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次期国王の誕生と…

 ベアトリス殿下が衛兵に連れられて行く後ろ姿を見ていた陛下は、ポツリと呟いた。


「……私は家族と、もっと話し合わなければならなかったのだな」

「……」


 エルヴィスはそれに対して何も言わなかった。

 代わりに、ブライアン殿下が口を開いた。


「母上はずっと、自分は独りぼっちだと嘆いていました。

 だから私は、そんな彼女の味方であろうとした。

 その結果がこの現状です」


 そう口にしたブライアン殿下に陛下は目を向ける。

 そんな陛下の瞳を真っ直ぐと見つめ、言葉を続けた。


「私達がしてきたことの数々が、許されないことであることは分かっています。

 それに対しての罪を償う覚悟ももう出来ています。

 ですがどうか、もう一度母上と向き合ってあげて下さい。

 私からのお願いです」


 そう言って、ブライアン殿下は陛下に頭を下げた。

 そして、エルヴィスと私の方に向き直ると言った。


「……母上が兄上にしてきたこと、そして、私がミシェル嬢にしたことの数々の非礼を詫びます。

 本当に申し訳ございませんでした」


 エルヴィスはそれを一瞥すると、私を見て言った。


「ミシェル、君はどうしたい?」


 その言葉にハッとする。


(私に、判断を委ねてくれているの?)


 私よりエルヴィスの方が、ずっと傷付いてきたはずなのに……。

 答えに迷っていると、エルヴィスは口を開いた。


「私は正直、謝罪だけで許せはしない。

 ……だけど、怒りに任せて判断を下すのは、この場には相応しくない対応だと思う。

 だから私は、君の意見を尊重したい」

「! 私、は……」


 エルヴィスの眼差しを受け、ギュッと彼の手を握ると、壇上にいるブライアン殿下を見据えた。

 少し考えた後、自分が出した答えを静かに告げた。


「……私は、貴方の謝罪を受け入れます」

「「「!」」」


 その言葉に、ブライアン殿下が言葉を返した。


「許して、くれるのか?」


 その言葉に静かに告げる。


「全てを許すつもりはございません。

 ……私のことはともかく、エルヴィス殿下を深く傷付けた。 その事実は紛れもない事実であり、決して許されざるものだと思います」

「……」


 ブライアン殿下は何も言わない。

 その表情を見て、「でも」と言葉を続ける。


「貴方が口にした謝罪の言葉は、どれも真摯な言葉であり、嘘ではないと私は受け止めました。

 ですから、その言葉とこれからの償いに免じて、私への無礼については不問と致します」

「っ、では……」

「しかし、その処遇については私への無礼に対するものに過ぎません。

 ベアトリス殿下とブライアン殿下、お二人が犯した罪については、法の下で正当な判決を下して頂き、その判決を持って償って下さい。

 ……エルヴィス殿下、それでよろしいでしょうか?」


 その言葉に、エルヴィスは一瞬柔らかく笑みを浮かべた後、また真剣な表情に戻りブライアン殿下に向かって告げた。


「私も、彼女の言葉に従おう。

 寛大な判断を下した彼女に感謝することだな」

「……はい」


 ブライアン殿下はそう言って、再度頭を下げた。

 そしてもう一度陛下に向き直ると、はっきりと口にした。


「陛下、私はこのように数多の罪を犯してしまいました。

 そんな私は先ほど申し上げた通り、次期国王陛下の座には相応しくありません。

 ですので、私の方から王位継承権を、この場で辞退させて頂きたく思います」

「……それで良いのだな?」

「はい」


 ブライアン殿下は、陛下の瞳を真っ直ぐと見て頷いた。

 その言葉に、陛下は「分かった」と静かに告げると、ホールにいる人々に向かって告げた。


「この事件について、それから側妃ベアトリスと第二王子ブライアンの処遇については、後日改めて詳細を調べた上、裁判にて判決を下す。

 そして、当初の予定通り今日これを持って、新たな国王となる王を発表する」


 その言葉に、陛下は壇上に降りていたエルヴィスに壇上へ上がるよう促す。

 私はそっと繋いだ手を離すと、エルヴィスが私を見て小さく「行ってくる」と告げた。

 そして、彼が壇上へ上がったのを確認し、陛下は高らかに告げる。


「王位継承権のある第二王子ブライアンが、継承権を放棄したことを先程この場にて受け入れた。

 よって、次期国王となる人物は、第一王子エルヴィスとする!

