左のカーク・右のゴアズ
■右翼前衛、部隊長ガルゴアズ・ダンロック――
「指揮官より打伝、接敵直前に横陣第１層左右展開」
「了解と打伝してください」
「はい」
右翼前衛、二振りの大型の牙剣を左右の腰に下げたガルゴアズ・ダンロックが答える。
通信師の少女が中翼本隊へと返信する。
彼は大声で周囲に告げた。
「接敵直前に左右展開、右翼の我々は陣営右側に外転する！ おそらくこれは弾性包囲への布石となる。その意図を敵陣に悟られるな！」
彼が大声で叫べば、周囲の傭兵たちが答えた。
「おう！！」
ゴアズの戦局への読みを周囲の傭兵たちは理解した。本隊の指揮官からの指示の裏にある意図を把握し、それを部隊の人員へと伝えるのは部隊長の役目だった。ゴアズは更に告げた。
「よいか？ 精術武具や銃などで遠距離攻撃手段を持つ者は許可あるまで攻撃を控えろ！ ただし、いつ攻撃しても良いように準備は怠るな！」
傭兵たちからの返答が聞こえる。
「了解！」
戦闘の次の布石への準備はすでに始まっていた。
■左翼前衛、部隊長ダルカーク・ゲーセット――
「指揮官より打伝あり、接敵直前に左翼前衛左展開との事です」
「了解と伝えろ」
「了解、打伝します」
左翼前衛の部隊長を務めるのはダルカーク・ゲーセットだ。
筋肉質な屈強な体を持つ白兵戦闘の達人、そして、雷撃系の籠手型の精術武具を使い、二つ名は『雷神カーク』
彼は地に響くような野太い声で告げた。
「左翼前衛、陣営左方向へ展開だ。ただし、接敵直前！」
カークの言葉に部隊に所属する傭兵たちが叫ぶ。
「おう！」
そう声が帰るのと同時にカークの傍らの一人の傭兵が問いかけた。
「カークよ」
「なんだ？」
「お前、中翼正面の方が良かったんじゃないか？」
それは尤もな問いだった。カークの高い白兵戦闘能力なら中翼正面で敵と鍔迫り合いをするほうがより高い戦果を挙げられるはずだ。局所的には――
だがカークはその問いを一蹴した。
「指揮官がそう決めたのならそれに従うのが戦場の鉄則だ」
「そうか――」
カークという男の性格は解っている。傍らの傭兵はそれっきり何も問わなかった。
だがカークはその問いに答える代わりに、周囲に対して新たな指示を下した。
「左翼前衛全員通達！」
カークの力強い声が響き、視線が一点に集る。
「我々は機動部隊だ。そして、速攻一撃の攻撃が意味を持つ。指揮官からくだされた指示に従い、敵陣に打撃を加える事に集中しろ！ それまではこちらの意図を悟られるな！」
「了解！」
カークの放った言葉が部隊全員へと伝わる。それを察して、カークは叫んだ。
「武装準備！ 精術武具使用者は予備動作開始！」
左翼右翼の前衛は機動戦を意図している。彼らの武器は中ぶりなものが多い。
その中には高威力の精術武具を所有している者も居る。通常の兵力なら砲兵に相当する。
そして、カークも精術武具を所持している。
「精術駆動 ―雷火生成―」
両手にはめた籠手型の精術武具『雷神の聖拳』に雷力を発生させる。
そして、指揮官からの指示を待ち、戦況を見守ろうとしていた。
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