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侯爵令嬢の代役

 結局、私が学園へ行くことを許されたのは、ローズ学園パーティー当日だった。


「ミシェル、無理をしては駄目よ」

「出来る限り、エルヴィス殿下の側に居なさい」

「私も後から行くから、何かあったら直ぐに声をかけるんだよ」

「お嬢様、これを羽織って下さいませ」


 最初から順番にお母様、お父様、お兄様、それからメイと続き、私は少し笑って答える。


「心配をかけてしまってごめんなさい。

 でももう大丈夫だから」


 3日も休んでしまったんだもの、と苦笑いすれば、メイは白制服の上から上着を羽織らせてくれながら答える。


「いつもお嬢様は頑張っていらっしゃるのですから、あまり気を張らないで下さいね」

「有難う、メイ」


 私がお礼を言えば、メイは照れ臭そうに笑って「私も後で伺います」と口にした。


(今日のパーティーにはお兄様とメイが来るのね)


 私はその言葉に頷き、「では」と口を開いた。


「行ってきます」

「「「「行ってらっしゃい/ませ」」」」


 家族とメイの声に押され、玄関の扉が開いた先に居たのは。


「……え!?」

「おはよう、ミシェル嬢」

「ど、如何して貴方が此処へ……」


 アイスブルーの瞳に見つめられ、私は驚いてそう声を上げれば、何故か後ろからはお母様とメイの黄色い声が聞こえる。


「一緒に学園へ行こうと思って」


 そうふわりと笑みを浮かべた彼の服装は、やはり新入生歓迎パーティーと同じ白制服で。


「……又私に……、付き合ってくれるの?」

「! 当たり前でしょう?

 だって僕は、君の“婚約者”なんだから」

「!」


 その言葉に、又後ろから黄色い悲鳴が聞こえるのは……、気の所為、ということにしておこう。

 彼はそれに気付いたのかくすりと笑って、私に向かって手を差し伸べた。

 その手に私はそっと自分の手を重ねると、彼と共にエスコートされるように歩き出す。


「あぁ、それと」

「?」


 彼は歩きながら、そっと小さく私にだけ聞こえるような声で口にした。


「“薔薇の縁結び”、楽しみにしていてね」

「! ……はい」


 彼はそう言ってふわりと笑みを浮かべるものだから、私はそう返すのが精一杯で。

 そして馬車に乗り、窓から家族に向かって手を振ってからゆっくりと、馬車はローズ学園へと向かって動き出したのだった。




「エルヴィス殿下」

「? 何?」

「気遣ってくれて有難う」


 この三日間、私は一切学園へ行かなかった為、ローズ学園パーティーの準備にはその間出来なかった。

 その間、お見舞いに来てくれながら準備の状況を報告してくれていたレティーが、今は殿下が私の代わりを務めてくれていると言っていたのだ。


(ちゃんと、御礼を言えていなかったから)


 そんな私の言葉に、彼は少し驚いたように目を見開いた後、笑って口を開いた。


「どういたしまして、と言いたいところだけど、僕はただ婚約者の君の代わりを務めていただけだよ。

 後のことは生徒会の皆とそれから……、注文ミスのことがやはり咎めているみたいで、レイモンドが特に頑張ってくれていたからね」

「! レイモンドが……」

「うん。 大分気に病んでいるみたいだから、後でフォローしてあげて。

 それから、他の役員にも御礼を言ってくれたら嬉しい」

「勿論よ」


(……大方、レイモンドの所為ではないのに)


 彼の言葉に私は大きく頷きながら、ずっと気になっていたことを殿下に尋ねようと口を開く。


「あの、ずっと気になっていたんだけれど……、薔薇の件は、一体どうやって納めてくれたの?」


 レティーから聞いた話によると、殿下が持ってきてくれた請求書にはしっかりと、500本……、本来の数に戻って記載されていたらしい。

 キャンセルは効かないと言われていたが、残りの500本がどうなったのか気になって仕方がなかった。

 そんな私の疑問に対し、彼は「あぁ、あの薔薇か」と腕を組んで言った。


「店に行ったらすぐに500本に変えてくれたよ」

「!? きゃ、キャンセルは効かなかったはずでは……」

「あぁ、まあそうだね。

 そこは、王子である僕の特権ってことにでもしておいてくれれば良いよ」

「え、えぇ……」


 何かを含んだような、誤魔化すような言い方に違和感を覚えたものの、王子だからと言う言葉には私もそれ以上は突っ込めない。

 取り敢えず頷いて見せれば、彼は窓の外を見て、「学園に着くよ」と、まるで何事もなかったかのように笑って言うのだった。





「! ……わぁ……」


 薔薇の花が咲くアーチ状の門を潜り抜け、その先に広がった光景に釘付けになりながら、私は思わず感嘆の声を漏らした。

 今日の会場である、何十種類もの薔薇に囲まれた広大な庭園は、数日前に見た時よりとても豪華で綺麗だった。

 色取り取りの大小様々な薔薇、芳しい柔らかな花特有の匂い、そして、白いレースをあしらったテーブルクロスに覆われた、無数のテーブルやその上に置かれた花瓶に入った薔薇……。


