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両思いの証

「……っはぁ、はぁ、此処まで来れば、大丈夫、かしら……?」

「ははっ、僕達は人気者だね」

「に、人気者だねって……」


 私は息を整えながら、逆に息一つ乱れていない彼にそう突っ込んだ。

 “薔薇の縁結び”が終わり、舞台裏に戻った瞬間。

 待ち受けていたのは、言うまでもなく皆の質問ぜめだった。


(と、咄嗟に囲まれる前に、殿下が私の手を引いてくれたから良かったけれど……)


 そのお陰でなんとか、その場を脱出し、生徒会室まで避難することが出来た。

 ……というか、365本の薔薇の花束を持って走って息一つ乱れてない殿下って一体……。


「あぁ、そういえば僕達、言いたいことだけ言って、“薔薇の縁結び”で一番大事なことをやり忘れていたね」

「? 一番大事なことって……、!」


 そう言った私に、彼は花束を渡しに向かって差し出した。


「受け取ってくれる?」

「……あ、あの、一つ、聞いても良い?」

「? 何?」

「……も、もしかして、その薔薇って……、この前の……」


 私の言葉を汲み取ったのか、彼は「あぁ、」と薔薇を見て笑った。


「うん、そうだよ。 この前の注文ミスって言っていた薔薇の500本のうちの365本。

 残りは城の僕の部屋にあるよ」


 いる? とにこやかに聞かれ、私は慌てて首を横に振りながら言った。


「い、いや! 笑い事ではないわよね!?

 私はてっきり、あの薔薇はキャンセルしたものだとばかり……」

「元々その話を聞いた時から考えていたことだよ。

 その花、僕が買えないかなって。

 それで丁度……っていうのも変だけど、君は寝ていたから、驚かせようかと」


 あ、お金は自分で払ったから安心して。

 そうさらっと言って笑う彼に対し、私は頰に手を当てた。


「そ、それは……、と、とても心臓に悪いサプライズだわ」

「……あれ、ミシェルはお気に召さなかった?」


 あからさまに落ち込んだような表情をするものだから、私は全力で手を横に振った。


「い、いいえ、そんなこと!! と、とっても嬉しかったのよ! 凄く!

 た、ただ、そこまでしてもらっているのに、私、何も返せるものがないというか……っ」

「? 返してもらったよ?」


 彼がそうきょとんとした顔で言うものだから、私は「え?」と聞き直せば、彼は不意に近付いて来て……。


「!?」


 彼の人差し指が、私の口に触れる。

 そして、にこりと笑って口を開いた。


「君の、“両思い”の証の口付け」

「……〜〜〜!?」


 私はその言葉に、先程の……、一瞬触れた彼の唇の感触と表情を思い出し、恥ずかしさから言葉が出てこなくなってしまう。

 そんな私を見た彼は、ふはっと吹き出して笑うと……、口を開いた。


「……君が、そう言う顔をするから悪いんだよ? 以前から、君が僕と両思いだって分かったら、此処にキスをすると言っていただろう?」

「っ、ま、まさか、公然の場で、やるとは思わなかったわ……」

「だって、証明したかったから。

 ……正真正銘、君は……、ミシェルは、僕の婚約者だと」

「!」


 その言葉に、私は先程のプレンダー公爵夫人との会話を思い出し、口を開いた。


「ま、まさか、先程の公爵夫人のことを気にして……」

「まあ、多少はね。

 ……というよりは……、僕へ告白してくれた君があまりにも可愛すぎて、我慢が出来なかった、というのが本音」

「!?!?」


 殿下の口から飛び出る甘い言葉の数々に、私は身悶えていれば、彼はふふ、と笑いながら私の髪に付けていた赤い薔薇を、そっと外して口付ける。

 その行為を思わず惚けて見てしまう私に対し、彼は「その顔は駄目だよ」と妖艶に笑って言った。


「……この部屋では二人きりだし……、今ただでさえ君の気持ちを知って浮かれているというのに、そんな顔をされたら……、今度こそ、歯止めなんて効かないよ?」

「っ!!」

「ふふ、ちなみにこれも本音だから……、一応忠告ってことで」


 はい、そう言って彼は、驚いている私から少し離れると、紅白の交じる薔薇の花束を、私の手にポスッと持たせた。


「“薔薇の縁結び”……、これで成立だね」

「……ほ、本当に、頂いちゃって良いの?」

「はは、大分重い愛だし、水を替えるのも大変だろうけど、受け取ってくれたら嬉しい」

「ううん、そんなことないわ。

 ……嬉しい」


 ありがとう、私はそう言って、薔薇の花束を見つめた。


(365本……、“毎日君を想っている”……)


