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決行

最初はエマ視点、途中からミシェル視点に変わります。

(エマ視点)


 暗闇の中、馬車はゆっくりと走り、やがて大きな城門の前で止まった。


「こんな時間に何の用だ……、っ、いや、貴女は」

「ごきげんよう、門衛の皆さん」


 門衛の苛立ちも、私の姿を見て慌てたように引っ込んでしまう。

 口の悪いこと、後でエルヴィスに告げ口しておこうかしら、なんて考えながら、優雅に見えるように口元に扇子を寄せて言った。


「エルヴィス殿下のクラスメイトのエマ・ヴィトリーです。

 学園へ行ってから参りましたら、こんな時間になってしまいましたの。

 ご無礼をお許し下さいね」

「はっ、こちらこそ、失礼致しました。

 今日はどのような御用件でいらっしゃったのですか?」


(やはり、ニールに聞いていたより門衛の数が多いわね……。

 とりあえず作戦の通りに、自然に見えるように振る舞いましょう)


 扇子で口元を隠したまま、門衛のその問いに答える。


「私、残りの学園生活を最後まで謳歌するために毎日訪れているのですけれど、最近エルヴィス殿下のお姿を拝見することがなくて心配していたのです。

 それで先生にお尋ねしたところ、御病気にかかられたと伺って驚いてしまって。

 ですから、一目お見舞いだけでもと思い、こうして参った次第ですの。

 今、エルヴィス殿下はどちらに?」


 その言葉に、門衛は分かりやすくざわつく。


(まあ、そう尋ねたところで素直に教えてくれないでしょうけれど)


 私の予想通り、門衛は言葉を濁して答えた。


「エルヴィス殿下は、お風邪を召されており面会謝絶とのことです。

 場所も私共は存じ上げておりません」

「……そう」


(この言葉は嘘じゃないわね。

 何か有力な情報が欲しかったところだけれど……、まあ、ミシェルなら大丈夫でしょう)


 チラリと後ろを見やってから、門衛に向かって次の言葉を口にする。


「面会謝絶なら今日会うことは断念致しますわ。

 だけど、あまりにも長くお休みするものだから、心配してお見舞いを色々と持ってきてしまったの」

「お見舞い、ですか」

「えぇ。 この後ろの荷物、全てそうなのだけど」

「す、全てですか!?」

「えぇ」


 馬車の後ろの荷台には、お見舞いと称して所狭しと沢山の荷物が乗っている。 その量は一目瞭然、とてもじゃないけれど此処から城まで運べる量ではない。

 そう、これも作戦の内なのよね。

 驚く門衛達に更に追い討ちをかけるように、私はため息交じりに答える。


「お父様にチラッとお見舞いに行く話をしたら、いつもお世話になっているからと言って、全て送って来られたの。

 公としてではなく、私個人の贈り物としてね。

 これを送り返すとなると、お父様も驚かれてしまうと思うのよね……」


 お父様、という単語に分かりやすく門衛達に動揺が走る。

 私のお父様は言わずもがな、ヴィトリーの国王陛下だから、まあそうなるわよね。

 私はどうしようかな、と心配する素振りをしていたら、門衛達が頷き口を開いた。


「お、お見舞いのお品を下ろしてお預かりするだけでしたら、門の中へお通ししましょう。

 それでもよろしいですか?」

「まあ! そうして頂けたら嬉しいわ! ありがとう」


 パチンと扇子を閉じてにこやかな笑みを浮かべれば、門衛達も緊張を解いて門の中へ通してくれる。

 私は人知れず、息を吐き心の中で安堵した。

 馬車がゆっくりと走り出し、門をくぐり抜ける。

 その門が閉じられてから少しして、私は窓を3回大きな音でノックした。

 すると、その窓の視界の隅で、黒い人影が動くのが映る。


(私が出来るのはここまで。

 後は一人で頑張るのよ、ミシェル)


 私に出来ることはやった。

 後は、ニールが考えた通りの作戦であの子が成功することを祈るだけ。


(大丈夫、ミシェルならきっと。

 あのエルヴィスが選んだ子だもの)


 二人のそれぞれの弱点をお互いに助け合って、気付かない内に埋め合っている、そんな二人なら。


「出来ないことも出来るのではないかって。 そんな気がするのよね」


 不思議ね、と一人笑ってしまう。

 そういう私自身もあの子の影響で変わったのかもしれない。

 以前の私は、自分の利益になることにしか動かなかった。

 楽しいと思う方向に動くことしか。

 だけど、今回はニールとも手を組んであの子の手助けをしている。

 もしこんな計画がバレたら、私も罪に問われるというのに。


(リスクを冒してでもあの子の……、友達の助けになりたいと思ったのは、初めてだわ)


「……本当に、不思議な子ね」


 そう締めくくって、そっと瞼を閉じたのだった。





(ミシェル視点)


「っ、はぁ、はぁ……」


 息が苦しい。

 寒さが肌にしみる。

 それでも。


(足を止めてはいけない。

 私は今日、絶対にエルヴィスの元へ行くのだから……!)



 今私は、日が落ちてすっかり暗くなってしまった城の庭を、ただ只管走っている。

 時折見かける衛兵の姿にヒヤヒヤしながらも、気付かれないように身を隠しながら、私は作戦通りにある場所に向かって走っていた。


(エマ様のお力添えもあってここまで来れたんだもの、何としてでも成功させなくては)


 作戦とは、ニールが考えてくれた作戦のことだ。

 まず最初は、第一関門である城門を潜るため、門衛の目を盗んで侵入する作戦。

 城に入れないと元も子もないということで、確実に入れそうな作戦を、と考えた時に、エマ様が名乗り出て下さった。


『私が周囲の目を惹きつけるから、ミシェルがその隙に走れば良いんじゃない?』


 その一言で、エマ様がお見舞いと称して沢山の荷物を馬車に積んで、その荷台の中に私が乗り込み、無事に城の門を潜り抜けて大丈夫そうなところを見計らってエマ様が合図を出す。 その合図の後、私が荷台からこっそり抜け出して走り出す、という作戦を編み出した。

 その作戦は成功し、合図を聞いた私が暗闇に乗じて走っているところなのだ。


(そして、私が今目指している目的地は)


 中央に聳え立つ城の端、以前夏休みに訪れた建物が見えてくる。

 そこは、エルヴィスが慕っている方々がいる、エルヴィスが居住場所としている別棟があった。


 もしそこにエルヴィスのお付きの執事さんがいらっしゃれば、エルヴィスの今いる場所が分かるのではないかと踏んでの作戦だ。


(それに別棟には、ベアトリス殿下が近付くことはあまりないと言っていたから、例えベアトリス殿下の息がかかった方々がいたとしても、無事に逃げ切れれば大丈夫)


 リスクは大きい。

 だからこそ、失敗してはいけない。


(エルヴィスの顔を見られれば、それで良い。

 無事なことを確認することが出来れば、今回の作戦は成功なの)


 そう考えている間に、別棟の前に辿り着きそうなところで足音が耳に届いた。

 慌てて近くにあった木の影に隠れ、足音が通り過ぎるのを待つ。

 ギュッと無意識のうちに、指輪を包み込むように左手を握りしめる。


(っ、エルヴィス、待っていて。

 もう少しで、貴方の元へ行くから……!)


 見回りをしているのであろう衛兵の足音が遠ざかる。

 その音を聞き、今度こそ迷わず、別棟へと向かって駆け出したのだった。




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