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夢のような

 エルヴィスと二人きりになり、そのまま二人で話がしたいというエルヴィスに連れられ向かった先は、私達の思い出の場所でもある生徒会室だった。


「鍵はエリクに頼んで貸してもらったんだ」

「そうなのね」


 エルヴィスは「ミシェルと二人きりで話がしたかったから」と笑うと、部屋の窓をそっと開けた。

 涼しい風と共に微かに楽団が演奏する曲が耳に届く。


「……無事に、終わったね」


 まだまだやることは山積みだけれど、と肩を竦めて言うエルヴィスの隣に立つと、「えぇ」と頷き、言葉を返す。


「エルヴィスは、私が出した答えで良かったと思う?」


 彼が私に意見を求めるとは思ってもみなくて、私があの場で口に出した答えがこれで良かったのか。

 ずっと気がかりでそう尋ねれば、エルヴィスは微笑み口にした。


「あぁ。 僕は、ミシェルが出してくれた答えで良かったと心から思っているよ」

「そう……」

「まあ、ミシェルが許したとしても、ブライアンが君にしてきたことについてはこれからどう償ってもらおうか、検討中だよ」

「!? ぜ、全然許していなかったのね……」


 エルヴィスは私の言葉にキョトンとしたような顔をした後、「当たり前だよ」と何処か黒い笑みを浮かべて言う。


「僕の大切なミシェルを傷付けた罪は重いよ?」

「わ、私としては、私に対しての罪ではなく、貴方がされてきたことに対する罪の方が重いと思うけれど……」

「では、彼には僕達二人分の償いを課すことにしよう」


(こ、これは余計にブライアン殿下の罪を重くしてしまったかしら……)


 黒い笑みを浮かべて笑うエルヴィスに、まあそれは彼が決めることだわ、と結論づける。

 そして、私もと言葉を述べた。


「マリエットさんに謝罪の言葉を述べられたわ。

 まあ、大半は私に言うセリフではないと突っぱねてしまったけれど」

「ミシェルのことだから、許したんだろう?」

「えぇ。 条件付きだけれど……、まあそれは、これからの彼女次第ってところね」

「ふふ、それなら僕がブライアンに課したのと同じだ」

「……あ、貴方は本当に彼に何を提示したの」

「いずれ分かるよ」


 エルヴィスはそう言って黒い笑みを浮かべたけれど、その笑みは以前よりずっとすっきりしているように見えて。

 私もそんな彼につられて笑みを溢すと、改まって口を開いた。


「エルヴィス殿下。 おめでとうございます」


 そう言って淑女の礼をすれば、エルヴィスは驚いたように、でもふっと笑みを浮かべて言った。


「ありがとう、ミシェル。

 ……だけど、即位は当分先になりそうだ」

「そうなのね」

「あぁ。 父上がベアトリスに任せてしまっていた分、今の財政を見直して元に戻すまでは頑張ると仰っていた。

 だから私は、父上が退位されるまでは父上の姿を見て国王となるための準備をする。

 ……そこで、ミシェルに提案がある」


 エルヴィスはそう言うと、私に向き直った。

 その真剣な眼差しにドキッと心臓が高鳴る。

 そんな私に、彼は目を逸らさずに言った。


「学園を卒業したら言おうと思っていた。

 ミシェル。 僕は、君とこの先の人生を共に歩みたい。 だから」


 エルヴィスは私の前で跪くと、すっと手を差し伸べた。

 そして、驚く私に向かって言った。


「僕と、結婚して下さい」

「……!」


 その飾らない真っ直ぐな言葉が、私の胸に届く。

 エルヴィスのアイスブルーの瞳が、窓から差し込む月明かりに照らされて輝く。

 その幻想的な光景と相まって、私はふわふわとした心地のまま口を開いた。


「……夢、みたい」

「え?」


 そうポツリと呟いたのと同時に、不意に涙が込み上げてきて。

 答えなければいけないのに、言葉にならなくて。

 慌てて涙を拭おうとした私の手を、パッと 彼の大きな手に取られる。

 驚き顔を上げた私の目の前には、光り輝いていた彼の瞳が間近にあって。

 息を呑む間もなく、彼が至近距離で口にした。


「その涙は、嬉し涙ってことで良いのかな?」

「……っ」


 そう静かに尋ねられ、それに対してコクッと頷けば。

 エルヴィスが息を吐いたと思えば、彼の唇がそっと涙を拭うように頬に触れる。

 そして、頬だけではなく、流れた涙を伝うように口付けが落とされ、最後に瞼に落ちた時、彼は悪戯っぽく笑って口を開いた。


「はい、これで涙は止まったね。

 今度はミシェルの答えが聞きたいな。

 ……聞かせて、ミシェル。

 君が僕を、どう思っているか」

「……っ、エルヴィス」


 彼の金色の髪が、風に揺られてさらりと私の頬を撫でる。

 それが少しくすぐったく感じながら、彼の望む答えを口にしようとしたその時、それを制するように唇が重ねられる。


「……え!?」


 そんな一瞬の口付けに驚く私に、エルヴィスは「あれ?」と口にした。


「ミシェル、君の答えは僕には教えてくれないの?」

「〜〜〜ぜ、絶対わざとだわ……!」

「え、何のこと?」


 エルヴィスは悪びれる素振りもなく、首を傾げてそう尋ねる。

 そして、甘く囁くように言った。


「ねえ、僕には教えてくれないの? 君の気持ち」

「……も、もう、き、キスはしないで聞いてね?」


 その言葉に、エルヴィスは笑顔で頷く。

 そして、私は再度息を吸うと、意を決して口を開いた。


「私も、貴方のことがす……〜〜〜!?」


 再度の口にしようとした告白も、口の中で溶ける。

 しかも今度は長い。

 そして、ようやく解放された時には息が切れ、彼はペロッと艶めかしく唇を舐めると爽やかな笑みを浮かべて言った。


「ミシェルが可愛くて、つい。

 ……ミシェル?」

「〜〜〜もうパーティーに戻ります!」

「え、ちょ、待ってミシェル!」


 踵を返し、彼の横をすり抜けようとした私の手を、彼が慌てたように掴む。

 その一瞬の隙をつき、掴まれた手をぐいっと引いた。


「!?」


 それによって近付いた彼の耳元で、囁くように言葉を紡ぐ。


「私も、貴方のことを愛しています」

「!? ミシェ……」


 彼が私の名を呼ぶ前に、今度は私から唇を重ねる。

 そして、そっと顔を離すと、笑みを浮かべて言った。


「こちらこそ、末長く宜しくお願い致します」


「〜〜〜僕の負けだ」

「ふふ」


 彼の顔が真っ赤に染まっているのを見て、私も悪戯っぽく笑ってみせたのだった。





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