 その言葉が、どれだけ嬉しかったか。

 彼には伝わっているだろうか。

 そんなことを考えていたら、彼の影が花束に不意に差す。

 私は少し驚いて彼の顔を見上げれば、「一度その薔薇を貸して」と彼に言われる。 私はその言葉に花束を差し出せば、彼はそっとそれを机に置いた。

 すると……。


「……ごめんね、ミシェル。

 やっぱり、君が可愛すぎて我慢出来ない」

「え……、っ!」


 刹那、私の顎に彼の手が添えられ、クイッと上を向かされる。

 いつの間にか、私の腰に添えられた手に力がこもり、一気に体ごとその距離が近くなった。


(あ……)


 間近にあるアイスブルーの瞳は、私の瞳を捉えていて。

 そのアイスブルーの瞳が綺麗、そう想った瞬間……、先程は一瞬だったあの温もりと感触が、今度は彼の優しさを感じる程、甘く、長く、唇が重なったのだった。



 そして、長く甘く唇を重ねた後、発せられた彼の第一声は。


「あぁ、惜しいなぁ」

「?」


 唐突に発せられたその言葉に、私が首を傾げると、彼は少し拗ねたように口を開いた。


「初めて君の口から、“愛してる”という言葉を聞けたのに……、その表情を見ることが出来なかった」

「!?」

「あーあ、絶対可愛かったのに……、それにその顔を、男子生徒も見ているというのは気に食わないな。 今すぐにでもそいつらの記憶を消し去ってしまいたいくらい。

 ミシェルは僕の婚約者だと自慢したいのが半分、でも僕に見せるどんな表情も独り占めしたいのが半分」

「え、ええエルヴィス殿下!? そこまでにして……っ」


(でないと、いよいよもって心臓がもたない……!)


 ……半ば物騒な言葉が聞こえたような気もしたけれど、それは全て私への愛情だと思うと……、どうにも、恥ずかしさが増すばかりで。

 そんな私に対し、「なら、」と彼は悪戯っぽく笑った。


「もう一度、その言葉を僕に聞かせてほしいな」

「っ!?」

「……言ってくれるでしょう? ミシェル」

「は、え、え……」


 いきなりの発言に、思わず思考回路が停止する私。

 そんな私の表情を見て、彼はすぐに口を開いた。


「ま、焦らなくてもこの先ずっと一緒にいるから、幾らでも聞けるんだけどね」

「!」


(……そんなの……、ずるいわ)


 私ばかり、嬉しくなってしまう。


「さて、そろそろ戻らないとね。 招待客も帰っている頃だろう。

 此処で油を売っていると皆に何を言われるか……、ミシェル?」


 私は彼の言葉を遮るように、思わずギュッと、彼の裾を引っ張った。

 そして……、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「……本当に……、嬉しかったの」

「……!」


 貴方の言葉が、表情が、優しさが。

 いつも、幾度となく、私の心に真っ直ぐと響いてきて。


「……初めてなの、こんな気持ちは」


 彼といると、鼓動が一気に速くなって。

 胸の奥に、じんわりと温かくて幸せな気持ちが、広がっていって。


「……ずっと……、貴方がこの先、一緒にいてくれるというなら。

 私は……、少しでも、この気持ちを返していけたら、私の思いが……、貴方に伝われば良いなと思うの」

「! ミシェル」


 彼が、私の名を呼ぶ。

 私はそれに答えるように、ゆっくりと顔を上げ……、彼を真っ直ぐと見て、今出来る一番の微笑みを浮かべて、口を開いた。


「貴方を、心から愛しています。

 ……エルヴィス」

「〜〜〜!?」


 彼は、驚き目を見開いて……、口を手で押さえて固まった。


「……あ、あの?」


(や、やっぱり呼び捨ては不敬、だったかしら)


 私は慌てて謝罪しようと彼に近寄った、瞬間。


「!?」


 体を引き寄せられ、気が付けば、彼の腕の中にいて。

 いつもの優しい抱きしめ方とは違い、強く、きつく、抱きしめられる。


「……ミシェル」


 彼がそっと、私の耳元で囁くように、吐息交じりに私の名を呼んで。

 そしてそっと、紡がれた言葉は。





 ―――……僕も、君を愛している

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