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アルセラの意志

挿絵(By みてみん)


 私とアルセラが中心となり、ワルアイユ領主邸からの〝脱出〟は速やかに行われた。

 執事のオルデアさんや旧知の仲のダルムさん、先日の治療で顔が知られているパックさんが、館の周りに集まっていた領民たちに助けを求めることで、段取りはすぐに決まった。

 ダルムさんと領民の一人が先行して村長のところへと向かう。そして残ってくれた人々がアルセラさんたちの旅支度や、バルワラ候のご遺体の処置などを手伝ってくれた。

 私たちが領主邸に駆けつけてから午前半ば頃になる頃にはすべての支度は整っていた。


 膝下丈のキュロットスカートに腰の丈のクロップドトップス、その上にフィシューと呼ばれる大柄なサイズの三角形のストールを重ねていた。足元にはハーフブーツを履き、手にはフェンデリオルでは護身用武器として馴染みのある戦杖が杖代わりに握られていた。

 ただし彼女が握る戦杖は武器というよりステッキとしての意味合いが強く、素材は硬い木材である黒檀で打頭部が小さめに作られており握りも太くはない。私が腰に下げている物とは全く異なっていた。

 その胸に光るのはワルアイユ家に代々伝承されていた家宝にして精術武具のペンダント

 

――『三重円環の銀蛍』――


 これにわずかばかりの私物や旅用の携行品を詰めて肩掛けを下げれば準備は終わる。


「では参りましょう」


 そう宣言しながらアルセラが歩き出せば皆がついていく。

 私もドルスさんたちを引き連れながらメルト村へと向かっていったのである。

 

 

 †     †     †

 

 

 程なくしてメルト村へとたどり着く。

 先回りしたダルムさんが説明をしてくれていたのだろう、バルワラ候の娘であり次期領主としての資格を持つアルセラ嬢を村長や村の役員たちが待ってくれていた。

 村の市街地の入口となる崩れかけの石門の前に数人が立っている。その中で一番に恰幅が良い男性が村長のメルゼムである。


「お嬢様!」


 ツバ無し帽をかぶった村長が声をかけてくる。落ち着いた佇まいだったが、そこにはまだ幼さの残るアルセラを案ずる心持ちが見え隠れしている。

 

「ご無事で何よりです」


 そう語りながら進み出てくる。それに呼応するようにアルセラも村長へと駆け寄る。

 

「ご心配をおかけいたしました」


 アルセラが詫びるように言う。そして彼女は自分自身の意思を持って告げる。

 

「今後のことについてご相談をさせていただきたくこちらにお伺いいたしました」

「それはありがたい。我々もこれからのことを前向きに話し合いたいと思っておりました」


 メルゼム村長が今回の件で一番に不安に思っていたのは間違いなくそれだ。バルワラ候ですら対処しあぐねていたのだから、これからどうするかを思案するうえで重要だったのが後継者たるアルセラの存在だったのは誰の目にも明らかだったのだ。

 それがアルセラ自身の意志で行動を起こしたのだ。村長としては、たとえアルセラが未熟だったとしても心強かったに違いないのいだから。

 そのメルゼム村長が告げる。


「それとお嬢様方が生活の拠点を村へとお移しになられるとギダルムさんからお聞きしております。ささやかですが腰を落ち着ける場所をご用意させていただきました。村の者たちで出来ることなら何なりとお申し出ください」

「ありがとうございます。ご厄介になります」

「それでは皆様、こちらへ――」


 そう語りつつアルセラとそれに従う使用人たちを村の中へと招いていく。

 そして、彼らの人の群れの中に私達が居ることに村長は気づいた。そして当然のように彼は尋ねてきた。

 

「あなた方は?」


 当然の疑問だった。だが、私たちが説明するよりも早くアルセラが弁明していた。

 

「それについては後ほど説明させていただきます」


 力強く、凛とした声でアルセラは語った。

 

「昼げの休息の後に村の重要な方たちを村役場へと集めてください。今後のことについて話し合いたいと思います」


 毅然とした態度で堂々と指示を下すアルセラの姿はもうすでに領主としての威厳を放ち始めていた。

 父の遺志を受け継ぐ。

 ワルアイユの郷を守る。

 そう覚悟を決めたアルセラの思いが全身から溢れているかのように。

 そう――、アルセラはもう領主なのだ。

 

「かしこまりました。そのように――」


 アルセラの言葉を受けて側近たちへと村長は指示を下す。村役人、青年団、長老格――様々な役回りの人達へと伝言をするために。速やかに行動が始まり、メルゼム村長は私たちを先導し始めた。

 そんな時ふっと横目でアルセラが私の方へと視線を投げかけてきた。

 

――これでいい?――と聞きたげな視線。


 それへと私ははっきりと頷く。

 

――立派だよ――と意味を込めて。


 私のうなずきを見てアルセラの顔に安堵が浮かんでいた。

 今、不安が一つ消えようとしていた。

 おそらくは彼女なりの手探りなのだろう。だが、彼女は間違いなく領主としての振る舞いを身に着けつつあったのだ。


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