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ランチへのお誘いとヘンリーさまの用事



 ヘンリーさまとの約束のため、セカンドハウスの猫部屋へ転移したが昨日猫関係の家具を移動させたので殺風景だ。

 今までソフィーさまが使っていたベッドからだろうか? ほんのりいい香りが部屋に漂っている気がする。

 メリッサさんの目もないことだし、思う存分深呼吸してみた!


「ふぅ……」

 満足したけど、満足なんだけど何かが足りない気がした。


 門番さんに挨拶して商業ギルドへ向かう。事情を知らない人から見たら俺がお屋敷に住んでるみたいだよねこれ。


「おはようございます!」

 少年らしく元気よく、いつものように商業ギルドの受付へ。無言の圧力のようなものを感じ、向かう先はリーナさん。いや、用事あるみたいなこと聞いてたからね。


「タケル君、おはようございます。今日はなんのご用でしょう? それともお姉さんに会いにきてくれたのかしら?」


「えと、領主さまからの報酬の受け取りと、これをまた皆さんで食べてください」

 鞄から出す振りをして、倉庫からお徳用クッキーと、しっとりクッキーをカウンターに置く。


「あら、ありがと。この前お礼に貰ったクッキーは、ほとんどギルドのみんなに食べられちゃったのよねぇ」

 リーナさんの用件はこれか……。ヘンリーさまへ渡す分を考えても、まだ余裕あるし追加で出しておくか。


「そうなんですね、喜んでもらって何よりですが、一応リーナさんへのお礼だったので……」

 追加で取り出したクッキーたちを、さらにカウンターに置いた。これって贈賄にならないんだろうか……。


「なので、こっちはリーナさんがちゃんと食べてくださいね」


「えー、そんなぁ悪いよ……いいの本当に? 気を使わせてない?」


「もちろん、そのために持ってきたんですから」


「そっか、じゃあ遠慮するのも悪いわよね。ありがと、受け取っておくわ」


 何の茶番だこれ! 女性の多い職場への個人的なお菓子は、危険かもしれないことを学習した!


「それで、報酬の受け取りだったわよね」


「はい、カードですお願いします」


「はい、承りました」

 もう手順は分かっているので、ギルドカードの受け渡しをして報酬を受け取った。便利だよねこれ。


「それで、ヘンリーさまにも呼ばれていたのですが……」


「聞いているわよ、ちょっと待っていてね」


 そう言ってリーナさんが奥へ行っている間に報酬を確認する……また五百万円ほど残高増えてるよ! 領主さま、領地経営大丈夫ですか、こんな無駄遣いして!

 もう一回宝石買ってみるかなぁ、それで増えちゃうようなら今度から魔石で換金しよう。

 そんなことを考えていると、ヘンリーさまと、リーナさんが戻ってきた。


「ちゃんと来たようだな少年、だいたい察しているとは思うが、とりあえず用件を聞いてもらえるかな?」


「はい、でもちょっとだけいいですか? リーナさん!」


「え、私? 何?」


「今日のお昼を一緒にどうですか? お礼がお菓子だけというのも、悪い気がしていたので」


「そうなんだ……私が行ってみたかったお店でもいい?」


 これはちょっと、予定外だ。肉球マークのある宿屋へ突撃取材を敢行しようと思っていたのに、違う店では意味がない。


「そうなんですね、俺も行きたいお店があったので、今日は俺の行きたいところで、後日リーナさんおすすめのお店でいかがですか? ディナーでもいいですよ」


「あら、もう次のデートのお誘い?」


「え、いや、そういう意味ではないんですが、せっかくなのでどうかなと」


「な~んだ、違うんだ?」


「いや、違いませんけど……なんというか」


「ふふふ、いいわよ」


「え?」


「いいわよ、デート、してあげる」


「ありがとうございます、じゃあ――」


「――その代わり、今日は私の行きたいお店でディナー。私が満足したら明日のお昼はタケル君が行きたいお店でランチ!」

 完全に主導権を奪われてしまったが、綺麗なお姉さんとのディナーは有りか無しで言うと有りだ!


