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夢語りⅠ ―子猫と巣立ちと別れと絶望―

――夢を見た――


 それは私がまだ幼い頃だった。

 夏物の女児用のワンピースドレスを身につけて巨大な邸宅の庭園を歩いている。

 どこからか迷い込んだのか子猫が鳴いていた。私はそれを見つけて拾い上げた。

 

「お母さま。お願い」


 私はその猫を飼いたいと告げた。

 お母様は少し困ったふうに笑みを浮かべて思案する。


「いいわよ。お父様にお話ししといてあげるから」

「ありがとう! お母さま!」


 私は満面の笑みで喜んだ。

 それから数日間、その子猫を大切に可愛がった。

 でも――


「あれ?」


 大切な子猫を寝かせていた寝床は空になっていた。


「猫が居ない?」


 不安になった私は仲の良い使用人たちにも聞いたが、誰も答えてくれなかった。

 理由を教えてくれたのはマルフォス兄さまだった。

 子猫はあの人、私の父親が命じて捨てられたという事。猫に触れようとした時に子猫が怖がって引っ掻いたのだ。それに激昂した父は腹心の部下に命じて猫を捨てさせたのだ。


「うそ?」

「残念ながら本当だ。辛いだろうが諦めておくれ」

「嫌っ!」


 私は泣きながら子猫を探しに行ったがもうどこにも子猫は居なかった。

 私はこの時、幼いながらも、自分の父親の非情さ無情さに恐怖を抱いたのだった。

 悲しみに沈む私を慰めてくれたのは、お母さまと、お兄さまと、お爺さま。そして、私を可愛がってくれた執事。

 私はあの時から、小さいながらも自分の父親を〝敵〟と認識したのだった。




――夢を見ていた――




 私は軍学校に入学しようとしていた。

 私が7歳の時だった。

 それまでの日々の中で色々な出来事に出会い、もっと強くなりたい、もっと自分でなんでもできるようになりたい、そう思うようになっていた私は自分自身を鍛えるために正規軍の幼年軍学校への入学を決意した。


「お母様、私は正規軍の学校へと進みたいと思います」


 私の決断に周囲はただただ驚くしかなかった。ただ母だけは少し困ったように微笑みながらこう答える。


「あなたがそう決めたのならば、やりたいようになさい。あなたは一度決めると曲げないものね」


 母は分かっていた。目的を決めたのならば絶対に曲げない子だと。


「ありがとうございます」


 少し早熟な自立だった。

 それを許してくれた、お母様や、お爺様、お兄様、そしていつでも私の味方になってくれた執事のセルテスに見送られて私は旅立った、寄宿制の軍学校へと。


「では、行ってまいります」

「気をつけて行ってらっしゃい。体にはくれぐれも気をつけてね」

「はい!」


 必要な荷物を身につけ鞄を持って馬車に乗る。みんなが見送ってくれる中、馬車は走り出す。

 私は馬車の窓から元気に手を振った。みんなが手を振り返してくれていた。

 でも――


「お父様……」


 あの人は見送りにはとうとう現れなかった。

 私には興味も関心もないのだと思い知った日でもあった。




――夢を見ていた――




 私は14歳になっていた。

 軍学校で研鑽を積む日々、通常ならば18歳で卒業し配属となるところを、極めて優秀な成績を収めていた私は飛び級で進級させてもらえる事が決まった。

 講師陣推薦で精術学専攻で学ぶ事となり軍学校とドーンフラウ学院大学と行き来する日々を迎えていた。


 そんなある日、ある知らせが私のところに舞い込んだ。

 軍学校の教官が私に告げた。


「――君、大至急ご実家に戻りたまえ」

「えっ? どういう事ですか?」

「急報伝文が届いている。詳しくは送迎の馬車の中で読み給え」

「ありがとうございます」


 私は礼もそこそこに実家へと向かった。そして、馬車の車内で伝文に目を通したがそこに記されていたのは想像だに出来なかった事実だった。


「そんな、嘘でしょう?」


――兄上君、急逝。至急戻られたし――


 それはお兄様の訃報だった。

 愕然となりながらも実家に戻った私だった。心のどこかで間違いであってくれと願っていた。

 だが、それは事実だった。


「お兄様――」


 棺の中に収められたお兄様の亡骸はすっかりやつれて疲れ果てた顔をしていた。


「うっ、う、う――」


 棺に寄りすがって泣き崩れた。誰よりも信頼していたお兄様、だがその瞼は二度と開くことはない。

 呆然としたまま事実を受け入れられずに葬儀を終えた私は、すぐに学校へと戻った。

 お母様やお爺様が自宅で休息を取ることを勧めてくれたが、その気にはなれなかった。

 とてつもなく嫌な予感がしたからだ。

 

 学校の寄宿舎で喪に服すとして特別に休暇を取らせてもらい半月が過ぎた。

 そして、私はその耳に聞こえてきた噂話でお兄様の死因を知ることとなった。


「あの子の実家のお兄さんの死因、分かったわよ?」

「うそ?」

「ほんと、箝口令敷かれてるけどあちこちから漏れてるのよ」

「それで?」

「自死、毒をあおってそのままですって」

「本当?」

「らしいよ、かなり精神的に追い詰められてたみたい。それで――」


 噂話に花を咲かせていた子ひばりたちは私に気づいてすぐに逃げていった。

 私にはお兄様の自死の理由はすぐに理解できた。


「あいつだ」


 兄様の死の原因が〝あの男〟にあるのはすぐに分かった。葬儀のときも終始無表情のままで、終わるが早いか即座にまた出かけていったのだ。どこに行ったのかは知りたくもない。

 さらにその後に、お兄様が軍学校を無理矢理に除籍させられて、苦悩していた事を知らされた。

 死の理由に確信を抱いた私は、それ以来あの父とは一度も会っていない。


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