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生徒会、始動

「それでは」


 私の呼びかけにより、集まってもらった面々……、白制服を身に纏った生徒会メンバー……を見渡し、口を開いた。


「これより、一学期生徒会委員会を開始致します」



 翌日の放課後。

 私は生徒会メンバーに集まるよう呼び掛け、此処、生徒会室へ集まってもらった。

 生徒会のメンバーは全部で私を含めた六名で活動している。 会長、副会長、書記二名、会計二名。


 会長は私、そして、私と同じクラスのレティー、レイモンドが書記、会計それぞれに所属している。

 問題は……、残りの三名。

 その三人は、元私と同じ、ブライアン殿下派のクラスなのである。 書記と会計の二人は一学年下なのだが、特に副会長である彼は要注意しなければいけないと私は思っている。


 副会長、ニール・クレヴァリー。

 黒髪紺眼の彼は、クレヴァリー辺境伯家三男である、冷静沈着な男性。

 必要最低限の会話しか、生徒会長の私でさえもあまり話さない。

 ブライアン殿下派に辺境伯家の彼が居るということは、私とは敵対するということになる。


(しかも彼は、周りの皆から一目置かれている存在。 辺境伯という身分も持ち合わせているから、私にとってはブライアン殿下の次に気を付けなければいけない存在、といっても過言ではない)


 もしかしたら、ブライアン殿下のスパイ、という可能性があるかも。

 揚げ足を取られないよう、用心しないと。

 ……そう思う私とは裏腹に、何故此処に貴方が居るのかしら?


「……エルヴィス殿下」


 私の呼びかけに、此処に居るはずのない生徒会役員ではない筈の彼……は、アイスブルーの瞳を細め、机の上で腕を組むと口を開いた。


「あぁ、私のことは構わなくて良いから、話を続けて」

「構わないわけがないでしょう!?

 如何して貴方が此処に居るのかしら?」

「どうしてって、婚約者である君が働いている姿を見たいから?」

「……っ」


 思わず、私は皆が気付かれない程度に淑女の仮面を被りつつ、たじろいでしまう。

 そんな些細な変化でも彼は見過ごさない、という風にニヤッと笑みを浮かべたのは……、気の所為ではないだろう。

 彼がその気なら、仕方ない。


「分かりました。

 なら、殿下は雑用係として存分に働いて頂きます」

「え、それは聞いてな」

「はい、それでは再来週のイベントについてのお話をしたいと思います」


 彼の言葉をどスルーして、私は再来週行われる、4月恒例行事・新入生歓迎パーティーという名の夜会について、話し合いを始めたのだった。





「……よし、これで終わりだわ」


 私はそう言って息を吐き、時計を見上げれば……、時刻は17時を回っていた。


(15時から話し合いを始めて16時に他の役員を帰宅させて、纏めるまでにかかったのがこの時間。

 ……まだまだやることは山積みね)


 私はそんなことを考えながらチラッと見れば……、私と目が合い、微笑む彼の姿があって。


「……帰って良いと言ったのに」


 私がそう口にすれば、彼……エルヴィス殿下は私が作り終えた、学園長に渡す企画書に目を通しながら口を開いた。


「婚約者である君をこんな時間まで一人置いて帰るなんて、僕には考えられない」

「! ……そんなの、ブライアン殿下なら普通だったわ」

「あんな馬鹿と一緒にしないで欲しいな」


 彼はそう嫌そうに言い、資料から目を離さずに言葉を続けた。


「それより君は、行事の度にいつもこんな遅くまで残っているの?」

「えぇ、それが生徒会の仕事だもの」

「他の役員はとっくに帰っているじゃないか。

 生徒会長はここまでしなくてはいけないのか?」


 彼の質問に対し、私は少し考えてから口を開いた。


「……仕事だもの。 仕方がないのではないかしら」


 私の言葉に、彼は何も言わず、黙って資料を置くと……、私の頭にポンと手を置いて言った。


「お疲れ様。 帰りは僕が送るよ。

 君のことだから、帰りは歩いて帰るとか言い出すんだろう?」

「っ、な、何故知っているの……?」


 図星を突かれて息を呑めば、彼は「さあ、何故でしょう」と口にしてから言った。


「この資料……、僕が学園長に持っていっても良いかな?

