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侯爵令嬢の決意

(遂に……、この日がやってきたのね)


 私は自身の格好……退学する為に破り捨ててしまった筈の制服と同じ、“模範生徒”を表す白の制服……に目をやった。


(まさか、本当に……、私に制服を送って来るだなんて)


 しかも、去年とは違って第二王子の婚約者でもないのに、如何して白の模範生の服なんだろうか。

 一体エルヴィス殿下は何を考えていらっしゃるの……?


 そんなことを姿見を前に考えていると、コンコンとノックをする音が聞こえ、慌てて返事をする。


「っ、はい」


 ガチャ、と扉が開いて顔を出したのは、お母様とお兄様の姿だった。


「! ……もう、着替えたのね」


 お母様の言葉に、私は小さく頷けば……、お母様は私に近付きながら口を開いた。


「白の模範生の制服……。

 エルヴィス殿下が贈って下さったのね。 とても素敵よ。

 似合っているわ」

「……!」


 お母様の言葉に思わず……、不意に泣きそうになる。

 それに気付いたお母様が、「あらあら」と慌てて私を抱き締め、背中を撫でてくれながら言った。


「……大丈夫。 例え第二王子が相手だろうと、私達は貴女の味方よ」

「!」


 お母様の言葉に、後ろにいたお兄様も私の目を見て言った。


「あぁ、そうだ。 ……実を言えば、ミシェルが学園に残ると言った時は心配で止めようと思ったが……、エルヴィス殿下が守って下さると仰っていたから、いざとなったら彼を頼ると良い」

「!? え、お兄様はエルヴィス殿下のこと、もう信じていらっしゃるのですか?」


 私が思わず驚いてそう口にすれば、彼等は顔を見合わせ……、笑みを浮かべ、お母様は口を開いた。


「えぇ。 だって、貴女も彼のことを、信じているのでしょう?」

「っ! わ、私は……」


 まだ信じきれていない、と言葉を紡ごうとしたが、お母様はクスクスと笑って言葉を続けた。


「見ていれば分かるわ。

 貴女が、ば……失礼、元婚約者の第二王子にですら、素の表情を見せたことがなかったのに、エルヴィス殿下はほんの僅かな時間で、貴女の心を掴んだ」

「!?」


 その言葉に思わず、私は驚き目を見開いた。

 それを見て二人は、意味ありげにクスリと顔を見合わせ笑ったのだった。





 ―――……エルヴィス殿下はほんの僅かな時間で、貴女の心を掴んだ



 揺れる馬車の中、私はずっとお母様のその言葉が頭から離れない。


(私の心を、彼が……掴んだ?)


 そっと胸に手を当て、私は彼を思い出す。

 ……確かにどうしてか彼と話をしていると、元婚約者様と話している時よりも自然と……、淑女の仮面を被らない発言をしてしまう。


(それは無礼に値するものの筈、なのだけれど……、何故かあの方は、私のそういう言動を見て喜んでいる気がするのは気の所為かしら?)


 それに……。


『君が好きだ、ミシェル・リヴィングストン嬢』

「……っ」


 あの方のことを思い出すとどうしても、彼がそう私に告白した時のことを思い出してしまう。


(ど、どうかしているわ、私。

 あれは、ただの彼なりのジョークよ)


 私を学園へ戻らせる為の……。


「……ってそれでは、又堂々巡りじゃない……」


 幾ら考えても分からない、“彼の本心”。


(弟の元婚約者……、それも、追放された令嬢に興味本位で近寄ってくるなんて)


 一体どういう了見よ……。


(……遊ばれてるのかしら)


 何だか考えれば考えるほど、あの方が限りなく黒に近い存在に思えてくるから不思議ね。

 ……でももし本当に、あの方の手の上で踊らされているのであるとしたら……。


(……はぁ。 その線の方が高そうね。

 用心しておきましょう)


 私は息を吐くと、移り行く馬車の風景を見つめる。

 その風景は着実に、元婚約者によって追放された筈の学園へと向かっているのだった。





 そして、遂に。


「……また此処へ……、通うことになるなんてね」


 私は自分を落ち着かせるよう息を吐き、前を見据える。

 目の前には、城のような造りの学園……、王立ローズ学園がそびえ立っていた。


「……」


 思わずギリッと拳を握り締める。


(……私は、逃げない)


 決めたの。

 私は、元婚約者様に無罪であることを証明し、私の家の名前に泥を塗ったことを謝罪してもらうと。

 その為には、どんなに辛いことが待っていたとしても、私はこの学園からも、元婚約者様からも、目を背けはしない。


「……ふふ、ミシェル嬢のお出ましだね」

「!」


 その言葉と共に、柱の陰から現れたのは……。


「……!」


 思わず目を見張ってしまうほどの、模範生徒服の白に、良く映える金髪碧眼を持つ、彼の姿だった。


「……エルヴィス・キャンベル殿下」


 私が彼の名を呼び淑女の礼をすれば、彼は綺麗な笑みを浮かべると、私の元へ歩み寄ってきて……、スッと手を差し出された。

 それに対して驚く私に、彼はにこやかに笑って告げる。


「改めて宜しくね、ミシェル嬢」

「! ……宜しく、お願い致します」


 私はその言葉と共に彼の手を握れば、さぁっと温かな風が私達の間を吹き抜けていく。


 私達の未来に待ち受けているのは光か闇か。

 その答えは誰にも分からない。

 ただ、彼は……、エルヴィス殿下は、その両局面を持った人物であることを、この時の私は知る由もなかった。


 そして、此処から私達の“反撃”が開始されていくことになる……。



「あー、言い忘れていたんだけど。

 君にはこのまま任期終了の8月まで、生徒会の会長を続けてもらうから。 だから、はい」

「!?」


 エルヴィス殿下はそんな爆弾発言を落としながら、にっこりと笑って私に紙を差し出す。

 それを開いて……、私は目を見開いた。

 そこに書かれていたのは、私も以前から仕事としてやっていた、始業式の際に読む生徒会会長からの言葉だった。


「……えっ、まさか……」

「ふふ、その“まさか”だよ」


 彼がそう言って、アイスブルーの瞳を細めて笑う。


「大丈夫、私もいるから」

「〜〜〜」


(……この方、やっぱり絶対楽しんでやっているわ……!)


 何かしらやるかやらされるかすると思ったけど……、始業式早々これなのね!

 ……分かったわよ、やってやるわ。

 相手が誰だろうと、屈したりするものですか。

 例え第二王子でも、第一王子でもね……!



 彼はそんな決意を固めた私を見て、変わらず憎らしいほど綺麗な笑みを浮かべていたのだった。

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