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野営準備と作戦会議:後編

「アルガルドは、彼ら自身が描いたシナリオ通りに私たちを動かそうとするでしょう。それを回避するためにもまずは、我々は絶対に統治信託の強制執行部隊とは交戦してはなりません。こちらが強制執行部隊に対して反撃するようなことは絶対に慎んでもらわねばならないのです」


 メルゼム村長がいう。

 

「たとえ、弓一本でもですね?」

「無論です」


 私はメルト村の他の方たちにも視線を向けて告げる。

 

「みなさんもフェンデリオル側の陣営にはくれぐれも誤射をしないようにお願いします」

「はい」

「心得ました」


 だがしかしだ。敵もそれくらいは読んでいるだろう。

 

「しかしです。今回の一件を取り仕切っているであろう黒幕も、私達が散開せざるを得ない状況をなんとしてでも成立させようとするはずです。私たちが彼らとの接触を徹底的に避けてひたすら逃げるのでは彼らの企みの大前提が成り立たないからです。そして、そのためにも彼らが事前に企んでいた事態がここに来て重要になってくるのです」


 アルセラが不安げに問うてくる。


「それは?」


 私は力を込めて、皆の耳に伝わるように告げた。


「トルネデアスとの内通です」


 その言葉は明確に伝わっている。誰もが驚愕の表情を浮かべて居るところからはっきりわかる。


「トルネデアスの軍事勢力に対して密約を結び、彼らにフェンデリオルとの国境線に迫ってくるようにと依頼をしてあるはずです。そして彼らに対して、我々ワルアイユの市民義勇兵部隊を威圧せしめるように依頼してあるでしょう。絶対的にかなわないと言う心理的な効果を伴う方策を狙いながら――」


 私は一呼吸、間をおいて告げる。


「実はあるところから、トルネデアスが野戦用の特別な攻撃手段を準備しているとの情報を掴んでいました」

「特別な?」


 投げかけられるアルセラの疑問の声。皆もその言葉に同調するように視線を向けてきている。だが――


「ここではまだ言えません。ワルアイユの義勇兵の方々に聞かれると動揺をあたえますので」

 

 極秘情報と言うのは明かしていい時と、そうでない時がある。今はまだ話すべきタイミングではない。


「いずれにせよ、我々は執行部隊とトルネデアスの越境軍に挟み撃ちにされます。それが市民義勇兵部隊の混乱を強制的に引きおこすための最終手段なのです」


 驚きと怒りのあまり沈黙が広がった。どう言葉を出せばよいのかわからないだろう。

 だがこの状況でも言葉を吐ける人物が居た。

 ドルスさんだ。彼はうなずきながら言葉を吐く。 


「ありえない話じゃない。そもそもミスリル鉱脈の横流しがあったのはいったい何のためだ?」


 カークさんが言う。


「そうか――密約の報酬か!」


 ドルスさんが言葉を続ける。皮肉たっぷりに。


「――そうだ。そして、トルネデアスの砂モグラどもを引き寄せる餌ってわけだ」

「ミスリル鉱脈は連中にとって喉から手が出るほど欲しい物だからな」


 カークさんの返答に私は告げる。


「密約を結び、ワルアイユ占領を成功させたら、ミスリル鉱脈の横流しをこれまで通り維持するとでも言っているはずです。それがどういう事態を引き起こすとも気づかずに」


 私の言葉にドルスさんが言う。


「だな。砂モグラどもが言うことを素直に聞くはずがねぇ」


 さらにカークさんが静かな怒りをにじませながら言葉を吐く。


「国境線を越えたらそのまま部隊が壊滅するまで進軍してくるだろう。乱取り、略奪、焼き討ち、なんでもありでな」


 私は言う。


「そうなれば、このワルアイユを守り、復興させることも不可能になります」


 その言葉に皆が明確に頷いてくれていた。

 

「絶対にトルネデアスの連中を撃破しなければな」――そうメルゼム村長が語り、

「その通りです」


 アルセラが力強く答えていた。そして、私は全員へと説明する。

 

「皆様には市民義勇兵をいくつかの小隊に分けて率いてもらう事になります」


 その言葉を皆が冷静にじっと聞き入ってくれている。

 

「まず――

 ギダルム準1級は左翼先陣を、

 次いでガルゴアズ2級は右翼先陣、

 バルバロン2級は左翼後陣で弓兵部隊を編成、

 ルドルス3級は足の早い者たちで遊撃部隊を編成してもらい右翼後陣にて待機していただきます。

 さらにはダルカーク2級は中央部隊で私と同道してください。そして――」


 私はある人物をじっと見つめた。おそらくはこの戦いの最大の要となるであろうあの人を――

 

「ランパック3級には別動任務を与えることになります。詳細は後ほど」

「承知しました」


 私はパックさんへと命じた。その言葉を彼は真剣な面持ちで聞き入っていた。

 だがそこにドルスさんが問うてきた。

 

「ルスト隊長、あんたが言っていた〝特別な解決手段〟というのは間に合うのか?」


 当然の疑問だった。だが――


「それについては――」


 私は苦笑いしつつ言う。

 

「――ここに居ないあの人を信じるしかありません」


 それはあのプロアさんの事に他ならなかった。彼が特別な任務を与えられたであろうことは誰の目にも明らかだったからだ。

 今、話せることはこれが全てだ。

 

「それでは話し合いはここまでとします。あとは夕食の時間まで自由行動といたします」


 私はさらにメルゼム村長へと告げる。

 

「申し訳ありませんが、市民義勇兵の方で交代で歩哨を立てていただけませんか? 割り振りはお任せいたします」

「承知しました。すぐに手配いたします」


 村長が即答してくれた。職業傭兵の経験もあり戦闘時に必要な要素をことごとく理解してくれるのは何よりも助かる。

 

「では明日の準備を村の皆にも伝えてまいります」

「よろしくおねがいします」

「かしこまりました。では――」


 そう告げながら立ち上がる村長にアルセラ以下、村側の皆が動き始める。こちらの査察部隊の面々もそれぞれに散っていく。

 あとに残ったのは私とパックさんだけだった。


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