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罪と介錯

■右翼前衛、部隊長ガルゴアズ・ダンロック――



 そして、ここは戦いの決した戦場の真っ只中。

 二人の男が対峙していた。

 一人は、両腰に大振りな牙剣を下げた男――フェンデリオルの職業傭兵、ガルゴアズ・ダンロック2級傭兵、

 もう一人は、腹を割かれ、右腕を斬られ、半死半生となった敗北者――トルネデアス軍の切り込み部隊の百人長、双剣のマンスール、

 

 逃れられぬ死を目前にしながらも、致命的な一瞬はまだ来ない。マンスールは荒い息を繰り返しながらも無様にまだ生きていた。

 対するガルゴアズは、両腰に〝天使の骨〟と呼ばれる銘入りの大型の二振りの牙剣を下げている。

 その内の左腰に下げた一本を右手で引き抜くと、死にかけのマンスールの側へと静かに歩み寄っていく。

 

――ジャリッ、ジャリッ――


 足元の石を踏みしめながら迫っていけば、マンスールは薄れる意識の中で顔を上げて、ゴアズの姿を捉えていた。

 

「お前は――」


 かすれる声でマンスールが言う。それに対してゴアズが問うた。

 

「お忘れですか? 私の姿を?」


 そう問われて困惑した表情を浮かべながらもマンスールは答えた。

 

「覚えているとも。ランストラルの山岳回廊の一件であろう?」

「覚えて居られるのであれば話は早い」


 そう告げるゴアズの声は微かに怒りを帯びていた。

 

「私はあの時の戦いにおける、正規軍人の数少ない生き残りです」

「名前は?」

「ガルゴアズ・ダンロック」


 その名を聞かせられて、マンスールは答えた。

 

「そうか、お前がか。〝弔いゴアズ〟」


 マンスールは迫る死の気配の中で荒い息を繰り返しながら続ける。

 

「神のお引き合わせと言う事か」


 観念したようにマンスールはつぶやく。表情を変えぬままゴアズは語り始めた。

 

「ランストラル山岳回廊での戦い。はじめは単なる一般市民の避難誘導作戦でした。だが、そこにあなた方、トルネデアス軍の強襲部隊が介入してきた事で事態は切迫した」


 死化粧に彩られた顔となったマンスールが下から見上げている。ゴアズは更に告げる。

 

「あなた方は、否――当時のあなたは卑劣にも一般市民を攻撃する別動部隊を編成して、混乱を生じさせる作戦を具申し、そして作戦実行の許可を得た。そして下命を受けて作戦を実行した!」


――チャッ――


 ゴアズの右手が汗ばんで牙剣を握り直した。

 

「狭い山岳回廊の岩場で逃げ場所を失った我々は、市民のみの退避と脱出を優先せざるを得なかった。そして、私の部隊はあなた方に挟撃され成す術なく攻撃にさらされるばかりだった」


 マンスールがゴアズから視線を外す。罪の意識を抱いているかのように。

 

「部隊はほぼ全滅。一方的に虐殺された。そして生き残ったのは300人中、私ただ1人――病床でその事実を知らされた時の絶望と虚無は今なお消えていない。一つだけ言わせていただこう――」


――ザッ――


 足元を踏みしめてゴアズは告げた。

 

「あの時、目の前の勝利と栄誉に目がくらみ、兵士として戦士として最低限持つべき慈悲を泥の河へと投げ捨てたのはあなただ! 市民義勇兵とは言え、大半が戦闘能力のない女子供だった。貴方はそれを狙った! 一切の慈悲もなく! それを神の名の下で誇りある勝利と言えるのか! どうだ!」


 ゴアズの怒声にマンスールは答えられなかった。

 

「あなたがあの時の行動を評価され百人長に昇進したと言う事実は風のうわさで聞いていた。双剣のマンスールという二つ名を得た事も知っている。その名をこの戦場で聞いたときには、私は運命のようなものを感じずにいられなかった。これは神の思し召し――、今こそ貴方に問う」


 普段は穏やかに微笑むゴアズが、恐ろしいまでの怒りの表情でマンスールを睨みつけていた。

 

「あの時の〝罪〟を認めるか?」


 二人の間に沈黙が流れる。やがて声を発したのはマンスールであった。

 

「認める」


 それが答えだった。ゴアズが言う。

 

「最後の慈悲だ。介錯する」


 介錯――致命傷を負った兵士に対して最後のトドメを与えることだ。

 無言のまま、マンスールは体を前傾させると、その首筋を前へと差し出し、そしてその目を閉じた。

 ゴアズはそれを見据えると、右手に握りしめた牙剣を頭上へと振り上げ一気呵成に振り下ろす。

 

「介錯」


――ブオッ――


 天使の骨と言う名の牙剣が振り下ろされ、マンスールの首が切り落とされる。次の瞬間、赤い血が激しく吹き出した。

 こうして、双剣のマンスールと言う一人の男が絶命した。

 ゴアズは無言のまま、本隊へと戻っていく。

 マンスールの亡骸を拾い上げる者は誰も居ない。


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