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問題発生

「……シェル、ミシェル!」

「! ご、ごめんなさい、何かしら?」


 ぼーっとしてしまっていたらしい。

 名を呼ばれはっとして顔を上げれば、レティーが心配そうに顔を覗き込みながら言った。


「大丈夫? あまり顔色が良くないようだけど……、疲れてる?」

「へ、平気よ。 大丈夫」


 私は慌てて首を振り、パチンと軽く頰を叩く。


(駄目よ、しっかりしないと。

 後4日でローズパーティーがあるんだもの。

 こんなところで疲れている訳にはいかないわ)


「そう……? ミシェル、本当に無理はしないでね」

「有難う、レティー」


 彼女の言葉に笑みを浮かべれば、レティーは「そういえば、」と口を開いた。


「“薔薇の縁結び”、出ることにしたのね」

「! えぇ」


 レティーの言葉に私は頷けば、彼女は「そう」と言いながらふっと微笑み口にした。


「良かった。 何か吹っ切れたみたいね」

「! そ、そうかしら?」

「えぇ」


 とても幸せそうだわ、そう言った彼女の言葉に内心ドキリとしつつ、誤魔化すように手元の資料に目を落とした、その時。


「っ!! 会長!!」

「!? レイモンド? どうかしたの?」


 バンッと物凄い勢いで生徒会室の扉が開け放たれた先にいたレイモンドの、震えるような声と蒼白した顔に驚き、何か良くないことが起こったのだと瞬時に察知して、私は慌てて彼に駆け寄った。


「どうしたの、レイモンド。 何があったの」

「ごめんなさい……!」


 いつになく、ボロボロと泣き出す彼に驚いて今度はレティーが代わり言葉を紡ぐ。


「レイモンド、落ち着いて。 何があったの。

 ちゃんと言わないと……」

「っ、僕、何度も確認、したはずだったんけどっ……」


 震える手で差し出されたのは、彼に任せていた、赤薔薇と白薔薇を頼んでいる花屋の請求書で。

 そこに書かれている数字に私達は驚き声をあげる。


「「!? 1000本……!?」」


 確かに皆で確認した予算の本数は、全校生徒数を大目に見積もって赤薔薇と白薔薇100本ずつの計200本と、当日飾る用の花を合わせて500本。

 それでも予算はギリギリだったはず。

 なのに、そこには本来頼んでいた本数と金額は倍の数字が描かれていて。


「一体、どういうこと……? 私達皆で確認した数字だったはず」

「ぼ、僕も間違いだと思って、慌てて店に聞いたんだ。

 だけど、この数字で合っていると、一度発注したらもう取り消せないって言われて……」

「どうしよう、ミシェル」


 レティーとレイモンドに焦りの色が広がる。

 私自身も、酷く焦っていた。


(頼んでいる薔薇は一本一本が高額。

 イベント予算が500本で既に限界だったし、これでは予算オーバーも良いところよ)


 何処で間違えた?

 絶対に間違えないようにと、皆で確認して注文したはず。

 レイモンドが間違えることなんて滅多にないし、第一倍の数を間違えるだなんてするはずがない。


(一体どうして……)


 どうすれば良い?

 キャンセルの効かない500本の花。

 私が買う? でもそれでは、又家に迷惑がかかってしまう。

 ただでさえ第二王子との婚約破棄の件で家に迷惑をかけているのに、これ以上迷惑をかける訳にはいかない……。


「っ、お、お母様に聞いて、私達が買うしかないわ」

「! ご、めんなさい……」


 レティーの困った顔に、謝り続けるレイモンド。


(でも、問題は何も金額のことだけではないわ。

 請求書のコピーと領収書は、どちらも学園長に提出するもの。

 生徒会が大きなミスをしたことを、学園長や理事長に伝わってしまったら……)


 生徒会の責任追及が行われる。

 真っ先に問われてしまうのは、会計であるレイモンドであり、下手をすれば生徒会を除名される可能性がある……。


(どうすれば良い? 考えなければ)


「っ、とりあえず、私が店を訪ねるわ。

 貴方達は此処で待っていて」

「わ、私達も行くわ! だって悪いのは私達で」

「駄目よ、レティー。 まだ仕事が山積みだもの。

 二人は此処に残って、ローズパーティーの準備を進めて」

「っ、でも」


 焦っている二人の様子に、私はそっと二人の方に手を置き、微笑みながら落ち着かせるようにしながら言った。


「大丈夫、私を信じて」

「「ミシェル/会長……」」


 私はもう一度笑みを浮かべて立ち上がると、鞄を持ってその場を足早に後にするのだった。




 長い廊下を足早に歩いていると。


「? ミシェル?」

「! エルヴィス殿下」


 ばったりと彼に遭ってしまい、私は少したじろいでしまう。


「どうしたの、そんなに慌てて。

 ……あれ、もう帰るの?」


 彼は私が鞄を持っていることに気付き、驚いたようにそう声をあげる。

 私はそれに対し、肯定すればよかったのに……、口籠ってしまう。

 それを不思議に思った彼は、「ミシェル?」と私の顔を覗き込んだ。


「……っ」

「……え!?」


 彼の顔を見た瞬間、何故か……、自分でも分からないけれど、突然涙がこみ上げてきてしまって。


「ど、どうしたの、ミシェル、一体何が……」


 オロオロと私が突然泣き出したことに驚いた彼が、ハンカチを差し出してくれながらそう問う。

 それに対し、私は口を開きかけたが……、はたと思い止まった。


(これは、生徒会の問題。

 彼にこれ以上、迷惑をかけるわけにはいかない)


 そんな私の気持ちを汲み取ったのか、彼は少し屈むと、私の涙を拭いながら、視線を合わせてゆっくりと口を開いた。


「何があったの。 僕に教えて」

「……っ」

「……君の、力になりたいんだ」


 アイスブルーの瞳が、私を見つめる。

 まるで見透かされているようなその瞳に、私は……、彼の手を取って歩き出した。


「? ミシェル、何処へ」

「……時間が無いから、馬車の中で説明させて」

「! ……分かった」


 そう言うや否や、突然手を力強い腕に引っ張られる。


「!? な……!」


 反転した視界に映ったのは、殿下の顔と天井。

 そして、久しぶりに感じる浮遊感。

 それは、紛れもなく彼に抱き抱えられたからで。


「お、下ろして!!」

「良いから、掴まって。

 ……少し走るけど、我慢してね」

「!? ちょ……!」


 その宣言通り、彼は……、物凄いスピードであっという間に、学園の玄関口へと着いた。


「ろ、廊下は走っては駄目よ……」


 ふわふわと、謎の浮遊感に襲われながらそう口にすれば、彼は御者に馬車の扉を開けてもらってから私をその中へそっと下ろすと……、私の額に手を置いて「やっぱり」と言い、その先の言葉を紡いだ。


「ミシェル、君熱があるね」

「!?」


 確かに、言われてみれば少しいつもより体調が良くない気がしていた。 思考回路が回らなかったり、ボーッとしてしまう時間が多かったり。

 気の所為だと思っていたけど……。


「……何で、分かったの?」


 自分でも気が付かなかったのに。

 私がそう問えば、彼は「え?」と驚いたように口にしてから、馬車に乗り込むと、やがてふふっと笑って言った。


「いつも見ているから?」

「っ、ど、どうして疑問形なの……」


 彼の言葉と表情に、熱の所為ではなく頰が紅潮するのを感じ、誤魔化す為にそっと視線を逸らしながらそう口にしてみたのだった。


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