「それでお願いします」


「じゃあ、夕刻の鐘が鳴るころにはギルドの業務は完全に終わってるから、時鐘の塔の下で待ち合わせね。お店はお昼休みに予約しておくわ」


 予定とは違ったがまあいいや。


「話は終わったかね少年。上司の目の前で部下を口説くとはいい度胸だ。リーナ君も次回からそういったやり取りは、手紙でも使って個人的に行うように」


「「申し訳ございません!」」


 ヘンリーさまのこと忘れてたよ!それ以前にここ職場だよ!


「では、君たちの将来の話は後で勝手にしてくれればいいが、私の話をしようか。あちらの部屋に行こう。リーナ君、ついでだ、お茶を頼む」


 商談室のような部屋へ通され、ヘンリーさまとの向かい合って座る。


「少年には女性の二人や三人を養うだけの財力もきっと十分にあるだろうが、出来ればソフィーを悲しませないでやってくれないか?」


 ソファーに座るなりヘンリーさまが叔父様モードだ。


「そんなつもりは毛頭ございませんよ」


「ならいい、余計な話をしてしまったな」

 大丈夫ですよ、猫屋敷計画のためにちゃんと動いてますよ。雌猫だけじゃなく雄猫だって十匹や二十匹養って見せますよ!


「失礼致します」

 ノックと共にリーナさんがお茶を持ってきてくれた、こっちは真面目モードだった。


 ひとしきりお茶の香りを楽しんでから、ヘンリーさまが再び口を開く。


「娘がいるのだがな、もうすぐ王都から帰ってくるのだ」


「アンナさまでしたか? ソフィーさまから伺っていましたので存じ上げておりますが」


「そうか、それでだ、お菓子……甘味のことだがな。君が来てからお菓子という言葉に慣れてしまったが、娘は幼い頃から甘味を作ったりするのが得意でね」

 どこか懐かしむような顔をしつつヘンリーさまはお茶を一口含む。


「ただ、いつも満足はしてなかったようなのだ。ソフィーさまの母君が亡くなれ、寄り添っているときも、『もっと美味しく作れたら、もっと笑顔にできるのに』と悔やんでいたよ」


「それで王都へお菓子作りの修行へ?」


「いや、王都へ行ったのは単純に学業のためだ。我が娘のことながら優秀だったのでな。話は戻るが甘味についてだが、君から貰ったクッキーも、お茶も、とても素晴らしいものだった。君の異世界知識であれば、もっと素晴らしい甘味を作ることも可能ではないのか?」


「そうですね、知識も設備も用意することはできますが、実際に作るとなるとセンスも重要ですし、経験がもちろん重要になります。設備を整えたとしても、美味しいものを作れる自信はありません」


 男の独り暮らし料理ぐらいなら嗜んでいるが、お菓子を本格的に作ったことはない。せいぜいプリンの素とか、ホットケーキミックスで作る程度だ。

 でも、ヘンリーさまが求めてるのは、きっとそういうのじゃないんだろうな。


「娘が知らない、我々も知らない知識や、設備があるのなら十分だ。とても素直で聞き分けのいい出来た娘だが、甘味をつくっているときの悲しいというか、悔しそうな顔が印象的でね。使いこなせるかどうかはわからないが、チャレンジさせてやりたいのだよ」


「ではヘンリーさまのご自宅へ、お菓子作りに役立つ設備や道具を用意して、知識も授けろということですか?」


「そういうことだな、それに付随してトイレや風呂、水場の設備も用意してほしい。もちろん報酬は支払う、髪飾りと呪いを解いたときと同じ報酬、使用するであろう魔力として一級の魔石を二つ」


「…………」

 いやいやいや、だから金銭感覚おかしいって! あ、でも領主さまのお屋敷と同等にして、お菓子用の設備も導入すればそれぐらい必要なのか?