 異論のある者はいるか」


 その言葉に、会場はシンと静まり返った。

 その代わり、口を開いたのは後ろにいたエマ様だった。


「私、エマ・ヴィトリーは、ヴィトリー王国を代表して、第一王子エルヴィス・キャンベル殿下が次期国王の座につくことに、賛同致します」


 ヴィトリー王国の第一王女であらせられるエマ様の言葉に、瞬く間にその場にいた貴族から賛同の声が上がっていく。

 そして、誰からともなく沸き起こる拍手を聞き、陛下は高らかに告げる。


「エルヴィス・キャンベルを次期国王とすることを、ここに宣言する……!」


 その言葉に、わっと割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 エルヴィスは、その歓声に手を挙げて答えた後、私を見た。

 柔らかな笑みを浮かべ頷く彼を見て、私は涙を零れ落ちる涙をそのままに彼に……、新たな次期国王陛下となる彼に、拍手を送ったのだった。






 熱気冷めやらぬ会場で、温かい友人達に囲まれていた私は、会場から静かに出て行くブライアン殿下と、その後を追うように出て行こうとするエルヴィス殿下の姿が視界に映る。


「少し失礼致しますわ」


 淑女の礼を取ると、私も二人を追って会場を出た。


(何処へ行ったのだろう)


 そんな二人の姿を探している内に、不意に女性とぶつかる。


「っ、ごめんなさい」


 慌ててぶつかってしまった女性に謝り、ハッとした。


「マリエットさん」


 そうブライアン殿下の婚約者である彼女の名を呼べば、彼女もまた驚いたようにしつつ、私を見て黙り込んでしまった。

 その姿を見て、私から彼女に向かって尋ねる。


「……貴女は、これからどうするの?」

「!」


 彼女はそんな私の問いかけにハッとしたような顔をし、そして微かに震えたような声で口を開いた。


「私は……、まずは貴女に……、いえ、ミシェル様にお許しを願いたいと思います」


 申し訳ございませんでした……!

 そう言って頭を下げる彼女の姿に、思わず目を瞠る。

 そして、頭を下げたまま言葉を続けた。


「私は、貴女が羨ましかったのです」

「私が?」

「はい。 私は、ブライアン殿下に一目惚れ、してしまったのです。

 ……ですが、彼にはずっと貴女様がいることは知っていたので、諦めようとしました。

 っ、けれど、私は、恋心を捨て切ることは出来なかった」

「……」

「今だって私、こんなことになっても彼を……、彼がもし私を利用していただけだとしても、私自身が彼のことを諦めることが出来ないのです!」


 そう言って顔を上げた彼女の瞳からは涙がこぼれ落ちていて。


「どの口でそんなことを言えるのかと思われるかもしれません。

 っ、けれど、私はあの方とこの先も共にいたいのです!

 私の罪だけではなく、彼の罪も一緒に背負っていきたいのです……。

 私に出来ることなら何でもします。

 ですからどうか、これからも彼の側にいることを、お許し願えないでしょうか……!」


 お願いします、と彼女は頭を下げた。

 嗚咽を漏らしたまま泣き続ける彼女の姿を見て、私はすっと息を吸うと口を開いた。


「お顔をお上げになって、マリエットさん」

「っ、はい……!?」


 彼女は私を見て驚き顔をあげた。

 それは、私が泣き続ける彼女に向かってハンカチを差し出したから。

 そのハンカチを差し出しながら、私は言葉を紡いだ。


「貴女の謝罪の言葉は、受け取ります。

 ですが、貴女がブライアン殿下と共にすることを決めるのは、私ではなく彼です。

 ……その言葉は彼に直接言いなさい」

「っ、では……」


 私は彼女の手を取ると、その手にハンカチを手渡した。

 そして、微笑みを浮かべ口を開いた。


「貴女のこれからの行動次第で、私は貴女を許しましょう。

 ……それから言っておくけれど、私は貴女にブライアン殿下のことを謝られるほど落ちぶれてはいないわ」

「え?」


 マリエットさんの驚いたような表情に向かって口を開く。


「私はね、未練たらしい女ではないの。

 そもそも、私はあの方のことを好きだと思ったことはなかったのだと、エルヴィス殿下にお会いしてから気が付いたの。

 ……だから、何が言いたいかと言うと、ブライアン殿下のことをそこまで想い続けている貴女の方がずっと、ブライアン殿下の隣にいるべきなんだと思うわ」

「! ミシェル様……」

「そこまで貴女が言うのなら、ブライアン殿下にもし拒否されたとしても、その恋心を貫き通しなさい。

 ……でないと、私は貴女の罪を心から許すことはないと思って」


 分かったかしら?

 そう口にすれば、マリエットさんは涙を拭きながら頷いた。


「ミシェル?」


 その声に顔を上げれば、エルヴィスの姿があって。

 私とマリエットさんを見て何かを察したように、マリエットさんに向かって言った。


「……ブライアンなら、城へ戻ると言っていた」

「マリエットさん、泣いている暇はないわよ。

 早く行きなさい」

「……ミシェル様、エルヴィス殿下。

 ありがとうございます」


 マリエットさんは淑女の礼を取ると、玄関ホールの方へ向かって行くのだった。


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