未来に向かって
最終回です…!
―――……三ヶ月後
太陽の光が窓から降り注ぐ大広間の中。
純白の衣装を身に纏い、誓いの言葉を口にした私達は互いに向き合う。
「ミシェル」
そう私の名前を呼び、金色の髪をさらりと揺らしてアイスブルーの瞳を細める彼に、私も愛しい彼の名を呼ぶ。
「エルヴィス」
そう名を呼べば、彼は私の大好きな笑みを浮かべ、そっと私の顔にかかっていたベールを外した。
そして、二人でもう一度微笑み合うと、ふわりと唇が重なった。
卒業式から三ヶ月後の今日、何処までも澄み渡る青い空の下、私達は結婚式を迎えた。
“準備が整い次第、君を迎えに行く”という言葉通り、エルヴィスは私を迎えに来てくれた。
それも三ヶ月という驚きの、異例の早さで。
通常結婚の準備には、半年から一年という時間を有する。 結婚式の日取りは勿論、結婚後の生活環境を整えるためであったりやることは山程ある。
しかし、その準備をエルヴィスは倍以上の速さでやってのけ、約束通り私の元へやって来て言った。
『お待たせ致しました、僕だけの婚約者殿』
そう言って、学園時代をまるで思い出させるかのように、108本の真っ赤な大輪の薔薇の花束を抱えて現れた時には、本当に嬉しくて泣いてしまった。
彼は何度、これから先もそうして私を喜ばせてくれるのだろう。
(私はそんな彼に、どう返していけるだろう)
そんなことを考えて彼を見上げていた私と、彼の視線が混じり合う。
エルヴィスはアイスブルーの瞳を細め、「疲れた?」と私を労るように声をかけてくれる。
私はそれに対して首を横に振り、「大丈夫よ」と笑みを浮かべて答える。
すると、エルヴィスは口元を押さえて悶えるように言った。
「〜〜〜いつものミシェルも勿論素敵だけれど、今日は本当にやばい……」
「え?」
エルヴィスの口から飛び出た言葉に思わず目をパチリとさせれば、彼は悪戯っぽく笑うと私の耳元で囁くように言った。
「このまま腕の中に閉じ込めておきたいほど綺麗だってこと」
「〜〜〜!?」
「ふふ、まあそれは今夜のお楽しみってことかな」
「っ、え、エルヴィス……!!」
またわざとだわ……! と思わずポカポカと彼の胸の辺りを軽く叩いていると。
「本当、相変わらず暑苦しいくらいラブラブよね」
「エマ様!」
「ミシェル! 結婚おめでとう!」
「レティー!」
呆れたように笑うエマ様と、満面の笑みを浮かべてそう祝福してくれるレティーの姿を見て、私は嬉しくなってそんな二人の下に駆け寄る。
その二人に加え、後ろから騎士団の制服姿のニールと礼装姿のレイモンドも現れ、その二人はエルヴィスと言葉を交わし始めた。
エマ様は笑みを浮かべて口を開いた。
「私からも。 ミシェル、おめでとう。
王妃として、そして友人として、貴女がこうして次期国王のとなりに立っていることを誇らしく思うわ」
「っ、ありがとうございます、エマ様。
そう言って頂けて本当に嬉しいです」
エマ様は頷くと、「本当に」としみじみと口を開いた。
「あまりにも素敵で、羨ましいと思ったわ。
私達の仲も認めてもらえるまで、後もう一押しだとは思うのだけど……」
そうエマ様が口にした時、話していた男性陣の方が急に騒がしくなる。
私達は顔を見合わせその方向を見れば、ニールがエルヴィスに向かって話しているのが聞こえてきた。
「それは本当ですか、エルヴィス殿下」
「あぁ。 今までの君の騎士としての活躍ぶりを見て決めた。
……私が正式に国王の位を授かったら、君を私兵団の団長として任命しようと思う」
「私兵団の団長!?」
驚いてそう声を発したのはエマ様だった。
私も驚いて口元を覆った。
(この国で国王陛下の私兵団の団長に任命されるということは、騎士としてはこれ以上ない誉……、それをニールが受け取れるということは)
「〜〜〜やったわね、ニール!」
「わ!?」
エマ様がニールに抱き着く。
ニールもエマ様の肩を抱き視線を合わせて柔らかく笑うと、エルヴィスに向かって言った。
「精一杯務めさせて頂きます」
「あぁ。 これからも宜しく頼む、ニール」
「はい」
そう返事をしたニールは臣下の礼を取り、エマ様もまた淑女の礼をエルヴィスに向けたのだった。
