かなければならないから、其方に集中していて。

 もし、エマ殿下や第二王子のことで何か嫌なことがあったらすぐに言うんだ。 分かったね?」

「……はい」


 私は少し間を置いて頷けば、エルヴィスは「君にばかり嫌な思いをさせてすまない」とまた悲しそうに笑った。


(エルヴィスが謝ることではないのに)


 エルヴィスは自分のせいだと責めていたが、それを言うなら私の方だ。

 女王陛下には当然、私も嫌われている。

 元は女王陛下の実の息子である第二王子の婚約者であったのだから、それが破棄されて第一王子の婚約者だと認めることは容易ではないだろう。


(エルヴィスはそれでもきっと、自分が嫌われているからこうなってしまうんだと、思ってしまっているんだわ)


 そう考えると、先ほどよりずっと強い痛みに襲われるのだった。





「エルヴィス、今日は一緒に家まで来てくれてありがとう」


 そう口にすれば、エルヴィスは首を横に振り、「当然のことをしているから」と言って馬車に乗り込もうとするエルヴィスを引き止めた。


「あの」

「? 何、ミシェル」


 エルヴィスは振り返り、微笑みを浮かべて見せる。

 私はそんな彼の笑みが気になり、口にした。


「無理、しないでね」

「! え……」


 驚き目を見開く彼に対し、私は慌てて口を開いた。


「私の勘違いだったら良いのだけれど……、ずっと、貴方が無理しているように見えるから、心配で」


 そう言って恐る恐る顔色を伺えば、彼は黙り込んでしまう。

 私は違かったかな、余計なことを言ってしまったかも、とまた慌てて撤回しようとした瞬間、グイッと私の腕を彼が引いた。

 それにより、私の体がエルヴィスとともに馬車に乗り込む形になり、馬車の扉が閉じた瞬間、彼の唇が深く重なった。


「んっ……!?」


 急なことで驚き慌てるが、エルヴィスの唇が離れることはない。

 それに加えていつもより深く長く重ねられたせいか、少しして私は腰から砕け落ちた。

 そこでようやくハッとしたように、エルヴィスが私の腰を抱き止め、唇を離す。


「だ、大丈夫……じゃ、ないよね」


 驚きすぎてキスの最中に息を止めてしまっていたせいか、言葉を返す余裕さえなく呼吸を整えるので精一杯になってしまう私に対し、エルヴィスは「ごめん」と一言短く謝り、ポスっと私の肩に顔を埋めた。



「こんな状況下で君をこれ以上困らせないように、とか色々考えていたけれど……、やっぱり君のことになると僕は駄目みたいだ」

「っ、え」

「朝、君の姿を見た時からずっと、こうしたいと思っていた」

「!」


 そう言って、まるで甘えるように私の背中にギュッと手を回して抱き締める彼は、弱々しい声で言った。


「でも君も知っての通り、エマとの婚約話が水面下で勝手に決まっていることを知って……、漸く君と堂々と一緒にいることが出来ると思っていたのに、また君を傷つけて、その挙句どの面下げて君に触れられるんだ、なんてぐるぐる考えて、」


 彼はその調子で、甘えるように私を抱きしめたまま言葉を続ける。

 それでようやく、彼の本心を聞けたような気がして。


「! ミシェル」


 私の目からは一粒、涙が落ちていた。


「……ふふ、何だか、嬉しくて」


 彼の本音を聞けたことが、思った以上に胸に響いて。

 不安だった心の内が嘘のように、温かなもので広がって。

 彼は私の涙に口付けると、もう一度強く抱きしめて口を開いた。


「やっぱり、不安にさせてしまっていたんだね」

「……」


 不安な気持ちを抱いていたということはまるで、エルヴィスのことを信じていないみたいになってしまうのではないか、と今になって思い、でも隠し事はしたくないと黙って頷くだけにすれば、彼は更に抱き締める腕に力を込めて言った。


「大丈夫、僕は君との婚約を破棄してエマと結婚することは絶対にない。

 それかそうだな、もし君と僕の仲が認められないようだったら……、いっそ、一緒に駆け落ちしてしまえば、ずっと一緒にいられるんだろうか」

「……!?」


 突然、私から目を逸らさずにエルヴィスから告げられたその言葉に、心臓がドクンッと高鳴る。

 彼は「なんて、」と困ったように笑った。


「そんなことを君にさせるつもりはないよ。

 ただ僕は、それくらいの覚悟があって此処にいる。

 ……それだけは、忘れないでほしい」

「っ、エルヴィス」


 彼はそういうと、馬車の扉を開き私の背中をそっと押す。


「また明日」


 そう言って、彼は私が降りたのを見計らい、馬車の扉を自ら閉め、エルヴィスを乗せた馬車は静かに発車した。


 ―――いっそ、一緒に駆け落ちしてしまえば、ずっと一緒にいられるだろうか


(……っ、咄嗟に、答えることは出来なかったけれど)


 でも。


「どうして貴方はそんな、嬉しいことを言ってくれるの……?」


 私はそうして差し伸べられた貴方の手に、いつだって救われている。


(私にも、何か出来ることを探さないと)


 そして、私が今なすべき事を果たそう。

 そう心に決め、部屋へと戻ったのだった。




明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願い致します。

マイペースではありますが、更新の方も頑張って参ります!

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