 彼女と少し話して来たい」

「え……。 で、でも私が行かなければ……っ」


 彼は私の唇に人差し指で触れると、「君の仕事を横取りするつもりではないから安心して」と笑って言った。


「まだ此処の戸締りや後片付けもあるだろう?

 君はそれが終わってから、門の前で待っていてくれないか。

 絶対に一人で帰ってはいけないよ?」


 彼の言葉に私が室内を見回せば……、確かに、過去の資料やらなんやらで、室内が散らかってしまっている。

 私は少し迷ったものの、彼の言葉に甘えることにした。


「……学園長にも、宜しくお伝えしておいて」

「あぁ、分かった」


 彼はそう言って笑うと、部屋を後にする。


(学園長とお話って……、何かしら)


 私はそう疑問に思ったが……、あまり深く首を突っ込んではいけないと頭を振り、過去の資料やプリントを整理し始めたのだった。




 ミシェルが散らかってしまった室内を片付け終え、生徒会室の戸締りをしている頃……


「はい、これがミシェル嬢から預かった、新入生歓迎パーティーの企画書です」


 それをエルヴィスが渡せば、学園長は目を通し始める。

 その光景を見ていた彼は口を開いた。


「……生徒会長である彼女一人が、皆がとっくに帰っているこんな時間帯まで、たかが行事の為だけに責務を押し付けるのはどうかと思うのですが。

 ミシェル嬢は聡明な女性。 仕事の効率が良いとはいえ、こんな時間までかかるのはおかしいと思います。 明らかに仕事量が多いと、そうは思いませんか?」

「……私も、それは思っていることです。

 ですが、理事長の意向、それから私自身も仕事があるので、彼女には悪いですが」

「っ、そうやって王家の人間が適当だから、何の害もない人々にとばっちりが来ることを知っているのか!?」


 そう言った彼は学園長の前の机をバンッと叩く。

 驚いた学園長の表情に、彼はハッとし……「すまない」と小さく謝り言葉を続けた。


「貴女は悪くない。 寧ろ……、貴女もこの現状をどうにかしようとしてくれている立場の人間なのに」

「……いえ、貴方の言っていることは尤もです。

 私達はこの学園のあり方を……、ひいてはこの王国内を、もっと見直していかなければなりません。

 それに気付いているのは一体、この学園の中に何人いるのでしょうね」


 そう息を吐く学園長の言葉に、彼は……、グッと拳を握る。

 それを見た彼女が口を開いた。


「……やはり、ミシェル様にも、お伝えするべきではありませんか?

 彼女は被害者であり、貴方様の婚約者なのですから」

「っ、彼女はまだ、正式な婚約者ではない。

 それに、あいつの被害者であるからこそ……、これ以上、彼女を傷付けたくはないんだ」


 彼はそう言って……、アイスブルーの瞳を揺るぎなく真っ直ぐと、彼女に向けて言った。


「とにかく、彼女に危険が及ぶものは全て排除し、一掃する。

 例え……、王家中を敵に回そうと」

「……分かりました。

 では、また何か動きがありましたら、貴方様にお伝えしますね」

「あぁ、そうしてくれると助かる」


 そう言って彼は……、お辞儀をして学園長室を後にしたのだった。





 彼が学園長室を後にした頃。


「……エルヴィス殿下、遅いわね」


 まだお話しているのかしら……、そんなことを考えている私の耳に、カツンカツンと複数の足音が聞こえてきた。


(あら? こんな時間にまだ生徒がいるの?

 おかしいわ。 もうとっくに下校時間を過ぎているのに……)


 誰だろうかとその方向に目を向けた、その時。


「っ」


 私はは思わず、持っていた鞄を床に落としてしまう。

 ……私の瞳が映し出したのは。


「……ミシェル・リヴィングストン」



 そう私の名を呼ぶ、厳しい表情をしたブライアンと……、卒業パーティーとは違い白制服に身を包んだ、茶色のふわりとした髪を持つ、少女の姿だった。



 

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