四人が帰った部屋で、私とエルヴィスはバルコニーからの景色を眺めながら言葉を交わす。
「学園で卒業してから、時間の流れが早く感じるよ」
「エルヴィスは国王陛下になる準備で大忙しだものね。
そんな中で結婚式の準備までしてくれてありがとう、エルヴィス」
「礼には及ばないよ。
だって、君を早く迎え入れたかったのは僕だもの。
……ミシェルを、これで正真正銘僕のものだけに出来たと思うと凄く嬉しくて」
「私も」
ギュッと繋いだ手で輝きを放つ、今日交換したエルヴィスとお揃いの指輪。
その手を持ち上げて笑い合うと、エルヴィスは遠くを見て言った。
「さて、これからもっと忙しくなるだろうから気を引き締めないと」
その言葉の意図していることが私にも分かって。
(エルヴィスの戴冠式もそうだけれど、ベアトリス殿下の処遇とブライアン殿下のこともあるのよね)
ベアトリス殿下の処遇についてはまだ裁判にかけている最中である。
現段階で、ベアトリス殿下が全ての罪を認め反省していることから、修道院送りになるだろうとエルヴィスは言っている。
そして、彼女の息子であるブライアン殿下はといえば、エルヴィスの下で厳罰に処している……とエルヴィスは黒い笑みを浮かべて心なしか嬉しそうにしていた。
それから、ブライアン殿下が疎かにしていた勉強を基礎から叩き直させている、とも。
(それ以上細かく何が課されているのかは怖くて聞けなかったけれど、エルヴィスには何か考えがあってのことだと知っているからきっと大丈夫)
以前部屋から出てきた放心状態のブライアン殿下の姿を見かけたけれど、それでも大丈夫だと思う、多分。
「でも、どんなに忙しくても大丈夫。
だって、僕にはこれから毎日隣に君が居てくれるから」
「!」
そう言って、エルヴィスは私をお姫様抱っこしてクルッと一回転した。
そして私を見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「ミシェル。 これからも宜しく」
「っ、勿論! これからも末永く宜しくお願い致します、エルヴィス」
「……泣かないで、ミシェル」
「っ、ふふ、これは嬉し涙だから良いの」
「そっか」
エルヴィスは私の頬に伝った涙を拭うようにそっと口付けを落とすと、額を合わせ笑い合ったのだった。
全ての始まりは、婚約破棄だった。
婚約破棄され傷付いた心を救ったのは、元婚約者の兄だった。
好きだと告げた彼の言葉が信じられなくて、半信半疑のまま始まった、退学するはずだった学園での新しい婚約者としての生活。
ちょっぴり意地悪で何を考えているのか分からない彼に振り回されっぱなしだったけれど、そんな彼に想いを寄せるのに時間はかからなかった。
「……エルヴィス」
「何?」
腕の中にいるエルヴィスが首を傾げる。
私はそんな彼に向かって笑みを浮かべて言った。
「もう知っていると思うけれど、貴方が私の最初で最後の“初恋”の相手です」
「! ……あぁ」
彼は頷き、「僕も」と口にしてからその距離が0になる寸前、口を開いた。
「君が僕の“唯一”の最愛の相手だよ、ミシェル」
驚く間もなく、何処までも優しく唇が重なったのだった。
(『婚約破棄された令嬢は、ドSな第一王子に翻弄される』完結)
最終話、これにて完結致しました〜!
如何でしたでしょうか?
評価やブクマを付けてくださった皆様、そしてお読み下さった皆様、本当にありがとうございました!
作者史上長い連載…、最初の投稿から一年半の連載をさせて頂きました。婚約破棄から始まる恋、それも婚約破棄された相手の兄!?という展開から始めさせて頂きましたが、楽しんでお読み頂けていたら本当に嬉しく思います。
次回作は少しずつ、書き溜めている最中ですので、またどこかで作者の物語を読んで頂けたら本当に、本っ当に嬉しく思います!!
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!
2021.9.27.
2025.9.16. いつも応援、お読みいただきありがとうございます。この度、こちらの作品の商業化が決定いたしました!続報をお待ちいただけますと幸いです♪