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国賊モルカッツ、その最後の矜持

 モルカッツのつぶやきにソルシオンはあえて自らの名を名乗った。それだけでモルカッツは抵抗の意思をなくしてしまう。

 なぜなら、今ここに将軍格の人間が現れるということ自体が尋常ならざることであるためだ。モルカッツにもそれくらいの判断力は残されていた。


――ソルシオン・ハルト・フォルトマイヤー――


 フェンデリオル正規軍中央軍の大本営本部に属する将軍で西方方面軍の第1軍を総括する立場にある人物だ。数々の武功を持ち、上級侯族十三家の中の一つフォルトマイヤー家の人間でもある。

 大衆から与えられた二つ名は〝命の救い手のシオン将軍〟

 青い眼で鋭くにらみながらソルシオンはモルカッツに向けて告げた。

 

「貴公がワルアイユ辺境領の不当占拠の企みに加担しているのみならず、実質その首謀者である事はすでに判明している。

 ワルアイユ領のミスリル物資不正横流しをでっち上げ、それをワルアイユ領の故バルワラ候に濡れ衣を着せて密殺、さらにはワルアイユ領に造反の疑いありと偽証証拠を拠り所にして討伐命令を引き出した。

 あまつさえ、敵国トルネデアスと内通、正規軍による討伐部隊とトルネデアス侵略軍との挟撃で、ワルアイユ領の市民義勇兵を一網打尽にすることを画策。ワルアイユ領の一時預かり先として、貴様の実家であるアルガルド家が指名されるように裏で手を回した。ここまでは水も漏らさぬ計画だったのは認めよう。だが!」


 ソルシオンはモルカッツを睨みつけながら更に進み出ると更に告げた。


「ある1人の職業傭兵の少女がワルアイユ領の極秘査察部隊に紛れ込んだのを見過ごしたのが致命傷となったな。彼女の活躍でバルワラ候の遺児であるアルセラ嬢が守られワルアイユ領の領主の地位継承がつつがなく行われた。これによりワルアイユ領は統率を維持することに成功し、また、件の職業傭兵の少女が、討伐部隊の正規軍兵と職業傭兵たちを糾合し、トルネデアス侵略軍を見事に撃退した! さらにはアルガルド家当主デルカッツ・カフ・アルガルドの居城に突入、コレを撃破した。もはやお前たちの企みはことごとく失敗し、その証拠は保全されている。もはやどこにも逃げられぬと観念するのだな!」


 滔々とよどみなく語られる言葉に、モルカッツは圧倒されていた。ようやくに言葉を絞り出すがそれは情けない物だった。

 

「デ、デルカッツの叔父貴はどうした? 叔父貴さえ無事なら――」

「それはない」


 モルカッツの妄言をソルシオンは一喝した。


「貴公の叔父であるデルカッツ・カフ・アルガルド候は本騒乱の全嫌疑をすべて認めた上で、自らの手で〝自害〟した」

「じ、自害――」


 モルカッツは絶句する。言葉を失ったまま蒼白の表情となって執務室の革張りの椅子へとへたり込む。


「彼は親族に類が及ばぬように全責任を自ら背負った。最期を看取った者からの伝聞では見事な最後だったそうだ」


 そう告げるとソルシオンはこう問いかけた。

 

「モルカッツ候、貴公はどうする?」


 それすなわち、デルカッツの意思を継ぐべきものとしていかに振る舞うかを問うている。無論、それがわからぬほどには、モルカッツも落ちぶれては居なかった。

 モルカッツはすっくと立ち上がると、政務机の前へと進み出る。そして腰に下げていた牙剣を外し、左胸と両肩に付けていた徽章を自ら外すと、震える声でこう答えた。

 

「モ、モルカッツ・ユフ・アルガルド――逮捕状の執行に同意し身柄の拘束を、う、受け入れる」


 それまでの権勢が嘘のようにガタガタと震えて怯えている。だが、彼は最期の勇気を振り絞って告げた。


「わが叔父にして当主であるデルカッツが、み、自らの命を費やして責任を、は、果たしたのなら、つ、次は私の番だ!」


 叔父であるデルカッツが死んだ。その事実が彼の目を覚まさせたのかもしれない。そして自ら両手を前へと差し出した。

 

「いかなる極刑がくだされようと受け入れる。そ、それが叔父であるデルカッツの意思に加担してきた者が受けるべき当然の報いだ」


 彼のもとへと警備部隊の隊員が押し寄せる。左右から身柄を抑えるとその両手に金属製の手枷をはめる。

 

――ガチン――


 重い音が響いてモルカッツの栄華の終焉を告げていた。そして、モルカッツは振り返らずに女性秘書たちへと言葉をかけた。


「お前たちは当面の間、私の部下ということで軍警察による取り調べがあるだろう。だが、本件にお前たちは無関係だ。いいか? 無関係だ!」


 モルカッツは〝無関係〟と言う言葉をことさら強く唱えていた。それはその場の者全ての耳に届いていた。


「当面は謹慎となるだろう。然る後に後任の審議部部長に就くか、新たな部署へと再配置となる」

「部長――」

「モルカッツ部長」


 女性秘書が言葉を漏らす。あれほど苦しめられたはずなのに、なぜか彼女たちから声がかけられた。モルカッツは答える。

 

「今まで、すまなかった」


 それがモルカッツが(おおやけ)の場で残した最後の言葉だった。

 リザラムが警備部隊隊員に命じる。

 

「軍警察本部に連れて行け」

「はっ!」


 そして、彼は連行された。国家反逆罪と外患誘致罪に加担した大罪人として。

 外はすっかり夜の闇に包まれていた。

 軍本部から連れ出されるとモルカッツの身柄は窓のない護送馬車に押し込められた。


――パシッ!――


 馬の背に鞭が入れられ護送馬車は走り出す。

 こうしてモルカッツと言う男は軍本部から姿を消したのである。


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