「どう?」

「っ、とっても素敵!!」


 私は思わず、隣にいた殿下の言葉に食い気味にそう返せば、彼は驚いたような顔をした後、あははと笑って言った。


「良かった。 皆で頑張った甲斐があった。

 ……ミシェルがいない分、頑張って驚かせるくらい素敵な会場にしようって、レティー嬢が張り切っていたから」

「! そうだったの?」

「うん」


(レティーがお見舞いに来てくれた時、伝染さないようにと話は少しだけにしていたけど……、その時は一言も言っていなかったわ)


「……後で、彼女にきちんと御礼を言わなければね」


 私はそう言って、もう一度庭を見回した。

 そして、奥の方にある特設の演壇を見て口を開いた。


「そういえば、今年の“薔薇の縁結び”の司会は誰がやることになっているの?」

「それは、去年と同じくレティー嬢ではなかったかな?

 補佐にはニールが回っているよ」

「まあ、ニールが?」


 前にも紹介したニール・クレヴァリーは、副会長であり第二王子派の人物で、冷静沈着な彼。

 何を考えているか分からない為、要注意人物と思っていたけれど……。


「意外ね。 彼、あまり目立つようなことは好きではないのに」

「あぁ、それは多分、元々の役割分担で“薔薇の縁結び”に出場する人達の管理を彼がしていたからじゃないかな」

「そうなのね……」


(殿下、やけにニールのこと詳しいわね。

 この三日の間に私の代わりに仕事をしてくれていたからかしら?)


 それにしても、ニールがそう言った役を引き受けること自体が、今迄で無かったことのような気がするのだけれど……。

 そう考えているうちに、私ははたとある考えに辿り着く。


(まさか……、ニールが薔薇の件の犯人、だったりは……)


「? ミシェル?」

「っ、な、何でもないわ。

 それより、例の薔薇は何処に?」

「あぁ、それなら昨日先に全校生徒に配ったよ。

 去年当日に配る時大変だったと言っていたから、皆で話し合って、今年は前もって着用を義務付けることにしたんだ。

 もし仮に、薔薇が駄目になったり失くしてしまったりしても予備があるからね」

「! そ、そこまで考えてやってくれたのね。 有難う」


 私が驚きつつ御礼を言えば、彼は「いや、」と苦笑いをして言った。


「当日の仕事が少しでも楽になればと思ってやったけど、君に聞かずにやってしまったことだから怒られたらどうしようかと思っていた」

「あら、貴方が決めたことに対して私、怒ったりしないわ」

「!」


(だって、頭が良いから物事を的確に判断してくれるし、)


「いつも助けてもらっているもの」


 私がそう言ったのに対し、彼は何も言わなかった。

 不思議に思って隣を見れば……、彼は明後日の方向を向いていて。


「?? エルヴィス殿下?」

「っ、ちょ、ちょっと待って」


 彼はそう言って目を抑えて上を向いてしまった。


(……照れているの?)


「……私、何か言ったかしら?」

「っ、違う、君が悪いわけじゃないから」

「??」


 そう言った彼の声が、少し震えているように聞こえたのは……、気の所為、だろうか。


「あ! ミシェルいたー!!」

「「!?」」


 突如、その大声が後ろから聞こえ、驚いた私達は振り返ってみれば、そこには同じく白制服に身を包んだレティーとレイモンド、それから他の生徒会の皆がいて。


「やっぱり、先に来ていたのね!」

「会長、体調は如何ですか?」


 口々に私を心配する声を上げてくれる皆に、私は「お陰様で、すっかり元気よ」と返しながら口を開いた。


「此方こそ、大事な時に体調を崩してしまって本当にごめんなさい。

 それと、こんなに素敵な会場に仕上げられたのは、紛れもなく皆の力のお陰よ。 有難う。

 今日はその分私も頑張るから、何かあったら言ってね」

「! 会長……」

「っ、ダメダメダメ!」

「!?」


 突然のレティーの声に驚き見れば、彼女は私に紙を渡してから、近くにあったベンチに座らされる。

 その行動に驚き見れば、彼女は「いーい?」と人差し指を立てて言った。


「今日の仕事も減らしておいたから!

 病み上がりなんだから、体を大事にして!」

「! レティー」



 私はそんな彼女の言葉が嬉しくて、「有難う」と心から言えば、何故か顔を赤くして「やっぱりミシェルは可愛い!」と口にした彼女に抱き着かれたのだった。




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