さあ街へ行こう!
たっぷりと英気を養った俺は、日も昇らない内に目を覚まし街へ向かう準備をした。
美猫姉妹には自動給餌機に再び高級フードを投入して、機嫌を取っておくことにした。
「お父さん、ちょっと街までは行ってくるからな。二人はお留守番お願いするよ。美味しいご飯はここに入れておくからな。ちゃんとお留守番出来たら、またご褒美上げるよ」
と言いながら、入れたそばからカリカリ食べ始めながらも、ウニャっと返事みたいに鳴いてくれたから、分かってくれたんだろう。
「あまり遅くならないようにするからな、行ってきます!」
と俺は玄関で叫ぶが姉妹の見送りはない……お父さんちょっと寂しいぞ。でもまあ思い通りには動かないのが猫の可愛さでもあるから、これはこれでありだ!
猫マップで周辺を調べてから、マウンテンバイクを倉庫から取り出しさっそく街へと走り出した。
まだ空は白んでいる程度なのでライトを付けているとはいえ、不正地走行するのはちょっと危険なので、街道を真面目に走っている。
よく考えると庭でトレーニングはしていたが、異世界に来てから初めての冒険だった。踊る心のトキメキをペダルに込めて、俺はどんどんと進んでいく。
十分ほど進んだところで、街らしい反応がマップの端に表示された。街までは約八キロってところかな?
遠くに街を取り囲む外壁らしき物と、塔のようなものが見えてきた。朝早くから出てきたのもあって、途中で他の馬車や旅人に出会うこともなく順調だ。
そろそろ目のいい門番だと自転車が見えてしまうかも知れないので、ここからは徒歩に切り替える。
異世界言語に関しては会話、読み、書き、すべて転生時に付与されていた。あとから猫神様から『猫語もいる?』と聞かれたんだが、悶え苦しむほど――心のなかで――悩んだあげく、それは丁重にお断りした。
通じない方が通じ合えるって世界はあると思うんだ。実際、俺と姉妹はきっと通じ合ってるに違いない。
遠くから見る分にはスケールが分からなかったが、視界いっぱい左右に伸びる外壁は圧巻で、昔、戦争でもあったんじゃないかってぐらいの防備に見える。
魔物がいるから、それが原因かもしれないけど。
まるで欧州へ史跡旅行に来たような感覚に囚われながら、その偉大な建築物に感動しつつ、俺は街の門にたどり着いた。
「おはようございます! お勤めご苦労様です!」
十五才の少年として元気よく、門番さんに挨拶してみた。一応服や靴、鞄などは土でいい感じに汚しておいたので、見た目は問題ないだろう。
「おはよう少年! 早いな」
「はい、大きな外壁が見えたので、感動して早く来てしまいました」
「ははは、確かにこの街の外壁は立派だからな。すまないが一の鐘が鳴っていない、まだ門が開けられないんだ、しばらく待ってくれるかな」
「分かりました! ちょっと周りを見てきていいですか?」
「構わないが、先に手続きだけ済ませておくか? まだ早い時間だが、混み合わないとも限らないしな」
「ありがとうございます、村から出てきたばかりで、あまりよく分からないのですが、通行税を払えばいいですか?」
「そうだな、ここや他の街の住民なら身分証があれば出入り自由だが、そうでないならここで通行税を払ってもらい、仮の滞在許可証を渡す」
「いくらですか?」
「銀貨一枚だ。大丈夫かい少年?」
「はい、大丈夫です! 頑張って貯めましたから」
首から下げた革のポーチから銀貨一枚を出して、門番さんに渡すと一枚の金属っぽいカードを渡された。
カードには中央に少し窪みのようなところがあるだけで、銀色の金属のようだ。
「そのカードの中央にあるへこみに、親指を乗せれば魔力登録される。魔力は三日で消えるから、その前に戻ってくるように。滞在延長する場合は初期化しないとダメだからな。まあそうなる前に、ギルド登録したりする人は多いが」
「わかりました。三日経っても戻らなかった場合は?」
「……捕まる」
「はい?」
「不法滞在で捕まった上、奴隷行きだ。だからちゃんと戻ってくるんだぞ、失くすなよ」
「わ、わかりました!」
緩いようで緩くないな、倉庫にいれて絶対になくさないようにしよう。どっかでギルド登録したほうが良さそうだな。
『カラ~ンカラ~ン』
そんなやりとりをしている内に、街の中から鐘の音が鳴り響いた。
それと共に門の付近からゴゴゴゴゴと、音がし始めて、ズズズと、大きな門が開き始めた。
「待たせたな少年、街の外を散歩するなら、二の鐘までが俺の当番だ。それまでに戻ってこい」
「ありがとうございます、ちょっと行ってきます!」
とりあえず、生きた歴史遺産な感じの外壁を堪能すべく、門の右側から外壁沿いをうろうろしてみた。
ゲームとかだと外壁沿いに裏手に回ったら、何故か地下に降りる階段があったりするけど、流石にこのスケールで裏まで回る気は起きないな。勇者どんだけ~。
しばらく歩いていると外壁に変化があった。戦いの跡なのか、壁が抉れている場所があり、そこに鳥が巣を作っていた。
「賢いなぁ……あれ?」
野生の知恵に驚かされていたが、ふと足元を見るとキラリと光るものがあった。
キラキラと小さな宝石が散りばめられた、銀色の髪飾りだった。
「ゲームかよ……あの鳥が見つけてきたのかな、カラスみたいなもんか」
とりあえず、落とし物は届けてあげないとダメだよね?
俺は髪飾りを拾って門に戻ることにした。
「門番さん! 落とし物って見つけたら、どうしたらいいんですか?」
「少年か、落とし物ってなあ……街の外で見つけた物は基本、見つけた人の所有物になる。が、何を拾ったんだ?」
「えっと、ちょっと自分の物にするには微妙な感じで……」
こんな高級そうなもの、勝手に売り払ったりしたら捕まりかねない。そう思いながらポケットから、先程の髪飾りを取り出して見せてみた。
「……確かに、これは……こんな街の近くで拾ったのなら、探している人が居そうだな。勝手に処分したら問題になる可能性もある。知らない振りをして別の街で処分するか、持ち主を探すかだな」
「そうですよね、勝手に処分する気にはなれないので、持ち主を探してみます。こういうのって、どこかで探し物依頼とか出てるんでしょうか、冒険者ギルドとか?」
「どうだろうなぁ、出ているかもしれないが何とも言えない。商業ギルドで噂ぐらいにはなってるかもしれないな」
「わかりました、とりあえず行ってみます!」
「どっちのギルドもこのまま大通りを真っ直ぐ行った、時鐘の塔がある中央広場へ行け。そうすれば、すぐに分かるはずだ。商業ギルドは三の鐘がならないと開かないがな」
親切な門番のお兄さんに見送られて、俺は街へ繰り出した。
ピロピロピロ~ン!
そして今まで聞いたことのない効果音と共に、猫マップに肉球マークが一気に表示された。
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