異世界保護猫譲渡活動
暖かい気配に目を覚ます。
最後に感じた背中への激痛も今はない。
あれだけ不快だった雨に濡れた服の感覚もない。
ついでに全身の感覚もない。
そして思い出す――
「子猫!!!」
とても大切なことを思いだし、意識が一気に覚醒する。それと共に視界も開けるが一面真っ白だ。
体の感覚もやはりなく、それを視界で認識することも出来ないでいた。
「おお、意識が戻ったか」
視界の中に人影が視える。ギリシャ神話に出てきそうな白いローブを纏い、灰色の長い髪に真っ白な長い顎髭を蓄え、杖をついたお爺さんだった。
「ニャ~」
そしてそのお爺さんの足元に真っ白な猫。ペルシャ猫系だろうか? 特徴的な表情だが、いい感じにまとまっていて非常に可愛らしい。
「ここはいったい……やっぱり死んじゃったかなぁ、やばい音がしたしなぁ、ずっと濡れてて体温も下がってただろうし……」
目の前のお爺さんに確認するように独り呟いた。
「あの子たち大丈夫かな……」
「ニャ~」
その呟きに反応するかのように白猫が鳴いた。
「あの二匹の子猫なら元気じゃよ、ちゃんと保護されておる。まあお主は死んでしまったがな」
「そうですか、それならよかったかな。未練がないとも言えないけど死んじゃったものは仕方ないかな。宝くじで夢のマイホーム! 夢のマイもふもふ……したかった……。あ、モフっていいですかこの白猫さん」
「ニャ~」
良いよって言ってるよね、モフっていいよね、あ、モフれない、体がない。
「はっはっは、残念じゃがお主は今、魂だけの存在じゃからのぅ」
「モフりたいのに、モフれるのに、モフれないこの辛さ」
「お主、生き返りたいか?」
「生き返れるんですか!?」
モフれない悲しみに射した一筋の光!
「まあ出来ないこともないが、条件もあるな。まあ悪い条件ではないとは思うが」
「聞かせてもらってもいいですか?」
「まあ簡単に言うとじゃな、元の世界には戻れないんじゃ。肉体はすでに無いからな。生まれ変わらせることも出来ん、お主の魂をここに呼んだ時点で輪廻の理から外れてしまったからのぅ」
「ニャ~」
「という訳でお主には地球とは違う異世界へ転生してもらうという選択がある。ただし、その世界には猫はおらん。魔法はあるんじゃがの」
ぜ、絶望した! 生き返っても、猫が居ない世界なんて!
「まあ慌てるでない、そこで相談なんじゃがその異世界で猫を保護してやってくれんかのぅ? 地球世界ではまあ猫だけではないが、多くの猫が捨てられ保護されておる」
「ニャ~」
「保護されていればまだマシじゃが、殺処分されてしまったり、保護されても病気で亡くなってしまったり、幸せに暮らせるのは一部でしかない」
「ニャ~」
「そういった幸せになれん猫たちを異世界の住人へ橋渡ししてやって欲しいのじゃ。もちろん自分で保護してもよいぞ」
ちまたで溢れいてる異世界転生な話に、自分が巻き込まれるなんて思ってもみなかったが、この話美味しいのではないんだろうか。
「保護できる猫は選べるんですか? あの二匹が気になるので、出来れば自分で保護してあげたいんですが……あと保護すると言っても、住む場所や、身を守る手段、猫を含めて生活していくサポートなどがないと、厳しいと思います」
「お主に関しては好きな猫を選べばよいが、他の者に関しては、その人物が求めている性格や、容姿、などからいくつかマッチングされて選ぶようになっておる。といっても、ほぼ決まっているようなものじゃがな、運命という奴よ」
「ニャ~」
「住む場所はスキルを与えるから、好きにすればよい。夢のマイホームじゃったか? 家を作るスキルを与えよう。作るのに予算は必要じゃが、地球で最期に当選しておった十億円の予算があればなんとかなるじゃろ」
十億円くれるって太っ腹だね!
「豪邸を作るもよし、いくつも家を持つのもよし、予算は大事に好きに使えばよい」
家を作るスキルって、結構チートじゃないでしょうか、夢が広がりんぐです。
「異世界の食事事情とかよくわからないのですが、その辺のサポートはどうなります? 俺はまあなんとでもなりそうですが、猫フードとか猫グッズとか、猫の居ない世界に馴染んでもらうには、ある程度必要だと思うんですが?」
「ニャ~」
なんかさっきからお爺さんというより、白猫と話しているような感覚に陥っている。
「家に関する設備は地球のものを、ほとんどすべて置けるようにはしておくぞ、もちろん金は掛かるがの。猫関連のものは異世界通販のような形で、購入できるようにしておく。日本を含めて地球関連の食材も、同じく通販出来るようにしておくが、それなら問題なかろう?」
米、味噌、醤油、ゲットだぜ!
「身を守る手段とかは? 異世界とか、危険がいっぱいじゃないんですか?」
「ニャ~」
やっぱり白猫さんが返事してる気がしてきたぞ。
「まあ危険な魔物がおるのは居るんじゃが、そういった危険地帯は避けて転生させるつもりじゃ。健康な身体と毒や、病気の、耐性は付けておこう。対人関係の煩わしい悪意は、猫神様の加護でなんとかなるじゃろ」
「猫神様ってその白猫さんですか、ひょっとして?」
「ニャニャ」
「そうじゃよ、そちらが本体でワシは代弁者みたいなもんじゃ。お主も英雄願望があるわけではなかろう? 過分な力は身を滅ぼすだけじゃ。努力すれば魔法も使える世界じゃし、訓練すれば剣などで戦うこともできるじゃろう。だがお主は十分に地球で戦ったのだから、新たな生は猫たちとまったりスローライフってやつで十分じゃないかのぉ」
「そうですね、今はとりあえずゆっくりしたい気分ですし、剣や魔法で魔物と戦うって柄じゃないですし」
「ニャ~」
「ま、そういうことでさっそく転生させるとするかの。細かい説明はマイホームのスキルや、保護猫召還スキルの、ヘルプを見ればよいじゃろ。何か問題があれば数年は様子を見ておるから、その都度サポートする感じでよいじゃろ」
「ウニャ、ウニャ、ウニャ、ニャ!」
猫神様の鳴き声と共に、肉球スタンプ的な金色の魔方陣が広がり俺の意識は吸い込まれていった。
お読みいただきありがとうございます。
2019/12/10
サブタイトル変更しました。