 いや、さすがに領主さまの浴室より広いということはないだろうし、家自体も大きくないだろう、たぶん貰いすぎだ。


「足りぬか……では――」


「――いえ、十分ですというか多すぎます!」


 経費と報酬のバランスを考えてるのを、報酬足りなくて渋っているように見られたっぽい。


「多いと言われてもだな、実際に同程度の依頼で報酬の前例があって、君が不服を申し立ててない時点で、相場が決まってしまったのだよ。トイレ、風呂、水場の整備にプラスして、甘味作りの設備と知識となると、最初に領主さまから頂いている報酬が最低ラインになる、それ以下には出来ぬ」


 不服申し立てできるのかよ! 多すぎます、減らしてくれと言うのは、不服になるのだろうか?


「わかりました、でも無駄になるかもしれませんよ? 本格的なお菓子作りとなると、私も経験がないので知識だけで用意します。不足も出るかもしれません。そのときはさらに設備を追加する、アフターサービス込みで承りましょう」


「そうか受けてくれるか! 無駄になっても構わぬよ。親バカかも知れぬが、物さえ与えればなんとかしてくれる予感はしているのだ、そういう子どもであったからな」


「そういえば、お誕生日も近いのでしたね。ソフィーさまと相談していたのですがパーティーをしませんか? お料理も私の故郷の料理を提供しますし、お菓子も誕生日にぴったりのものがありますので、お菓子が好きな人ならきっと喜んでいただけます」


「そうか、ソフィーが……アンナも今のソフィーを見れば、きっと驚くだろうな」


「問題は、こういったパーティーはサプライズ、予想外でビックリさせると言うのが定番なので、なるべく到着する日が正確に分かると助かるのですが」


「王都からこの街までの道のりで、一つ手前の宿場町で必ず宿を取って休息するのだが、宿場町に付けば伝書鳩で連絡が来ることになっている。迎えと、護衛を兼ねて、こちらから馬車を出すのだが、その時点である程度は到着は予想できる」


「宿場町からこの街へは、どれぐらいかかりますか?」


「一の鐘がなってから宿場町を出るのが普通で、夕刻の鐘が鳴り、門が閉じる終の鐘がなるまでには余裕でたどり着けるはずだ。迎えが到着して一泊して、また朝に出発する予定だ」


「遅くても半日かからないということですね? 迎えの馬車に、私が乗ることは可能ですか?」


「可能だと思うが?」


「では、その馬車に私が乗り、宿場町の手前で降ろしてもらいます。そこで連絡用の家を建てます。馬車には私がわかるようにマーキングしますから、出発すれば電話で知らせます。この街の郊外に私の自宅があるので、そこで再び馬車を待ち、通過すればまた電話で連絡します。これで現状可能な限り到着時間を絞り込めます!」


「なんともまあ無茶な話だが、少年なら可能なのが恐ろしい……。そこまでして『サプライズ』とやらを成功させたいのかね?」


「こういうのは徹底的に楽しまないとダメなんですよ、ソフィーさまにもぜひ喜んでもらいたいですからね」


「そうか、ソフィーのためでもあるか……それで報――」


「――お金なんて要りませんよ、私が大切な友人であるソフィーさまと、そのご友人のアンナさまのために、勝手にやるだけです。むしろを場所を提供していただくのですから、こちらが支払わなければ!」


「自分の娘のパーティーで、金を受けとる親がいると思うかね?」


「王族のお姫様のパーティーなら、献上品など普通ではないのですか?」


「なるほど、確かにそうだな」

 俺の例えも極端だったので、ヘンリーさまも苦笑いだ。


「では、そういうことで早速、ヘンリーさまのご自宅を改装したいのですが、何時に致しましょう?」


「今日は一日予定を開けてあるのでいつでも構わないが、少年次第となる」


「では、善は急げと申します、さっそく向かいましょうか」


 という訳でヘンリーさまの自宅まで、今から馬車の手配をしているとお昼になりそうなので、昼食を終えてからということになった。

 俺が行きたかったお店へ、ヘンリーさまがお供してくださると言ってくれたが丁重にお断りしたよ。

 綺麗なお姉さんと行ける可能性があるのに、なんでおっさんと元おっさんの二人でランチしなきゃならんのだ!


お読みいただきありがとうございます。

猫成分が不足ぎみで申し訳ございません。

しばらく毎日更新ですが、時間は不定期なのでブックマークしてもらえると更新チェックが捗りますよ。

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