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序文9:エライアの母ミライル、娘への思い

 巨大な本宅の中をユーダイムは歩いて行く。そして向かった先はエライアの母ミライルのところだ。

 8時過ぎと言う夜分にあって、母エライアは自らの寝室でくつろいでいた。壁際の大きな暖炉に火を灯しながらソファーに腰を下ろして物思いにふけっている。

 それは彼女にとって日課のようなものだった。


 そんな時、彼女の部屋の扉がノックされる。


「どうぞ」


 穏やかながらしっかりとした声でミライルは答える。扉を開いて部屋に入ってきたのはユーダイムだ。


「ミライル、邪魔するぞ」

「お父様? お客様はお帰りになられたのですか?」


 ソファーから立ち上がりながらそう問いかける。だがユーダイムは片手の仕草でそれを制止した。


「今しがたお帰りになられたよ」

「そうでしたか。お夜食ぐらいお出しできれば良かったのですが」

「仕方あるまい。先方にも都合がある。それに今回の面談はあくまでも極秘の話し合いだからな」

「そうですか。それならば致し方ありません」


 そんなふうに言葉を交し合い、先に本題へと入ったのはユーダイムの方だった。


「さて、お前にも伝えておかねばなるまい」


 ユーダイムの言葉にミライルは怪訝そうだった。


「何をですか?」


 言いにくい話題だったがユーダイムは意を決して告げた。


「お前の娘エライアの消息についてだ」

「えっ?!」


 まさかの話題にミライルも言葉を失う。


「予想外の所から情報が飛び込んできたのだ。今から数日前にな」

「―――、」


 ミライルは驚きのあまり言葉を失いつつも、視線ではユーダイムの言葉をじっと待っていた。それを察してユーダイムは言った。


「エライアは今、職業傭兵をしている。西部都市のひとつであるブレンデッドの街を拠点として任務についているようなのだ。

 そして今現在、エライアが傭兵として任務についているのが、今、西方国境地帯で勃発している敵軍の国境線越境問題だ。これに対して臨時の混成部隊が組織され今日の早朝から戦闘行動が行われていた」


 ユーダイムの言葉を聴き、ミライルはとある不安を感じずにはいられなかった。


「まさか、エライアがその戦闘に参加していたというのですか?!」


 ユーダイムは穏やかな言葉でごまかすようなことはしなかった。包み隠さず明確に告げた。


「いやそうではない。エライアは戦闘に参加したのではなく臨時の指揮官として戦場で采配を振るっていたのだ」

「指揮官? まさか? あの子が? 嘘でしょう?」


 それはミライルにとって完全に理解の外だった。失踪した娘が一兵卒として戦場の末席で戦闘に参加しているというのならともかく、指揮官として最重要任務を任されていたという事実はあまりにも驚くべきものだったからだ。


「嘘ではない。そしてこれは現実だ。だが何よりも問題なのは、この事実が国中の噂となって広がりつつあるということだ」

「そんな、そのようなことになったら」

「〝あの男〟が黙ってはおらぬだろうな」

「なんてこと……」


 事態を深刻さをミライルもようやくに理解していた。


「あの子はあの子なりに道を模索して、今の暮らしを掴んだはずです」

「その通りだ。自らの才覚を活かしながら職業傭兵としての道を掴んだ矢先だ。だが、エライアなりにどうしても決断をせねばならない状況にあったのだと思う。その結果どういう状況が引き起こされるかはあの子自身も承知の上で今回の前線指揮権の臨時承認を取り付けたのだ」


 ユーダイムの言葉は納得のいくものだった。ただ、だからこそ尋ねなければならない事があった。


「ではどうすればよろしいのですか? あの子の自由を守ってあげるためにも」

「それについてだが私に考えがあるのだ」

「それはいったいどのような?」

「それはだな――」


 そこでユーダイムはこの時のために考えていたことをミライルへと明かす。


「――この案を通すためにも親族連中の過半数の同意が必要となる。そのためにもお前にも〝根回し役〟をやってもらわねばならん」


 母ミライルは迷わなかった。それが自らの娘のためになるのであればやらない理由はどこにもない。


「もちろんやらせていただきます。それがあの子の未来を明日を、そして心の自由を守ることになるのであれば」

「やってくれるか」

「はい。母としてやっと、あの子のために何かをしてあげることができます」


 そう語るミライルの目にはかすかに涙が浮かんでいた。

 この2年間、娘エライアの身を案じることはあっても、何かをしてあげるということは叶わなかった。親として母として、これほど歯がゆいものはなかった。

 それが今やっと自らの手で娘を守ってやれるのだ。


「明日にでも早速、主要な親族を回ろうと思います」

「頼むぞ」


 ユーダイムが返した言葉にミライルは頷く。そして、その横顔には寂しさよりも喜びが垣間見えていた。

 ここでもまた大切なものを守るための戦いが始まろうとしていたのである。


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