表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/484

ルストの噴飯と捨て身の奇策

 私があるところに毎月仕送りをしているのは以前話した通りだ。離れて暮らす身内の医療費。そのため実力さえあれば確実に稼げるこの仕事を選んだ。

 職業傭兵は実入りがいい。命をかけると言うリスクは有るが、その辺は自信があった。戦場や野山を駆け巡って得た報酬を離れて暮らす家族へと毎月送っていた。それは大切な、とても大切なことだ。だが、その思いを汚されたような気がしてイライラしてくる。

 そんな私に、彼は追い打ちをかける。私をじっと見るなりこう言ったのだ。


「そういや、似てるなぁ」

「何がですか?」

「ん? これに書いてる失踪令嬢とお前がな――背丈とか髪の色とかな」

 

 ちょっと待って! なんでそうなるのよ!

 

「銀髪に碧い目、2年前に15才だから今なら17か――そういやぁお前も今17だったな」

「やめてください! 変な噂立てられたら困ります!」


 噂にのぼっているご令嬢の容姿は私と同じで髪が銀髪、瞳は翠色をしている。


「髪や瞳の色なんて、中央に住んでるフェンデリオル人ならよくあるものです。身長や年齢はたまたまです! その程度で同定されたら該当者いっぱいいますよ!」


 私は強く反論した。正直言ってこの件で騒ぎにされたくないのだ。


「今の仕事を続けていたいんです! それだけは本当にやめてください!」


 下手に騒ぎになり人目を集めるような事が起きたら最悪、今の仕事をできなくなる。それだけは嫌なのだ。だが彼は鼻で笑った。


「冗談だよ。だいたい上級侯族のご令嬢様が、こんな岩砂漠に金欠で突っ立ってるわけねえやな」


 それは言って良いことの限度というものを越えていた。

 私は、声を上げて笑う彼を思わずぶん殴りそうになる。だが、今の私は隊長職をしている。感情を爆発させるよりやることがある。喉元から『ふざけんな!』と罵声が出そうになるのをぐっと飲み込んだ。

 ドルスはなおも寝そべったままだ。やる気は微塵も見えない。だが、いつ他の隊員たちが戻ってくるとも限らない。その前にこの状況を解決しておきたい。

 不意に脳裏をよぎったのは、以前に世話になったとある年配の女性傭兵の言葉だ。


――ダメなやつってのは、威圧されても殴られてもそうそう動かないよ――


 叱責してもこちらを小馬鹿にする以上、今のやり方では効果はない。


――馬だっておだてられれば喜んで走るもんさ――


 その言葉を思い出した時、あるやり方がひらめいた。ちょっと女である事を武器にするようで不本意だが。私は名を捨てて実を取った。


「ルドルス3級」


 私は口調を抑えて穏やかに語りかける。

 

「どうしたらやる気を出してくれますか?」


 ちょっと猫なで声、少し真面目な問いかけ。急に変わった雰囲気にドルスは戸惑っている。


「んあ?」 

「その本をしまって準待機で居てくれるなら〝街〟に帰ってから一杯(おご)ってあげます」

「奢る?」

「はい」


 街――私達の活動拠点ブレンデッドの事だ。私の言葉にちらりと視線が動く。言い方が急に変わったので不審がっているが拒否はしてない。これはもうひと押しかも知れない。


「奢るだけか?」

「それは、ドルスさんのやる気次第です」

「―――」


 ドルスは無言のまま文庫本を閉じて体を起こした。わたしはさらに畳み掛けた。

 

「大切にしてる、とっておきの〝ドレス〟があるんです」


 ドレス――その言葉が彼の興味を強く引いたらしい。彼は私にこう問いかけてきた。


「いいのか? そんな約束しちまって」

「こんな約束をしてでも、初めての隊長のお仕事を成功させたいんです」


 私はいかにも真剣な表情で彼の顔をじっと見つめた。僅かなにらみ合いのあとに軽くため息をつい て文庫雑誌をしまい込む。そして、立ち上がってブーツを履きながら彼は言った。


「わかったよ、準待機に戻る。それでいいんだろ?」

「ご理解いただき、ありがとうございます」

「お前が任務のためにそんな約束を持ち出すんだ。それまで(たが)えたら傭兵じゃねえからな」


 そう語る彼の言葉の片隅に、私はまだ彼の傭兵としての意地のようなものを感じた様な気がした。

 

「ありがとうございます」


 このときはまだ彼の事を信じられると思ったのだ。

お願い:☆☆☆☆☆を★★★★★にして、ルストたちの戦いを応援してください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■新シリーズの■
【旋風のルスト正当続編『新・旋風のルスト 英傑令嬢の特級傭兵ライフと、無頼英傑たちの国際精術戦線』】
⬇画像クリックで移動できます
新・旋風のルスト<

【本編リンク】

第1部:西方国境戦記・ワルアイユ編

第2部:西方国境戦記・オルレア編

■旋風のルスト:関連作品リンク■


■第2部の後のルストと仲間たちの〝それぞれの物語〟■
【旋風のルスト・アフターストーリー『それぞれの旅路』】


旋風のルスト外伝
『旋風のルスト・2次創作コラボ外伝シリーズ』連作集

▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒■いつも本作をごらんいただきありがとうございます
▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒
【幻想検索 tentatively】
ツギクルバナー 小説家になろうSNSシェアツール
小説家になろうアンテナ&ランキング
fyhke38t8miu4wta20ex5h9ffbug_ltw_b4_2s_1

Rankings & Tools
sinoobi.com

― 新着の感想 ―
[良い点] 何と! ルストさん色仕掛け… ドレスって、後どうするんですかwww [一言] 久々にまとまった時間ができたので読みに参りました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