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二度目の謁見

「国王陛下、お忙しい中お時間を作って頂きありがとうございます」

「いや、こちらこそ、遠い中何度も足を運ばせてしまってすまない。

 紅茶を淹れたから、冷めない内に飲むと良い」

「ありがとうございます」


 陛下の御配慮に感謝してありがたく頂くと、知らず知らずのうちに冷えていた体が芯から温まるのを感じる。

 一口飲み、カップをそっと皿の上に置けば、陛下が口を開いた。


「今日一人で君が来たということは、今城で起きている件のことについてだろう?」

「はい、陛下」


 真っ直ぐと陛下を見て肯定すれば、陛下はふと目を伏せて口を開いた。


「民に混乱を与えないよう、城の外には口外しないように伝えてあるが……、何処から漏れ出てもおかしくはあるまい。

 君が何処でそれを知ったかは不問とするとして、エルヴィスは今どんな状況に置かれているのかも知っているのか?」

「……はい、陛下。 

 エルヴィス殿下は、毒を盛ったという疑惑を受け、軟禁状態にあります。

 私は彼が、そんなことをする方だとは思いません」

「私も彼がやったとは思っていない」

「!」


 陛下のその言葉に驚き、顔を上げる。

 陛下は厳しい表情で「だが」と言葉を続けた。


「厳しいことを言うようだが、エルヴィスの部屋からは物的証拠が上がっている。

 その証拠の出所が分からない限り、エルヴィスの無罪を主張するのは難しいだろう」

「っ……」

「勿論、王立騎士団が総力を上げて事の解明に当たっているが……、まだ毒物のルートは見つかっていないのが現状だ」


 その言葉に、絶望感に陥る。


(やはり、まだ証拠が見つかっていないんだわ……)


「何としてでも卒業パーティーまでには確固たる証拠を見つけたいのだが、どうなるかは私にも分からない」


 陛下は嘘をついていない。

 それは分かるが、私は今日、あることをお願いしたくてここへ来た。

 それは。


「……陛下、無理なお願いだと承知の上で、お願いしたいことがございます」


 切り出した言葉に対し、陛下は頷いて先を促した。

 私はすっと息を吸うと、陛下の目をじっと見て言った。


「陛下に仕えていらっしゃる私兵団の方にも、毒物のルートの調査をお願い出来ませんでしょうか」

「私の私兵団?」


 その言葉に、慎重に頷きを返す。


(国王陛下には、王立騎士団の他に私兵団と呼ばれる直属の兵士の集まりがある)


 私兵団に配属されるのは、王立騎士団の中でも秀でた優秀な方々のみ。

 そして、私兵団は極めて国王陛下に対する忠誠心が強い。

 国王陛下の護衛騎士を務めるのも、この国では私兵団の方々が行なっている。

 何と言っても、国王陛下に対する忠誠心が強いということは、ベアトリス殿下に肩入れをする人物がいないということを意味する、そう考えたのだ。


「私兵団は、国王陛下の御命令でなければ動けないとお聞きしました。

 そのために、今日こうして訪ねて参りました」

「私兵団……」


 陛下はそう呟き、顎に手を当てた。

 無理もない、私兵団は本来国王陛下の側を離れない組織であるのだから。

 だけど。


「私はやはり、エルヴィス殿下が毒物を所持していたとも、ベアトリス殿下に毒を盛ったとも思えないのです」

「……つまりそれは、彼は何者かの罠に嵌められている、と?」


 私はその言葉に静かに頷いた。


(本当は、ベアトリス殿下が仕組んだかもしれないということも言いたい。

 けれど、エルヴィスはそれを望まない。

 だったら、遠回しにでもエルヴィスに濡れ衣を着せようとしている人物や協力者がいることを伝えなければ)


 そう考えながら言葉を続ける。


「エルヴィス殿下は、誰よりも真っ直ぐな方です。

 そんな彼が今あらぬ罪を着せられ、苦しんでいるのです。

 彼は、自分が危険な立場にいるからと私を突き放そうともしました。

 そんな彼の、力になりたいのです」


 そう言って私は、陛下に向かって頭を下げた。


「お願い致します。 どうか、彼の無実を証明する機会を与えて下さい。

 私には、これ以上のことは何もしてあげられないのです」


 それがどんなに歯痒くて悔しいか。

 泣いても喚いても、私にはただ祈ることしか出来ない。

 彼が無実であることを証明することが出来る近道は、この方法しか浮かばなかった。


(誰かに頼ることしか……、それも、陛下の私兵団に頼るなんて本来はあってはいけないけれど)


 でも、私にも譲れないものがある。

 彼の婚約者であり、彼を愛する者として。

 彼を助けたい。

 助けなければ。


「っ、彼をどうか救ってあげて下さい。

 お願い致します……!」


 視界がぼやけ、手の甲にポタ、と涙が零れ落ちた。

 ギュッと拳を握り、祈るような思いで頭を下げていれば。


「ミシェル嬢、顔をお上げなさい」

「!」


 ハッと顔を上げれば、昔から変わらず優しい瞳をした陛下が口を開いた。


「本当に私は、君があの子の……、エルヴィスの婚約者になってくれて、嬉しく思う」

「え……」


 陛下は私に向かってそれ以上は何も言わずに笑みを浮かべると、近くに控えていたマリクさんに告げた。


「マリク、これから私兵団に指示を出す。

 私の元に集まるよう伝えてくれ」

「畏まりました」


 そう言って、マリクさんは部屋から速やかに退出する。

 私はマリクさんの後ろ姿を目で追い、そして陛下を驚き見た。

 陛下は私に向かって言った。


「君のその言葉を聞き届けた。

 これから君の目の前で、指示を出そう」

「そ、それって、つまり……」

「王立騎士団とは別に、毒物のルートの調査を開始させる」

「……!」


 私はその言葉に、思わず立ち上がった。

 それに驚いた陛下が目を瞬かせたのを見て、その場で頭を下げた。


「ありがとうございます、陛下……!」


 そう口にすれば、陛下は首を横に振って言った。


「こちらこそ、息子を信じてくれてありがとう。

 これからも、エルヴィスのことを宜しく頼む」

「っ、はい!」


 陛下から差し出された手を握り返したのだった。


作者からのお知らせです。

この度、作者初の書籍化、

『その政略結婚、謹んでお受け致します。〜二度目の人生では絶対に〜』

の発売が、9/2、講談社Kラノベブックスf様より発売されることが決定致しました!

Twitterや活動報告にて、素敵な書影も公開させて頂いているので、お手隙の際に見て頂けたら幸いです。

皆様の応援のお陰です、本当にありがとうございます!

引き続き、応援宜しくお願い致します!

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