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明日への期待 ~真の黒幕の影にも彼らは怯まなかった~

 大佐のその疑問に私は答える。


「私もその部分には大いに疑問があります。実際にアルガルドの者達と戦った身だから分かるのは、彼らは本家ミルゼルドの人々に対しても強い敵意を持っていたからです。実際、そのために謀略を常日頃から仕掛けていたことを彼ら自身の口から聞いています」

「やはりそうであったか」

「はい」


 大きくため息をつきながら大佐は言う。


「今回のワルアイユ動乱の主犯であるアルガルド勢、その彼らに居るであろう黒幕。それこそが我が国の最高機関である〝賢人議会〟の中に隠れていると私は踏んでいる」 


 それは驚きの一言。しかし納得がいく部分もあった。


「やはり大佐もそう思われますか」

「君もかね?」

「はい」


 私は自らの見識を述べた。


「今回の事件では精巧な偽の指令書や、本物と寸分たがわぬ軍人徽章など、政府内部の人間でなければ成し得ない裏工作が多数行われています。また、一度は窃盗で捕まった人間を偽軍人に仕立てるなど軍警察にも影響力があると考えるのが妥当です。政府機関、それも最上層部に位置する人間が介在していると考えるのが当然でしょう」


 大佐は頷きながら言う。


「それでほぼ間違いないだろうな。だが、今回のワルアイユ動乱の本当の黒幕はいまだに諦めていないのだろう。このワルアイユを手中に収めることに」

「迷惑な――」


 思わず吐き捨てた言葉に大佐は苦笑していた。私は問いかける。


「なぜそれほどまでにこんな辺境の土地に執着するのでしょう?」

「考えられる理由はひとつしかない」


 その答えを私は推察して問いかけた。


「ミスリル鉱石の地下鉱脈ですね?」


 ミスリル鉱石はフェンデリオルはもとより、周辺国の軍事バランスすら変えてしまう力を持っている。鉱脈を個人で領有することができたなら、政治的にも経済的にも絶大な権勢を握ることができるだろう。


「まずその見方で間違いないだろう。本来であればアルガルドが敗北した段階で黒幕はそれ以降は手が出せなかったはずだ」

「だがワルアイユの次の継承者がまだ15歳になったばかりの年端もいかない少女だという事を知って最後の勝負に打って出たのですね?」

「その通りだ。つまり〝軍事的要衝を15歳の小娘に委ねるのは不適当だ〟と言う言いがかりに等しい理由を見つけてな」


 そして私もあることに思い至った。


「アルセラ嬢の次期継承者としての素質――、それを黒幕なりに調べ上げ、言いがかりではなく正当な疑念として議論の俎上に載せることが可能だと気づいてしまった」

「そうだ。そして、もっとマズいことに、その言いがかりの裏側に存在する強い悪意を、賢人議会の内部の者も正規軍の上層部も誰一人気づかなかったのだ」


 そして、大佐の口からは最悪の事態が語られた。


「もしこのままアルセラが次期継承者として不適当であると判断され政府直轄地としての領有が強行された時、アルガルドの敗北で面目をなくしていたはずの黒幕は最後の最後で逆転することが可能となる」

「そして、ワルアイユを直轄地として支配して、甘い汁を吸えるだけ吸おうと言うことなのでしょう」

「その読みでほぼ間違いないだろうな」


 思い知った現実に私は怒りを隠せなかった。


「なんてこと――」


 そして私は思わず吐き捨てた。


「人の命と思いを何だと思っているのよ?!」


 そんな時大佐は私を諭すようにこう言ってくれた。


「人の思い、命の価値、それが分かるような人間ならば端っからこんな謀略を仕掛けようとは思わんよ」


 その言葉に私はある人物の影が頭をよぎった。それは私の父――

 いや、その事は今は忘れよう。

 大佐は言う。


「だからこそだ――」


 彼は私へとこう問いかけてくれた。


「だからこそ明日の祝勝会は、我々が全力を持って盛り上げるにふさわしい会だとは思わんかね?」


 月明かりの下、力強いまでの大佐の笑顔が浮かぶ。そしてそれは不思議なまでに私に強い勇気をくれた。


「はい! その通りです」

「うむ」


 頷く大佐が言う。


「明日の祝勝会は、主催のアルセラ嬢に期待するのはもちろんだが、主賓である君にも期待している。最高の会になるようにお互いに力を合わせようではないか」

「はい!」


 大佐の問いかけに私ははっきりと頷いた。

 後がないと追い詰められた心境ではなく、皆で精一杯楽しみながら盛り上げるのだ。

 アルセラの若さや経験の浅さが気にならないくらいに。

 これこそがあのバルワラ候の後継者と強く印象に残るくらいに。


「よろしくお願いいたします大佐!」

「うむ。私からもよろしく頼むぞ」


 そうお互いに言葉を交わしながら村へと帰っていく。村の家々には煌々と明かりが照っている。そのあかりの一つ一つに明日の祝勝会への期待が込められているのだと思うと心の底から力が湧いてくるのを、感じずにはいられなかったのだ。

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