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逆賊デルカッツ、咆哮する

 だが彼、デルカッツ・カフ・アルガルドは吐き捨てる。

 

「成り上がりと言い放つか小娘」


 彼の口からは詫びの言葉はない。静かに立ち上がりながら彼は言う。

 

「俺以外の人間がどうなろうと知ったことではない。俺は俺自身の野望を成就させるためだけに生きてきた。悪逆、生き血をすする悪鬼、吸血鬼、人非人――いままでに嫌というほどに罵られ続けてきたよ。だが、それが何だというのだ?」

「失われた人命を意に介さないというのか?」

「おれが生涯で味わい続けた屈辱に比べれば、他人の命など、暖炉にくべる薪のようなものよ。十人二十人が死んで敵が減るのであれば喜んで人を殺す。ましてや一人二人が死んで俺の領地が増え、権力が増すのであれば喜んで殺してくれるわ」


 それは到底に人とは思えないような言葉だった。まさにパンをちぎってかじるかのように、人の命を奪い続けてきたのだ。この男は。私は叫んだ。

 

「なぜそこまでして〝憎む〟のですか?」


 彼は言う。

 

「俺は代々傍流の家系だった。侯族とは言えぬような貧しい暮らしのな」


 私は、警戒心を持ちつつも彼の言葉を聞き入る。話を聞かねば彼の真意はわからないからだ。

 

「国境近くの小領地、ワルアイユよりも小さな僻地だ。それを先祖代々守り続けてきた。だが、ワシの祖父の代にある事件が起きた」

「その事件とは?」

「――領地消失――」


 領地消失、聞き慣れぬ言葉が聞こえる。

 

「俺の祖父の領地は規模こそ小さかったが、軍事上の要衝と言うこともあり、軍勢の駐屯地となる事が多かった。そのため正規軍部隊を相手にして生計を立てていたのだが、ある日、大規模な国境侵犯と大規模戦闘が勃発した。国境線は大きく押し戻され、トルネデアスとフェンデリオル、双方の軍勢により領地は荒らされた。領地維持は困難となり隣接する他領を点々とする日々が続いた。そして、戦いが終わった時、自領に戻ろうとした時だ、信じられん事態が起きた」

「その事態とは?」

「ワシの祖父の領地は隣接する大領地領主により分割され勝手に他領とされていたのだ。戦闘のどさくさに紛れた乗っ取りだった」


 私は彼にあえて問い返した。


「異議は申し立てなかったのですか?」

「巨大な権力の前には、異議申し立てなど通らんよ。それに軍事上の要衝だったという事もあり、より安定した大領地が所有してたほうがいいと、正規軍の上層部が黙認したのだ。そうなれば辺境の泡沫領主など握りつぶされて終わる」


 それは信じがたい事態だったが、決して荒唐無稽とも言えなかった。熾烈な競争社会である侯族ならばそれくらいの事態は珍しくないのだ。


「領地を失った我々は流浪した。そして、転落した我々を人々は蔑んだ! 貧困の暮らしの中で家族が次々に命を落とし、女どもは生きるために身を売った! 病をくらってボロ雑巾のように死んだものも居る。生き残ったのは俺一人だ」


 彼はその手にしていた刀剣を固く握りしめて言う。

 

「あの日、家族たちの小さな墓標の前で誓ったのだ! 俺はこの国を否定すると! 俺のこの手でこの国を切り取り! 失われた家族たちの命に相応しい大領地を手に入れると!」


 そして彼は信じがたい事を語り始めた。

 

「独り身となった俺は辛酸を嘗めながら国中を放浪した。耐え難きを耐えて、苦闘を続けたその末に、俺は絶好の機会を得た。とある小さな中級侯族が息子を病で亡くしたため遠縁の他家から養子を迎えると言う話だ。さらにその養子となるはずの男は俺と歳が同じ。そして俺は策を講じた」


 その語り口に私は背筋に冷たいものが走った。

 

「まさか貴方は? すり替わり?」


 私が驚き気味にそう問えば、彼は語り続ける。

 

「そうだ。俺はすり替わったのだ。とある山中で養子となるはずの男とその従者を殺すと衣装と所持品と養子縁組の証明となる書類一式を奪って、その男になりすました。そして、アルガルド家の養子にまんまと収まったのだよ」


 その時、彼の口元が不気味に動く。

 

「バレなかったのですか?」

「そこは幸運が重なった。俺がその養子を乗っ取るのと前後して、アルガルドの実子を病に見せかけて密殺した男がおったのだ。今、ワシの副官をしているハイラルドとその父親だ。奴らは奴らで自分の息のかかった男を養子に迎えさせてアルガルドを乗っ取る腹づもりだったのだ」


 ハイラルド――、ワルアイユのバルワラ候を密殺を手引した男だ。その頃からの繋がりだったのだ。

 

「俺の正体はハイラルドにはすぐに露見したが彼らは俺を企みに引き入れた。悪党同士ウマがあったのだろうな。そればかりか、邪魔者となったアルガルドの前領主を安楽死までさせてくれた。そして、父子ともども俺の野望の右腕となるとまで言ってのけたのだ。そこからはお前も知っておるだろう? アルガルドの近隣領地を平らげて、着々と上級侯族への足がかりを築いていった」


 それはまさに唾棄すべきような邪悪そのものだった。


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