協力者
侯爵令嬢奮闘編、開始致します!
「……そう。 あのブライアンがそんなことを」
「はい」
次の日。
私の邸に泊まったエマ様と、昨日私の身に起きたことを話した。
ちなみに、そのことは昨日エルヴィスと予めどこまで話して良いかを相談してから決めた。
(エルヴィスから預かった鍵の件以外は、エマ様やニールと情報を共有して協力を仰ぐよう言われたから、きちんと説明しなくては)
そう思い、昨日城の中で起きた出来事……、バレそうになったところをブライアン殿下に助けられたこと、それから、ベアトリス殿下自ら毒を飲み、意識不明であることも伝れば、エマ様は腕を組み言った。
「なるほどね。
そうしてエルヴィスに罪を着せようとしたというわけね。
まさか、自ら服毒するとは思わないもの、それを聞いてゾッとしたわ」
「私も驚きました」
「問題は、その毒について手がかりが見つかるかどうかね……。
見つからなければ、今までエルヴィスが準備してきていた彼らの悪行の証拠の数々は全て無意味なことになるわ。
罪人の言うことに聞く耳を持つ者はいないもの」
「エルヴィスもそう言っていました。
そちらについては、エルヴィスが執事さんに頼んでいるそうです」
「彼の執事は優秀だから、任せて正解だと思うわ。
毒の件に関しては、聞く限り私達の手に負えるようなものではないもの」
「そう、ですよね……」
私も何か力になれないかと思案したが、エマ様の言う通り私達の手に負えるものではない。
そのため、その件については王家や執事さんに任せ、その証拠が見つかることを祈って今の自分に出来ることをするしかないのが現状だ。
「ただ一つ心配なのは、王家が果たして公平に調査をするかということなのよね」
「……それは、ベアトリス殿下側に協力者がいる可能性がある、ということですか?」
「えぇ」
エマ様が心配していることは私も考えていた。
今の城の中の実権はベアトリス殿下が握っている。 そのため、ベアトリス殿下に忠誠を誓っている者が多い。
もし、ベアトリス殿下が服毒する前に何らしからの手を打ち、城にいる調査兵に根回しをしていたとしたら、証拠が見つかるどころか隠滅される可能性があり、結果エルヴィスが犯人でということにされかねないのだ。
「実際、エルヴィスの部屋に毒があった、なんていうのも加担している者がいなければでっち上げられないわよね?
まさか、ベアトリス殿下自らエルヴィスの部屋に毒を置きに行ったとは考えにくいもの」
「確かに……」
私達はそう言って黙ってしまった。
(もし本当にそうだとしたら、何もかも全てが水の泡だわ。
エルヴィスの無罪を主張するのが最優先だもの。
他に、誰かエルヴィスの無罪を主張してくれるような協力者がいてくれれば……)
「……あっ」
「どうしたの、ミシェル?」
エマ様の言葉に、ハッと顔を上げて口を開いた。
「エマ様、一人だけ心当たりがあります。
エルヴィスの味方……、いえ、エルヴィスのことも公平に見て下さる方が!」
それから三日後。
私は、足場の悪い雪道の中を馬車で移動していた。
長時間の道のりではあるけれど、休むことなく、御者に真っ直ぐ目的地に向かうようお願いし、私は馬車の中で窓の外を見つめていた。
(これが、今の私に出来る最善の選択だと思っている。
エルヴィスが動けない今、動けるのは私しかいないのだから、彼が考えて行動しそうなことは代わりにやらなければ)
果たしてこれが上手くいくかどうかは分からない。
けれど、やってみる価値はある。
少なくとも邸でじっとしているよりはずっと。
「ミシェル様、間もなく着きますのでご準備を」
「ありがとう」
御者に声をかけられ、気合いを入れるために軽く両頬を叩く。
(大丈夫、もし断られたとしても何かしらのプラスには働くはず。
エルヴィスには頼まれていない私の独断だけれど、エマ様も賛同して下さった。
後は私が、この現状をどう説明するかにかかってる)
馬車が止まり、降りて見上げた先には高い石の壁が聳え立っていた。
この前とは違い、門の前で下ろしてもらうとそこに居たのは。
「お待ちしておりました、ミシェル様」
笑みを浮かべてそう口にしてくれる人物に対し、私も言葉を返す。
「こちらこそ。
今日はお時間を作って頂きありがとうございます、マリクさん」
私が訪れた場所。
そこは、エルヴィスと半月前に訪れた王家の別邸だった。
そして、目的は。
「国王陛下がお待ちですので、お部屋までご案内致します」
「宜しくお願い致します」
マリクさんの言葉にそう返し、別邸の門を潜り抜ける。
そう、今日此処を訪れたのは、国王陛下に謁見してエルヴィスが置かれている現状等をお話し、直接協力を求めるため。
エルヴィスとブライアン殿下を中立に見ている国王陛下なら、真実を突き止めてくれると考えたからだ。
(既に毒の件については調査しているかもしれないけれど、ベアトリス殿下の伏兵が混じっている可能性があることを伝えれば、何か変わるかもしれない)
そう考えてのことだった。
とにかく、直接お会いしてお話がしたいと三日前に願いの手紙を出すと、快諾して下さったのだ。
(エルヴィスは以前、告げ口をするような真似はしたくないと言っていた。
けれど、この件については話は別。
もしここで協力を得られなければ、エルヴィスが助からないかもしれないんだもの)
気持ちを落ち着かせるために深呼吸をすれば、冬の冷たい空気が身体の中に行き渡り、それによって幾分か頭が冴えるのを感じ、ギュッと拳を握る。
そして、見据えた視線の先には、王家の別邸である邸が広がっていたのだった。




