黒猫と逃げ去る者たち
あとに残されたのは、見放されたガロウズと、そのガロウズに付き従う副官たちだ。
間抜けにも、それを呆然と眺めるしか無い。
「なぜだ? もともと田舎者どもと札付き傭兵の寄せ集めではないか? ワルアイユの小娘め、一体何をしたのだ?」
彼のその認識の中には、ワルアイユと言えば、前領主の娘であるアルセラの存在しか浮かんではこない。
何度考えても、どんなに考慮しても、納得のいく理由と答えは彼らには出てこない。
「ひ、退くぞ!」
ルストの存在に微塵の疑問も持たないガロウズは、気配を殺しながらその場から逃げ去って行ったのだ。
† † †
「信託統治委任執行は失敗――そう――、分かったわ。ありがとう」
通信師の念話装置を使って何処かへと会話を交わしているのは黒猫――〝ニゲル・フェレス〟だ。
中央都市オルレアの何処ともしれない館に彼女は居た。
「撤収よ。〝仮面の者たち〟も痕跡を残させず下がらせなさい」
――仮面の者たち――
それが何を意味するのか、彼女の言葉から読み解くのは少々難しい。黒猫は嘲笑混じりの声でさらに語る。
「え? アルガルド? あぁデルカッツたちね?」
今回の協力者であり計画の推進役であった者たちの名前。
口元にニヤリと笑みを浮かべつつ黒猫は答える。
「知らせる義理は無いわ。いい? すみやかに撤収よ。本作戦は中止よ。北の街で再集結――良いわね?」
しかる後に通信を切り、黒猫は手早く機材を片付ける。
「旋風のルストか――やってくれるじゃない」
その言葉には彼女だけがルストの存在に関心を払っていたことが分かる。
フード付きのマントを羽織り僅かな荷物を手に歩き去っていく。
あとに残されたのは不気味な言葉だけだった。
「生贄は残しておくからたっぷり味わいなさい」
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